最後の魔女44:作戦開始

 偵察に来た魔族は撃退出来たけど、また来るかもしれない。このまま何もせずこの場所にいるのは危険。


「取り敢えず、ダーブルまで戻る」


 一行がダーブルまで向かっている道中、往来できないように馬車が道を塞ぐ形で立ち往生していた。

 当然、事故などで立ち往生しているわけではない。


「間違いない! 情報通りだな」

「へっへっへ、見つけたぜえ、元姫様よぉ」


 あーあ、うざい。どうやらニーナの追っ手らしい。

 にしても、数が多くない?

 馬車2台からズラズラ降りて来るわ来るわ、その数なんと24人。いつの間にか 後ろからも回り込まれてる。

 仕方がないから馬車から降りる。


「姫様以外は必要ないから好きにしていいぜ」

「うっひょー! まだガキだが、中々の上玉だぜぇ」

「悪く思うなよ? あんたにかかってる懸賞金頂くぜ」


 あーうざいうざい。っと懸賞金? なにそれ? 一体誰がそんな事を?


「それ誰が出したの」

「あぁ? ガキには関係ねえ。痛い目みたく無ければ素直に姫様を渡しやがれ!」


 こいつらはベラキール王国とは全く関係ない、ただの盗賊崩れ。極秘裏に依頼されたニーナの懸賞金に目が眩み実行に移したらしい。

 ちなみに依頼を出した輩は特定出来なかった。

 魔法を使って自供させたけど、誰も知らなかった。


 リグにより一瞬で無力化させられた盗賊たちは、木に括り付けて放置しておく。

 盗賊の馬車は粉微塵にし、使えそうな物は有難く頂く事にする。


 今、私たちはダーブルの宿屋の一室に身を寄せていた。

 やっと落ち着いて考える事が出来る。


 考える事は勿論これからについて、話し合う為なのだけど、、リグと駄猫はさっきから狭い部屋を駆け回っていて何だか騒がしい。


 私が進行? やだなぁ、面倒くさい。


 さっきベラキール王国跡に潜入しているミーアから連絡が入る。

 ベラキール城の地下牢に、魔界と地界とを繋ぐ転移門が設置してあったと言う。


 私たちが今いる地上のことを地界。魔族たちがいる世界の事を魔界と呼ぶ。

 転移門は2つ設置してあり、地界に渡る用と魔界に帰還用とに分かれている。

 聞くところによれば、中々に高価な代物らしい。


 いいことを聞いた。


 それと耳寄りな情報として、まだ魔王は復活していないとの事。

 てっきり、魔王が復活したから今回大々的に進軍して来たのかと思ってたんだけど。


 しかし、良い情報があれば悪い情報もある。


 何でも、今回地界に降り立っているのは比較的若い魔族。実力的にはそこまで強くない奴等。


 うん、それだけならば良かった。


 だけど今回は、魔王軍の幹部が1人参戦するらしい。どうやらそいつが指揮しているという情報。

 実力の程は未知数だけど、前大戦の時は幹部1人を倒すのに数百人規模の屈強な戦士たちが犠牲になったとまで言われていた。

 これ、相当数な数を投入しないと人族は結構厳しい気がする。


 さて、これから私たちがどう動くかを決めなきゃね。


「みんな、聞いて」


 私の考えた作戦はこう。


 1.魔界で騒ぎを起こす。

 2.騒ぎを聞きつけて地界にいる魔族が魔界へ戻った所を地界に渡る転移門を破壊する。


 これで地界を攻める戦力を大幅に削ぐ事が出来且つ魔王軍は撤退せざるを得ない。我ながら完璧な作戦。


「でも、騒動が起きたとして魔界にいる魔族だけで解決しちゃうかもしれませんよ」

「確か魔界に入れるのは魔族だけですよ、お姉様」


 私は大地に両手と膝をつく。

 まさにorzのポーズ。

 項垂れていた私の頭の上に駄猫がお手をする。


 その瞬間、駄猫は黒焦げになり転げ落ちる。


「にゃがぁぁ、、酷いにゃ⋯」


 ご主人様の頭の上に腕を乗せるなんて万死に値する。

 リグも当然のように頷く。


 私の完璧な案は2人に却下された。


「私なら転移門を通過出来る」


 うん、そうだったよ。確かに人族には通行出来ないけど、魔族だけじゃなく、私ならたぶん通れるはず。


「流石お姉様! それならば、お姉様が魔界で、すんごい騒ぎを起こして、地界の魔族を根こそぎ魔界に戻して、その隙に転移門を破壊するんですね!」

「で、でもそれでしたら、リアさんがこちらに戻ってこれなくなってしまうのでは?」

「ご主人様は転移が使えるにゃ。だから転移門を使わなくても戻ってこれるにゃ」


 実は過去に一度だけ魔界に行った事がある。

 あれは、魔界と行っても端の端の方だったけれど。

 その時は転移門とは別の方法だったけど、帰る時は確かに転移を使う事ことが出来た。

 まぁ、最悪もしもの時の為に保険もあるから大丈夫かな。


 はぁ、でもまさか言い出しっぺの私自身が魔界に潜入する羽目になるとは⋯。


 あれ、でも潜入は私でなくてもリグでもいいんじゃない?

 リグも転移門は潜れるはずだし、転移もあるし。


「リアさんならもしかしたら可能かもしれませんね」

「お姉様まじリスペクトです!」


 ぐぬぬ⋯今更、面倒いから私やだなんて言えない。


「ご主人様が誤爆したにゃ」


 くっ、流石私の眷属⋯今のが本心じゃないと分かってる。


「お姉様! 最大限にお手伝いします。集中出来るように邪魔者は排除しますよ!」


 なんでリグはそんなにノリノリなの?


 結局、次の日の朝を迎える。


 私たちは、故ベラキール王国から程近い荒野へと足を運んでいた。遠目に王国が視認できる距離だ。


 今この場には、私の眷属が4人と1匹。

 今の私が無理なく同時召喚出来る限界が5体。


 駄猫、闇王ベテルギウス、剣鬼リヴェル、剣神シャモン、龍王ヴァーミリオン。

 リグとその眷属の黒騎士。

 ニーナを入れて8人と1匹。


「作戦は今朝話した通り」


 私以外は全員この場で待機。で、不可視の魔法で私が単騎で攻め込む。転移門を潜った先で地界移動の転移門を破壊する。眷属たちを召喚し、魔界で暴れさせる。

 地界側の応援を待ち、数が減った所でリグが総攻撃を仕掛けてこの戦いを終わらせる。


 正直今の魔族の強さは私にも分からない。

 雑魚は何人いても問題ないと思うけど流石に幹部はヤバい。

 離れているのに今この場にいても幹部らしき人物の威圧感をビリビリ感じるもん。

 私は強い。などとは自惚れてはいない。

 死ぬときはいつだって一瞬の油断。不注意から起こりうる。死はいつだって理不尽なのだから。


「リヴェル、シャモンは地界の魔族の制圧をリグと一緒にお願い。駄猫はニーナの護衛」


 2人と1匹が頷く。


 本当はニーナには宿で待機していて欲しかったのだけど「私一人が安全な場所にはいられません」の一点張り。

 だから、作戦が佳境に入るまではリグたちと一緒に居てもらう事で何とか話がついた。


 はぁ、疲れた。

 やっぱり1人が楽。だって、誰も気遣わなくてもいいし何も考えなくてもいいから。


「それにしてもお姉様、そのお面は何ですか?」

「顔バレしない為」


 だって、これから魔族に喧嘩を売るんだもの。顔バレしちゃうと、今後の生活に支障をきたすよ絶対。

 昔、露店で気に入って買った狐の仮面。実際に被って外に出るのは初めてだったりする。


 さて、話すことは全て話したし、作戦開始。


 私は自身に不可視の魔法を使う。


 そのままステステと魔族の蔓延る故ベラキール王国へと向かう。


 王国と言うだけあり、外周は堅牢な門で覆われている。

 当然門は見上げる程の大きさの扉で閉ざされている為、容易に潜入などさせてくれない。高台には見張りの魔族の姿が数人確認出来る。

 今なんか目があった気がしたけど気のせいだと思いたい。


 どうするかな、待っても門は開けてくれないよね。

 仕方がない。浮遊魔法で颯爽と空から潜入する。

 そのまま、ベラキール城まで一気に侵入する事が出来た。

 ん、城に入った瞬間に極々僅かな小さな何かの抵抗を感じた。それは薄い薄い紙よりも薄い膜を通り抜けたような。

 何だろう?

 それにしても緩い。こんなにも簡単に本拠地にまで潜入出来るとは思ってなかった。

 そう、それはまるで誘い込まれたように?


 ん、あれ? 私囲まれてる?

 何で? まさか見えてるの?


「まさか見えていないと思っていたのか?」


 うわバレてた。


 私は不可視の魔法を解除し、魔族たちの前に姿を現した。


「怪しげな妖術使いか。わざわざこんな所まで侵入してくるとは、人族側の回し者であろう」


 顔バレしないように怪しげな能面を被っていたのもあり、変人扱いされてしまった。

 それにしても何でバレたのだろうか?


 ここは城内の中庭。

 中央に私、その周りに殺気立った魔族がズラリと20人程。


 まさに絶対絶命⋯でもないかな。

 実際に対峙してみて初めて相手の実力が分かる。

 コイツらは弱い。


 と言うわけでこれ以上集まってくる前にさっさと片付けてしまおう。


 《影沼マッドシャドー


「なんだこいつは!」

「足が動かねえ!」


 突如現れた黒いモヤモヤが魔族たちの足元で蠢いている。

 そのまま足を掴み地面へと呑み込む。


 ただ踠き逃れようとする輩もいれば、せめても私に反撃をする輩と様々だった。


 飛んで来る魔法を魔術反射結界ターニングサークルで応戦する。


 僅か1分足らずで周りは静けさを取り戻した。

 痕跡も全て地面の中だから、多少の時間は稼げるかな。


 遠くから追っ手の駆け寄る足音が聞こえたので再び不可視の魔法で姿を隠した。


 ぞろぞろと来るわ来るわ、さっきの倍くらいの人数に取り囲まれてしまった。


「なんだ? 誰もいないぞ」

「そんな訳あるか、さっきまでここで侵入者と交戦中だと連絡があったんだ」


 更に続々と魔族たちが集まってくるが、誰にも私は見えていないみたい。

 じゃあ何故さっきはバレてしまったんだろう?

 もしかして、城に入った時の妙な違和感のせい?


 用心はした方がいいかな。

 見えないからと言って堂々と見晴らしのいい場所を通るのはやめよう、うん。


 なるべく物陰に隠れながら目的地である地下の転移門の場所まで進んだ。


 さてと、魔族の幹部とか言うのに出くわさずにここまでこれたのはラッキーだった。


 さてさて、門の前には、いかにも強そうな筋骨隆々の門番が2人。


 あ、この2人強いね。

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