最後の魔女13(教会の闇2)
「はい、勿論それは承知しています。ですから、アグヌスに戻られるまでの間だけの臨時聖女様としてお勤め頂きます」
少しだけピリッとした空気に肝を冷やしたが、あんまり反抗的な態度を取っていると危ない気がするので取り敢えず応じることにする。
「それでしたら⋯」
私がここ王都で臨時聖女の任を授かってから既に数日が経過していた。
良いこともいくつかあった。
今までは、大聖堂とは離れた宿舎で寝起きしていたけれど、聖女に任命されてからは、シオン様が使用していた大聖堂内の寝室を利用させてもらっている。
言われたからではなく、私の方からお願いした。
だって、ここなら隠し部屋まで直通だしね。
寧ろここからしか行けないしね。
一番嬉しかったのは、寝る時まであったうっとおしい監視が居なくなった! 正直もうほんとにやめて欲しかった。途中からなんてもう自己暗示で、誰もいない誰もいないと思って耐え凌いでいたんだから。
監視が外れた時は、往年の疲れが枷が外れたような喜びが込み上げてきた。
聖女の仕事といっても、今までとやることは変わらない。シオン様と2人でやっていたことを1人でするだけのこと。
使いパシリの仕事がなくなったので、その分楽になったような気はするけど、今と昔どっちが良い? って聞かれたら間違いなく昔って答える。
だって、常に私一人で、周りに気の許せる人がいないのって辛いよ? 鬱になるよ?
なんだかんだ言って、シオン様は口うるさいお姉ちゃんみたいな感じだった。今になってその有り難みが良く分かる。
そんなある時、この王都の重鎮を名乗る人物が私に接触してきた。
「聖女はいるか?」
まだ公務中だというのに、参拝者も治療を求めて来ている人もいるのに、そんなことは御構い無しとズケズケと聖堂内へと入ってくる。でも相手が相手なので、無視する訳にもいかない。ていうか、私の付き人をしているヤンさんが「すぐに挨拶して下さい」と言っている。
このヤンさんだけど、凄い有能なんだよね。私のスケジュール管理まで担当してくれている。少し口うるさい所はあるけど、私が聖女の公務だけに集中出来るように他を全部やってくれるのだ。雑用まで嫌な顔一つせずにやってくれる。私には勿体無いくらい良く出来た付人なんです。この人だったら、私の力になってくれる気がする。
「私がこの王都で臨時の聖女をしておりますアンと言います」
私を品定めするかのように上から下へと視線を下ろしていく。
この人、初対面の人にましてや女性に対して失礼なんじゃないかな!
「まだ若いな。そんな小さななりで聖女の仕事をこなせているのか?」
悪かったわね! 余計なお世話よ!
本当なら平手打ちでもかましてる所よ。グッとこらえて、愛想笑いで乗り切る。
「はい、まだまだ覚えることはいっぱいありますけど、精一杯頑張ってます」
精一杯の作り笑顔。
あれ?
ヤンさんの顔が微妙に引きつってない?
私の作り笑顔がマズいのかな⋯
などと考えていると、私への興味が失せたのか、重鎮さんは、そのまま修道士の一人と話をして帰っていった。
「さっきの方はミハエル様。この国の大臣の一人です」
「そんな偉い人だったんですね」
「あと、一つ忠告です。作り笑顔の練習をされた方が宜しいかと」
「え、そんなにバレバレだった?」
「それはもう⋯」
う、うぅぅ、恥ずかしい。穴があったら入りたい。と、取り敢えず今晩から作り笑顔の練習をしなくちゃと心に誓う。
その日の夜に修道士の人に呼ばれた。
あの時、ミハエル様と話をしていた修道士の人。
「アン様。ミハエル様から伝言が御座います」
ほらきた! てかもう来たの? 早くない?
嫌な予感がするなぁ。
適当に聞き流そうと思っていたのだけど、そうもいかない用件だった。
「1週間後の公務終了後にミハエル様宅まで来るようにと仰せつかっています。これが地図です」
可憐な少女の私を家に招待するとか何?
変な想像しかしないんだけど?
嫌々ながら私は地図を受け取った。
寝室へと戻った私は、レイランに会う為に地下へと降りた。
「実は、ミハエル様っていう人の自宅に呼ばれたんだけど、私大丈夫かな?」
「ミハエルといえば、大臣の一人ですね。シオン様の危険視リストに入っていますので、十分に気をつけて下さい。寧ろアン様の身の安全を考えるならば会わない方が得策です」
「でも断ったりしたら、逆に不信感を与えないかな?」
「では考え方を変えましょう。潜入して何か教会の悪事の証拠を掴んで来て下さい」
「むりむり! 潜入なんてむりだよ!」
「何の為の聖女の力ですか?」
私はジト目でレイランを睨む。
「むー、、レイランって、時々厳しいこと言うよね?」
「此の世界で生きていく為にアン様には強くなって頂く必要がありますから」
レイランはニッコリと微笑む。
何その眩しい笑顔!
私、直視出来ないんですけど! やめて! 目が潰れちゃう!
「いやでも、その、うーん、私に出来るかな?」
「大丈夫ですよ。自信を持って下さい」
そんなこんなであっという間に1週間が経過し、私はミハエル様宅を訪れていた。
「それで、私に何か御用でしょうか?」
「相変わらずキミは態度がデカイな。私を誰だと思っているんだ?」
「この王都の大臣様ですよね?」
「分かっているならば、もう少し敬いたまえ」
やな感じだね。何様のつもりなのよ。
あ、大臣様か。
でも、こういう人って私は嫌い。自らの権利をチラつかせて私は偉い! だから言うことを聞け! みたいなの、ヘドが出る。
私が毛嫌いするような目でミハエル様を睨みつける。
「まあいい。お前をここに呼んだ理由を教えてやろう」
さぁ何処からでもかかって来い! 私は、いつでも逃げれるように準備をしているんだから!
事と次第によってはすぐに逃げ出す必要があるから。それはレイランからも強く言われていた。
少しでも危険を察知したら逃げろって!
「前聖女がなぜ殺されたか、お前は知っているか?」
「ふぇ?」
身構えていたぶん、予想外の質問に一瞬たじろいでしまった。
「教えてやろうか?」
ニヤニヤしながら私の顔色を伺っている。気持ち悪い。もしかして、私の動揺を誘ってる? 反応を見てる? これって、私がどこまで知っているのか反応を見て判断しようってこと?
もしそうだとしたら、変なことを口走ったら駄目だよね。
なるべく平静を保たないと。
「シオン様は聖堂に侵入した賊の手にかかって命を堕としたのではないのですか?」
うん、間違ってないはず。
「ハハハ、まさか本当にそう思っているのか?」
「ち、違うのですか?」
「聖堂は厳重警備がしてあるのだぞ? 賊如きが侵入出来るはずもないだろう」
鬱陶しいなぁ、まったく。
本当は真実を知ってるんだよ! っと暴露しちゃおうかって一瞬思ったんだけど、ミハエル様が遮る。
「殺されたんだよ。教会側の送り込んだ暗殺者にな」
なんで教会側のこの人が私にバラしちゃてるの?
何がしたいのこの人?
それとも教会側の敵? ならば私の味方?
その後、私の動揺した表情を楽しむようにベラベラとシオン様が殺されてしまった理由や教会の秘密について話し出した。
私は、わざと動揺したそぶりをしつつ、一言たりとも聴き漏らさまいと耳を傾けていた。
で、最後にミハエル様が衝撃的な一言を告げる。
私はなぜ教会の秘密をここまでベラベラと私に喋るのか理解出来なかった。
だけど、その一言で全て分かった。
「私の養女となれば、お前の身の安全は守ってやる」
寒気がした。
ありえない、養女って何?
「養女にして、私をどうするつもりなんですか?」
本音が出てしまった。
あまり突っ込んだ質問をすると怪しまれる。
でも、間違ってない、別に普通な質問のはずだよね。
「聖女を自分の養女に出来れば、行く行くは私も元老院となるチャンスが巡ってくるかもしれんのでな」
あ、そういうこと。自らの昇進が目的なんですね。
でも、ちょっとホッとした。だけど、そんなの答えは決まってる。
「お断りします!」
私はそれだけ告げると、逃げるように部屋から出た。
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