第2話 食事

 その日から早速困った事がありました。小僧さんは、誰とも一緒に食事が出来なかったのです。小僧さんと食事を摂ろうとすると、皆不調を訴えるのでした。

「その子と食べていると悲しくなります。」「その子と食べていると、胸が苦しくなります。」小僧さんの悲しみが皆に乗り移るようなのです。皆一様に困り果て、和尚さんの所に相談に行きました。


 すると和尚さんは、その日から小僧さんと一緒に食事をすることにしました。小僧さんを前にしての食事が始まりました。小僧さんは食べながら、深い悲しみを発するようでした。それは周りにいる者にも移る位の、深い悲しみなのでした。そんな小僧さんと一緒に食べていると、皆箸を止めてしまうのです。悲しみのあまり、食べていられなくなるのです。


 小僧さんの悲しみとはこうでした。

 彼は生まれてこの方、ずっとお母さんと一緒に食事をして来ました。その中で生まれた悲しみなのでした。彼のお母さんは、決して愛情を与えようとはしませんでした

。ただ栄養のバランスが取れていればいいと、考えていただけなのです。ずっとそんな食事をして来た結果、彼は食事の度に、言いようもない深い悲しみに襲われるようになりました。


 そんな小僧さんを前にして、和尚さんはひたすらごはんを食べ続けました。ゆっくりと悲しみを吐き出させる事が、必要だと思ったからです。


 食事の間中、ずっと悲しみを吐き出し続けている小僧さん。そんな彼との食事は、やはり大変なことでした。しかし和尚さんは、そんな小僧さんを暖かく見守りながら

食事をし続けました。


 するとどうでしょう。小僧さんの悲しみが、少し薄らいでいくようでした。彼は生まれて初めて、理解者に巡り合えたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る