時ちゃんなんてしんじゃえばいいのに

ユークリウッド

時ちゃんなんてしんじゃえばいいのに

第1話私と時ちゃんの関係

プロローグ

――私と時ちゃんの関係――


 私と時ちゃんはいつも一緒で、生まれた病院も育った街も、お家だってお隣さん。私も時ちゃんも一人っ子だから姉妹同然の関係でいた。

 それはすごい偶然なんだよってお母さんは笑い飛ばすけど私はいまだに信じられない。でもそれが偶然じゃないならお母さんとお父さんの出会い方だって信じられない偶然だったんだ。

 だから私と時ちゃんのお部屋はもちろん向かい合う位置で、間には塀と窓があるだけ。建物の高さがあるから時ちゃんのお部屋の方が下側だけどね。

 おかげで大声を出したり音楽を流したら聞かれちゃうくらいの距離がある。だから私のお部屋にはテレビやスピーカーなどの音が出る機械は置かないことにしてる。そういうのは居間で十分なんだ。

 だけど時ちゃんはゲームが好きみたいで、夜中とか時ちゃんのお部屋に明かりが点いてる時に銃弾の音が聞こえてきたりする。うるさいけどきっと注意するほどではないのでいつも黙ってる。

 そんな小うるさい時ちゃんの容姿は、肩口まで切り揃えた長さの天使の輪が現れる綺麗なストレートの髪で、小顔で着物が似合う和服美人な感じ。クラスでも一、二を争う美少女だと男子の間でも人気だ。

 なので私は時ちゃんに負けないように毎日髪をブラシッングする。私の髪は天然パーマがきつめで茶色く、自分でも驚くくらい元から茶色いので綺麗な黒髪をもつ時ちゃんが羨ましい。

 それから時ちゃんの本名は時巻時子(ときまきときこ)っていうの。私が時子って呼ぶのは変と思ってから自然と時ちゃんと呼んでいる。でも時ちゃんは私のことをあだ名で、こーちゃんて呼ぶ。小学校入学式まではくーちゃんだった。私の本名は寺田倉莉(てらだくらり)。「こ」のつく文字なんてどこにもない。最初は誰の事を呼んでいるのか分からなかったので戸惑った。昔のあだ名で呼んでほしいと日々思う。

 でもたぶん、私のあだ名が変わったきっかけはあの事件に関係してると思う。時ちゃんは小学校入学式の前日に親を亡くしているんだ。代わりに親戚のおじさんが親代わりになったみたいだけど、その人物と私が会ったことは一度もない。この事件が私のあだ名が変わったきっかけなんだよね。

 そんなこともあって、私の隣にはいつも時ちゃんがいるんだ。小学五年生にもなって私には時ちゃんしか友達がいないふうに感じる。本当は前のや後ろの席の子とかとたくさんお話してるからそんなわけじゃないんんだ。友達に私を取られたくなくて、時ちゃんが積極的に話しかけてくるだけ。

 べつにいじめられているわけじゃない。今時いじめは流行らない、と教える小学校の先生たちが優秀すぎるおかげで私の通う小学校は暴行が禁止されて平和な場所なんだ。だから学校では時ちゃんは無敵で、私は時ちゃんに対して一切の暴力暴言行動をしてはいけないんだ。じゃないと先生が駆けつけてくるからね。

 だからだっけ? 私は毎日日記をつけている。内容は時ちゃんの観察。別に暇だからとか時ちゃんが気になるからとかそんなのじゃない。そうしないと、時ちゃんっていう人が分からなくなるからなんだ。

 時ちゃんは私も知らないことを知っている。いつも……ほぼ一緒にいるはずなのに、今日の先生のネクタイの色、校長先生のお話の終わる時間、果ては私のお弁当のおかずとか気持ち悪いくらい変なお話をいっぱい知ってるんだ。とはいえ、テストの答えとかまでは知らないみたい。

 でもなんでそんなことを知ってるのか不思議になる。だから日記を書くんだ。もしかしたら、時ちゃんはテレビでよく話題になる予知能力者なのかもしれないからね。


 そしてひとつだけ、クラスや先生たち、お父さんお母さんとか親戚、まわりのみんなが勘違いしていることがある。

 それは私と時ちゃんが大の仲良しだっていうこと。

 ねぇ時ちゃん、いい加減しんじゃって私に付きまとわないで欲しいんだ。


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