女王陛下と元狂科学者の事件簿―The Queen Majesty and Frankenstein's Case File―
丹羽玲央奈
第1話 平穏な日々は既に無くて――
「お医者様はご存知ですの?
「えぇ、
――嘘だ。俺は全て知っている。
そんな医者――エリックの心情にも気付かずに、水色のドレスを
「死体を継ぎ接いで
――俺だってそう思う。
ロザンヌの言葉は止むことがなく、むしろ
「ねぇ、先生。フランケンシュタインって存在すると思いますの? 医者としての先生のご意見をお聞きしたいですわ」
「フランケンシュタインなんて存在しないでしょう。あったら私たち医者の仕事がなくなってしまうじゃないですか」
「先生のおかげで安心しましたわ。あんなおぞましい継ぎ接ぎだらけの怪物が街を
ロザンヌはホッ、と安心したように胸を撫で下ろした。どうやら彼女は本当に怪物を恐れていたようだ。
その表情からは安堵の色が見える。
「えぇ、それはよかった」
――あれは全部本当の話だ。あの
俺のせいで喪うことになった恋人、家族のことを思うと、自分の不甲斐なさに自分で自分を殺したくなる。
エリックは無理矢理話題を変えようとした。
「そういえば、もうすぐ結婚なさるんですよね? 確かアラン=ノーランド子爵でしたよね」
「えぇ、ロザンヌ=スチュワートからロザンヌ=ノーランドに変わりますの。アランったら嫉妬深くて、今日も先生の所に行くって言ったら“お前、
もうすぐ結婚するロザンヌは、よほど旦那となる男性と愛し合っているのだろうか。これでもかというように幸せそうな表情だ。
「あなたと浮名を流すなんて、私にそんな魅力があるように思うんですか?」
「先生もきっと、お洒落をすれば美しくなると思いますわ。では失礼いたしますわ、お
ロザンヌは
ロザンヌが立ち去ると、すぐにエリックは
「もしもし、エリックです。
「――わかりました。今お繋ぎ致します」
交換手の女性は何事もないかのように、黙って繋いだ。
「エリック? 別にその名前じゃなくてもいいのよ……そっか、今、家にいるのか。じゃあ、エリックでいいや」
「陛下――」
「ここではヴィッキーと呼んでほしいわ。よろしくて?」
「わかりましたけど――」
「そうそう、さっき風邪で着たお嬢さん。あれ、ただの病人なの? 恋人」
「ただの患者です! もう、依頼はないんですか!」
「あっはっはっは、ごめん、悪かった――」
電話主の少女はケタケタと笑いながら電話を続ける。
「冗談は程々にして、――まぁ、ないわけじゃないんだけど」
「なんですか? なるべく簡素で簡潔に」
「エリックは人形師としても活躍してたわね? その工房の近くの
エリックは諦めとも取れるような溜息を吐いた。
「わかりましたよ。どうせ、“命令”なんでしょう。それで?」
「諸費用は
「
電話は切れ、ツーツーと無情な音を響かせた。エリックは本日何度目かわからない溜息を吐いた。しばらく病院の方は畳まなくてはならないだろう。
最近、弟子のステイシーやマーティンと会っていない。彼らはどうしているのだろうか? 久しぶりに会いたくなってしまった。
これが、俺が切り裂き魔事件――後の
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