第17話 ようやく帰ることができそうです
ロザリアとの死闘から数十分後くらい。
正門前に兵隊さんがいっぱい集まっていて、なにやら大騒ぎです。
「うーわどうしましょうこれ」
「なんて説明すりゃいいか……」
「さっぱりね」
三人で二階の窓から外を眺めています。最後の告白が派手すぎたかも。
どうしよう……妖魔がいたと説明したら信じてくれるかしら? 困ったわね。
「野次馬さんが山ほどいますよー」
外から気づかれないようにそっと野次馬を眺めています。
「こりゃしばらくは様子見だな」
カズマは別の部屋にあった執事服を着ているけれど……似合うわね。
物凄くかっこいいじゃないの。高身長でスタイルの良いカズマが着ると映えるわ。
着替えて戻ってきたカズマを見て、私とエルミナちゃんの時間がちょっと止まったもの。
「お、パン屋の人来てるぞ」
「え、どこですか?」
「あそこだ。兵士となんか話してるな。心配で見に来たんじゃないか?」
衛兵さんかな? つまり警察みたいなもの。街の警備とかしている人達で、国に所属している兵隊さん……だったかな? まあそりゃ来るわよねこんな騒ぎじゃ。
「ぜんっぜん見えないわよ」
カズマの視力は猛烈に強化されているので、私達には見えないものも見えています。
ロザリアが消えた場所から手に入れた、ピンクの欠片を形容しがたい表情で吸収しているところから、なんとか吸収時の嫌な気分を紛らわそうとしているのでしょう。
「そういや花も動かなくなったな」
「日記にあったわ。花は主人の栄養を分け与えられて意のままに動く。主人が死ぬと徐々に枯れ始めてそれっきり」
「外の花がしおれていってますね。出られるかもしれませんよー」
「出て行ったら花じゃなくて人に囲まれそうね」
「どっちにしろ地獄だな」
しばらくすると、メイドさんが枯れた花を踏み越えて、兵士達の元へふらふらと歩いて行くのが見えます。兵士数人が花をかき分け倒れかけたメイドさんを支えている。
ギャラリーはより一層ざわざわし出しているわね。これじゃ絶対に出られない。
「裏口から行く?」
「それ犯人扱いされません?」
「あのメイド、俺が途中で助けたやつだな」
「なんですとー!?」
「まーた女の子が……ああもう……一難去ってまた一難とはこのことね……」
むしろ倒して解決できないから、質の悪さではこちらが数段上だ。
また……またライバルが増えるの? せっかくこの世界に来てライバルゼロになったのに……もう二人目? このペースで増え続けるの?
「よかったな……生きて彼氏の待つ家に帰れそうじゃないか」
「かれ……し……?」
なんかしみじみよかったなあ……という顔で見送っているカズマ。
完全にはっきり確実に彼氏と聞こえたわ。
「ああ、あのメイドは彼氏と同居してたんだけど、給料が良いってんで住み込みの短期で来て、最近捕まったらしい」
「よかっ……たああぁぁ!! よかったですねえ!!」
「ええ! よかったわ! 彼氏のいる場所へ、ぜひとも無事に帰って欲しいわね!! 祝福するわ!!」
カズマの呪いは彼氏持ちには発動しない。大丈夫よ。私達は助かったの!
喜びを分かち合うお友達がいるって素晴らしいわ!
カズマが物凄く怪訝な顔だけど、そんなこと全然気にならないわよ。
「メイドさんが説明してくれりゃあ帰れるんじゃないか?」
「じゃあちょっと待ってみましょうか」
「腹も減ったな……そういやパンどこやったか……」
思いっ切りカズマのお腹が鳴りました。
そういえば夕飯まだなのよねえ。帰って作る気力がないわ。
「ふっふっふー。じゃーん! 逃げながらもちゃーんとお二人のパンは持ってきていたのです! パン屋魂炸裂です!」
「やるわね。これで空腹は解決よ」
「俺は敬意を表するぜ、エルミナ」
本日最高のファインプレーが出ましたよ。
流石に冷めているけれど、ここで文句をいうような罰当たりはいない。
食事があるってなんてありがたいのかしら。
「美味いな。肉が入っているのが実に良い」
「お肉好きですねえ」
かごの中にはミートパイとコッペパンみたいなものに、お肉がいっぱい入っているもの二つ。あとは私達が買ったパン。運動の後のご飯は美味しいわ。
「好きは好きなんだけどな。こっちに来てから食いたい時に食えるもんじゃなくなって、そうなると無性に欲しくなったりするのさ」
「毎回こんな目にあわなければ大丈夫よ。そういえば……私達と別れてからなにをしていたの?」
「あっそれ私も気になります!」
こうして無事にご飯を食べているけど、なんかメイドさんを助けていたみたいだし。
女の子と出会いすぎです。呪いの影響なのか微妙ね。
「とりあえず落下の衝撃で緩んだツルを引きちぎって、一発ぶん殴ったまでは良かったんだ」
「おおーやりますねえ!」
「いや、そこからロザリアは天井に張り付いたり、ツルで身を守っててな。もう攻撃が届かないんだ。そこで壁にかかっていた槍で、棒高跳びみたいに飛んで殴ったり、槍とかその辺のイスとかテーブルをぶん投げてみたりした」
普通に言っているけれど、どこのバトル漫画ですか。
常人離れしすぎでしょう。
「決定打が与えられなくて悩んでいたら、最初に厨房に行ったことを思い出した」
「なるほど。厨房なら火もあるし油もある。草花なんだから火には弱いわね」
「ああ、ロザリアが自分のツルで視界が悪くなってるところを狙って厨房まで走ったんだ」
言いながらパンのおかわりを求めて籠を漁るカズマ。意地汚いわよ。
「お肉入りは二つしかないはずよ。私とカズマが、ミートパイはエルミナちゃんが食べたから」
「……食パン食っとくか」
「あんまり食べ過ぎると明日の分がなくなるわよ」
「そいつはしんどいな。エルミナ、パンは美味かった。肉入れるならパンは味の濃いものより、ふんわりして肉の味とソースが染みこむタイプが好みだ。ちとしょっぱさが強いソースだからな。パンまで味が濃いと胸焼けする」
「なるほど……参考にさせていただきますよー」
カズマの話を熱心に聞いているエルミナちゃん。ロザリアの話どこいったのよ。
「もう、文句言わないの」
「そいつは違うぜ。試食して感想聞かせろって言われたろ? そいつを食った以上は感想を言うことで依頼達成だ。でなきゃウソをついたことになる」
「なるほどね。私が食べたのはちょっと辛さが強かったわ。辛いパンとしては美味しいけど何か入れて中和するか、辛さ控えめを作ると普通の人も食べられるかもしれないわ」
「ふむふむ……やっぱりみんなに受けるパンは難しいのですね」
万人受けは難しいでしょう。私は辛いものも苦手ってほどじゃないので平気だけどね。
それでもやっぱりお水は必要になった。水はロザリアの寝室から持ってきましたよ。
「なんだソースが違うのか。分けて食えばよかったな」
「そこは完成品をお買い求めくださいなー」
「商魂たくましいわね。完成品ができたら行くわ」
パンも美味しかったし、ここからなにをしようかしら。そもそもなにしてたんだっけ。
「そうよ厨房行ってどうしたのか聞いてないわ」
「そこでぶっ倒れてるメイドさんがいて、助けて事情を聞いて、カーテンに油を染み込ませて、酒を貰ったらダッシュで書斎に行っただけだ」
「面倒になってまとめたわね……」
「ぎゅっと濃縮させましたねー」
結局のところ、メイドさんの説明と、書斎の日記、白骨死体なんかが決定打となり、無事無罪放免。あまりこのことを吹聴しないようにと言われましたが、家に帰ることが出来ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます