第15話 カズマVSロザリア
ロザリアの書斎での時間稼ぎは成功。なんとか生きてカズマと再会できたわ。
「本当にもう……もう少しで絞め殺されるところだったわ」
「そうですよー。もうちょっとでエルミナの腕は切り取られちゃうところでしたよー」
「よくわからんが、ギリギリだったということか?」
相当ギリギリだったわよこれ。でもよかった、カズマが戻ってきてくれて。
エルミナちゃんに笑顔が戻っている。首も違和感は消えたわ。
「一度逃げた臆病者が! のこのこ現れやがって!!」
「確かに逃げたさ。だが戻ってきたということは勝算がある、ということだぜ」
「勝算んんん? はっバカが! 妖魔に勝てると思っているのか! どうせお前らは終わりだ。カズマくん、死にたくなければワタシとお友達から始めるのよ!」
「丁重にお断りする。お前はあやこを傷つけた。なにがあっても許しはしない」
絶対にロザリアとは友達になりたくないわね。
「妖魔の体に傷を付けようなんて身の程を知りなさい」
「俺に決定打を与えられなかったという点ではお前も同じだな」
「それがどうしたっ! どれだけ強靭な肉体であろうと、それを超越した存在こそ妖魔なのよ!!」
激昂しているロザリアにはもう気品も優雅さもない。
ただ不気味な花にまみれた卑しいだけの女ね。
さて、ちゃっちゃと倒して帰りましょうか。
「悪いなあやこ。まず俺に借りを返させてくれ」
「いいわよ。おもいっきりやっちゃって」
カズマはこれで結構根に持つから、ここですっきりさせてあげましょう。
気分よく、後腐れなく倒す。それが一番大切よ。
私達の楽しい生活を汚した罪は償ってもらうわ。ロザリア。
「どうしようっていうんだい? ちょろちょろ逃げまわりやがって。そのカーテンはお気に入りだってのにさあ!!」
「そうか、そいつは悪いことをしたな。まあ一杯飲め。お前の奢りだ!」
カズマが自分に巻きつけているカーテンの中からなにかをロザリアに投げつける。
でも顔の寸前で花に阻まれ、ガシャンとガラスが割れるような音がした。
「ちっ、小細工を……これは……酒か?」
「服の中にお酒を? カズマさんはなにを……?」
「こいつは見覚えがあるよな? 小型ランプだ。こいつもつけるぜ」
さっきと同じ場所に向けてランプを投げる。
動揺に花で阻まれるけれど、割れたランプとお酒の効果で花が燃え始めた。
「ワタシの花が!? これが狙いか!」
「お酒のおまけをつけると、火をつけると、両方にかかっているのですね!」
「いや……あまり深読みはしないでくれると助かる」
頬をぽりぽりかきながらちょっと照れくさそうに私達から顔を背けるカズマ。
萌えキャラか。そういうしぐさはちょっと可愛いじゃないの。
「緊張感なくなるわねもう……」
「ちょっと燃えたくらいでなにさ!! まだまだ花はあるんだよ!!」
ロザリアの服から花のおかわりがわさわさ出てくるじゃないの。
あの服どうなってるのかしら? 妖魔って凄いわね。
とりあえずエルミナちゃんの横に隠しておいたランプを置いて明かりをつけておく。
「想定内さ。酒も油もまだまだあるぜ。厨房からたっぷり拝借したからな」
「逃げたのはこのためか! 手癖の悪いガキはおしおきだよ!!」
広い部屋を素早く動き回るカズマ。元から運動神経良かったけど、これは色々人間超えてる動きね。今だけは呪いに感謝しましょう。
「やはりな。お前、やたらめったら花を増やしちゃいるが、目で追いきれていない。しかも花自体もそれほど速くはない」
「それくらいで図に乗るんじゃないよ!!」
着ているカーテンをバサッとロザリアさんに向けて投げつけるカズマ。
目隠しのつもりなのかしら。
「何処へ行った!!」
「これは……カーテン? なにか湿っているような……?」
「たっぷりと油を塗りこんでおいた。後は点火するだけだぜ」
シャンデリアの近くまでジャンプしていたカズマが、腰にかけていたランプに手を伸ばす。
「バカが!! 迂闊に飛び上がりやがって! 後先考えて動く知能もないのかうすらボケが!!」
素早くカズマまでツルを伸ばし、シャンデリアごと天井に押し付けてしまう。
この程度のことはジャンプする前にカズマなら気がついているはず。
ロザリアも腰のランプを潰さないように緩く締め付けているのか、前回よりもカズマは身動きが取れている。
「このまま天井に貼り付けて、干からびるまで栄養を絞り取ってやるよ!! 搾りカスになっちまいな! カアアァァズマくうぅぅ~んっ!!」
それにしても完全にキレて汚い口調になってるわね。
品がないにも程があるわよロザリア。これが素の口調なのかしら。
「カズマさん!? あやこさん! カズマさんが!!」
「大丈夫よ。それくらいカズマもわかっているはず。ピンチなのは……どっちなのかしらね?」
「クキキキキキ。見下されるってのは嫌な気分になるものだけれど……今のアンタを見上げるのは最高の気分だよ!! その顔をもっとよおおぉ~く見せな!!」
カズマの真下にいるロザリアは恍惚の笑みだ。笑顔まで下品になっている。
ああはならないように気をつけよましょう。女の子がする顔じゃないものね。
「ほらほら、どんどん力がみなぎってきたよおおぉぉ~!! まったく……ここまで苦労しなきゃいけないなんて……まあぁ~ったく、妖魔も楽じゃあないわねええぇぇ~!!」
「そうかい、その栄養が頭にいってるんなら、わかるだろ? 今すぐ俺を地上に降ろしな」
やっぱりなにか企んでいるみたいね。
そもそも緩く縛られているのだから、ランプを投げつける事もできるはず。
カーテンに火をつけることが目的じゃない?
「そんなハッタリが通用すると思ってんのかい!! 頭に栄養いってないのはお前なんだよアホが!!」
「言ったはずだぜ。カーテンの内側は油まみれだってな。俺を持ち上げているツルから、お前の服まで油が垂れ落ちていることに気を配るべきだったな。ゥオラアァ!!」
自由の効く左腕を伸ばして、シャンデリアの明かりの一つを握り潰している。
「無茶するわね」
「カッカズマさんの体に火が!? カズマさああぁん!?」
すぐにカズマの全身に炎が回る。明らかに速度がおかしい。
ほぼ一瞬で全身が炎に包まれている。
カーテンの内側にはカズマ自身も含まれていたのね。
「はっ、自滅しやがったよおぉ~。アホが。なにが守るだ! 自分の身を炎から守ることすら出来ない大間抜けが、なにを守れるっていうんだい? クキャハハハハハ!!!」
「やはり頭には栄養がいっていないようだな」
花はどんどん燃え尽きる。カズマを支えていられなくなったため、下にいるロザリアに向かって一直線に落ちていく。
ツルを引きちぎり、手で振り払い、落下しながら絡み付こうとするツルを避けているカズマ。
「炎のまわりが早い!? 花が追いつかない!!」
カズマに伸ばすツルも、ロザリアの周囲の花も燃え始めた。
投げたカーテンも勢い良く燃え盛っている。いつの間にやったのかしら。
「ちょいとずつだが、酒や油をばら撒いていたのさ。高速で動いているうちにな」
お酒をロザリアの顔に向けて投げたのはこのためかしら?
匂いのもとが近くにあると撹乱できる。
こっそり撒き続けても、気付かれる可能性は低くなるはずよね。
「確かに花は焼ける。だが同時にお前も焼け続けている!! 残念だったな。一番の障害であるお前が死ねば、後は人間の小娘二人。なぶり殺すなんてわけないわああぁぁ~!」
「こっちに来てから、随分と体が丈夫になってな……」
カズマはロザリアの正面に降り立ち、驚いて後ずさりするロザリアの首を、がっしり両手で掴んで持ち上げる。
「なっなんで動ける!? 全身火にまみれて、なぜまだ動いていられる!!」
じたばたもがいてみても、カズマの力は妖魔とやらの力を上回っているのか、花と炎で相性が悪いのか抜け出せないみたい。
やがてロザリアにも火がまわり始める。
「この程度の炎じゃ……熱くもなんともねえからなああぁぁ!!」
「がっ!? うがあ!! 離せ! この!! 汚らわしい手で触れるなあぁ!!」
「俺はなにがなんでも生き延びて――――必ずあやこを守り抜く!!」
なによかっこいいじゃない。ここでそのセリフはずるいわよ。
呪われていても、カズマはやっぱり私の大好きなカズマなのね。
今までの不安と恐怖が嬉しさで塗り替えられていくのがはっきりとわかる。
でもここまでカズマに助けてもらってばかり。そろそろ私も返さなくっちゃね。
「ありがとうカズマ。でも、守られているだけっていうのも悪いわね」
「そうか、ならあやこもきっちり返せばいいのさ。こいつに貸した分をたっぷりとな」
そうね、ここからたっぷり返しましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます