私が片思い中の幼馴染は鈍感難聴系ハーレム主人公の呪いをかけられました
白銀天城
第1話「え、なんだって?」は聞き飽きた
告白。それは十代女子にとっては一世一代の大イベント。
十年近く片思い中の幼馴染とちょっと、ほんのちょっとだけいい雰囲気になりまして。
これは告白のチャンス! と思ったら異世界に来ちゃったのが数日前のこと。
「若い男女が……明るいうちから綺麗な湖でやることがモンスター退治かあ……」
「どうしたあやこ? 疲れたならちょっと休もうか?」
私を心配してくれる彼こそ、小学生のころから片思い中の幼馴染のカズマ。
優しくて、成績も良くて運動もできる高身長イケメン。
ついでにこの世界に来て超強くなりました。呪いと引き換えに。
「大丈夫よ。ちょっと考え事してただけ」
人払いのされた湖は、とても空気が澄んでいて静かです。
つい物思いにふけってしまう。
「そうか、相談ならいつでも乗るからな」
「ありがと、期待しておくわね」
「ん、敵が来る。俺の後ろに隠れてろ」
前から歩いて来る青くて毛むくじゃらの動物三匹から、私を守るために剣を構えるカズマ。
モンスターですよ。本来普通の高校二年生には見慣れないものですね。
「カズマ。気にせず戦って」
「あやこを一人にするわけにはいかないさ。心配するな、俺が必ず守るから」
真顔で言われると照れる。こういうことをサラっと言うもんだからライバルが増えるのさ。
でも異世界に来たことで、とりあえず私以外の元の世界の女の子は進展もしなければアタックもできません。そこだけは異世界に感謝しています。
「仕方ないわね。ちょっとそこに立っててね」
ステップそのいち。カズマから五メートルくらい距離を取ります。
私達の背景に敵がいるように見える状況だとさらによし。
「おい、離れると危ないぞ」
「カズマ、こんな時になんだけどよく聞いて」
ステップそのに。声の大きさとキーワードを選びます。
敵はそんなに強くないので軽い告白にしましょう。
「カズマ、私……ずっと前からカズマのことが好きだよ!」
「どおおおおすこおおおおい!!」
「ファイオー!! ファイオー!!」
突如木陰から飛び出してきたランニング中のおすもうさん集団により踏み潰されるモンスターさんたち。
これがジャパニーズスモウレスラーのパワーです。まだまだ外国人力士には負けていません。
「え、なんだって? 力士の声で聞き取れなかったよ」
お約束の『え、なんだって?』が炸裂しました。力士が通ったことについては一切疑問を抱かずにそんなことをのたまうカズマ。前に電車が通った時も『そりゃ電車くらい通るだろ』と言われました。異世界にいたのにです。疑問を持てないようにされているわけさ。
「モンスターが倒せてよかったねって言ったのよ」
おすもうさんが走っていった方角からはもう声が聴こえることもなく、地面には足跡さえ残っていない。まるで初めから力士なんて存在していなかったかのようです。
「そうだな。あやこが怪我しなければそれでいいさ」
いつもの優しさと爽やかさが絶妙な塩梅でミックスされた笑顔を向けてくる。この笑顔は私にとって反則技だ。ちょっとだけケンカになっても、ちょっと鈍感なところがあっても許せてしまう。
鈍感さはちょっとで済んでいるか自信がない。
「あ、ちょっと待って。まだ起き上がりそうよ」
よく見ると一番大きなモンスターが生きている。このままだと戦わなくちゃいけなくなりますね。
ではここで応用編です。投げやすいサイズの木の板に『好き』と書きます。
「カズマちょっとこれ読んでみてくれる?」
言いながら『好き』と書いた板切れをモンスターに向けて投げます。
この時カズマが文字を読もうとしていることを確認するとなおよし。
「おいおい、投げたら見えないだろう。えーっと……」
目を凝らして読もうとすれば完了です。遠くから真っ白なビームのようなものが飛んできて、モンスターともども板切れは木っ端微塵となりましたっと。
「あちゃー。光魔法シューティングスターライトのせいで読めなくなっちゃったな」
なんですかその魔法は。なぜそんな魔法についての知識があるのですか? 同じ世界出身ですよね?
「いいわよ。そんなたいしたことは書いてないし」
この程度では私の心は折れません。人間は環境に適応する生き物です。
これがカズマにかかった呪い。鈍感難聴系ハーレム主人公として、女性への興味や恋心を封印され、絶対に告白が通らない聞こえない見えもしない。
最初はムキになって告白しようとしましたが、無駄でした。無駄でしたよ。無駄でしたともさ。
「お、あやこが集めているやつがあったぞ」
カズマが見せてきたのはピンク色の結晶。キラキラと陽の光で輝くそれは、カズマの恋心や女性への興味といったものを回復させてくれる欠片。
これを集めて強くならなければ、カズマは一生鈍感男として生きていかなければなりません。
「これがないと困るんだよな」
「そうよ。私もカズマも困るの。手伝ってくれてありがとね」
「いいさ。あやこがそんなに真剣に集めているんだから。俺も協力するよ」
カズマにはとても大切なものだから集めて欲しいとお願いしてある。
「ありがと。それじゃ、モンスターも倒したし帰ろっか」
「そうだな。晩飯どうする?」
「何かカズマの好きなもの作ってあげるわよ」
「お、そりゃいいな。あやこの料理はこっちの世界で一番の楽しみだ」
「はいはい、おだてなくてもちゃんと作るわよ」
「あやことあやこの作る料理だけが、この世界で俺の知ってるものだからな。なんか安心するんだよ。家庭の味っていうかさ」
「かっ……まあ……たまに作ってあげてたし……うん」
危ない。一瞬だけ家庭の味というワードで新婚生活をしている私達を想像してしまった。
私の味付けがカズマの家庭の味。うん、悪く無いわ。むしろいい。
でもそういう意味ゼロなのは確定しているのよねえ。
こういうセリフにもしかして……もしかすると……と淡い期待をしていた頃が懐かしい。
「あ、吸収するの忘れないでね」
「これ吸収する時、なんか妙な感覚がしていやなんだよな」
欠片の中に入った力は主にカズマの右手から吸収します。
私にはどんな感覚かわからないけれど、あまりいいものではないみたいね。
今も渡した欠片を手のひらで転がして、吸収をためらっています。
「ちょいとお待ちになって。お二人さん」
「はい? どちら様でしょう?」
突然声をかけてきたお姉さんと、その後ろにいる鎧に身を包んだ男の人。
知らない人だ。そもそもこの世界で知ってる人なんて数えるほどだし。
お姉さんの髪の色が真っ赤なのに、言葉が通じているのは本当に助かりますね。
私とカズマは同じ聞こえ方をしているみたいだけれど、翻訳の基準は謎です。
「俺達、どこかでお会いしましたか?」
「いや、初対面だ。突然すまない。俺はガイ。なんでもジュリーから話があるらしい」
申し訳無さそうにしているガイさん。物腰の柔らかそうな人だ。髭と苦労してそうな顔から三十歳前後と予想。
そしてごく普通の服、といってもこの世界の話ですが。そんな町によくいる女性の格好をしているジュリーさん。たぶん二十代後半くらいかな。
とりあえず私達はそれぞれ自己紹介を終える。
「それじゃ、あやこちゃん。今の敵から取った欠片をどうするつもりかしら?」
「どうって……」
「そちらの彼に使うのね? こちらに譲ってくれたらお礼はするわよ」
なぜ知っているのかわからないけど、この欠片は大切なもの。
ジュリーさんが何故これを狙うのかわからない。
「それを集めれば、ガイは私に振り向いてくれる。さあそれを渡して!」
どうやらすんなり帰れそうもないわね。
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