第27話 解散?
「真一、ごめん……大丈夫?」
俺も何発か殴られて、まなじりが紫色に変色していた。車を回し、京を乗せて帰る途中、まず最初に京が発したのは、謝罪と心配の声だった。
「お前が謝る必要はねぇだろ? アイツが悪りぃんだ。あの野郎……」
イライラとシフトチェンジをして車を走らせる俺に、だが京は震え声で言った。
「だって……あの人、『解散だ』って……俺のせいだ」
今にも泣き出しそうな京に、俺は言い聞かせた。
「お前のせいじゃない。アイツがファンに手を出すせいで、何回も解散しかけてるんだ。俺が説得してきたけど、今度という今度は堪忍袋の尾が切れた」
「でもやっぱりそれって、俺のせい……」
「違う」
思わず強い声音を出し、俺は車を路肩に寄せた。街路灯の少ない暗がりに、オレンジのハザードランプが点滅する。不思議顔の京に、俺は正面を向いたままキッパリと言った。
「……決めた。京、俺と組もうぜ」
「えっ?」
何の事か分からず目をしばたたく京が可愛くて、俺は助手席に腕をかけその顔を覗き込んだ。
「お前、ギター上手いよ。他のメンバーは追々探せば良い。弾いてくれないか?」
「え……でも……俺なんか……」
「京の短所は、自分を過小評価し過ぎってトコだな」
そう言って、顎を捕らえると軽くキスをした。
「やっ……真一……」
「誰も見てない」
「誰か通ったら……!」
本気で嫌がって、京は俺の肩を腕で押し戻した。顔はハザードランプのオレンジよりも明るく染まっている。それを見て、俺は苛ついていた気持ちが、鎮まっていくのを感じた。京は、俺の安眠枕みたいなものだ。無理強いするつもりはなかったから、俺は片頬を上げて身を引いた。
「な? 良いだろう?」
念を押すと、自分のせいだと言う気負いからか、小さく頷く。休日のバンド練習日も一緒にいられるから、一石二鳥だ。
「でも、本当に俺で良いの?」
「くどい。キスするぞ」
「わ、分かった」
慌てて承諾した京が可笑しくて、俺は笑った。
「俺もライヴハウスのつてで探すから、お前も楽器出来そうな奴、探してみてくれ」
「うん」
先ほどまでとは違う、朗らかな気持ちでサイドブレーキを下げる。アクセルを踏み込んで、俺は提案した。
「ちょっとドライブしないか」
「え……手当てした方が良くない?」
「これくらいの傷、舐めときゃ治る」
俺はUターンし、夜景の綺麗な丘に向かって車を走らせる。そこが、デートで使う取って置きの場所だとは、まだ京には内緒だった。
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