第9話 初めての共同作業

 告白から一週間経っていた。


 京も俺も新しい土地でのバイトで忙しかった為、特に恋人らしい事もしないまま、時は流れていた。した事と言えば、お互いの合鍵の交換くらいか。


 そんな事を考えながら日課の筋トレをしていたが、ふと思い付いた。折角の合鍵だ、使わなくてどうする。俺は腹筋をやめて立ち上がると、キーホルダーにふたつ並んだ鍵を使って、自分の部屋には鍵をかけ、隣の部屋の鍵を開けた。


 時刻は九時過ぎだが、案の定まだ京は帰っていない。部屋から提げてきたビニール袋には、キャベツと豚肉が入っている。俺は自分の部屋と同じ作りのキッチンに勝手知ったる風に立つと、キャベツを千切りにし始めた。


 やがて、半分ほど千切りにした所で、京が帰ってくる。


「真一!」


 嬉しそうに声を弾ませて、彼はキッチンに入ってきた。一週間ぶりの再会に、俺は思わず包丁を放り出して京の華奢な身体をきゅっと抱き締めた。遠慮がちに京の両手も上がり、俺の背を抱き締め返してくる。


「真一、会いたかった……」


 聞こえるか聞こえないかの声音で囁くのが、シャイな京らしくて心地良い。


「俺もだ。飯、食ったか?」


「ううん、まだ」


「ちょうど良かった。ホットプレートあるか?」


「え? うん」


 デニム地のショルダーバッグを下ろすと、目当てのものを探す。


「卵と小麦粉あるか?」


「うん、今出すよ」


 二人仲良くキッチンで作業する。キッチン台に並ぶものとキャベツの千切りをしている俺を見て、京はピンときたように人差し指を立てた。


「お好み焼き!」


「当たり」


 京の大きな瞳が、何か思い付いたように天井をさ迷い、冷蔵庫を開けた。


「お餅もあるよ」


「良いな」


 初めての共同作業は、『お好み焼き』だった。俺が切ってボウルに入れた材料を、京が混ぜる。テーブルに着いてホットプレートにそれを流し入れると、焼けるまでの間、俺たちはこの一週間に起きた出来事を話し合った。京は、新しいバイトで失敗し、大目玉を食らったらしい。


「でも、辛い事があっても、真一がいれば乗り越えられそうな気がする……」


 サラリとそんな台詞を言って、京は熱々のお好み焼きを頬張った。注がれる笑顔が、眩しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る