第3話 初デート

 俺が、悪いが甘いものは苦手だと伝えると、京は少し申し訳なさそうに形の良い眉尻を下げた。だが、気持ちは嬉しいとフォローすると、ぱっと顔を輝かせて砕顔する。心の内が手に取るように分かり、飽きない奴だ。


 引っ越してきたばかり、荷解きが苦手だという京に、ケーキは京の部屋の冷蔵庫にしまって、今から片付けを手伝おうと提案した。


「えっ。でも散らかってるし……」


「それを片付けに行くんだろ」


「あ、そうか」


 京は納得して、一つ笑顔を見せた。


 俺が用意したコーヒーを飲んでから、京の部屋に向かう。そこは京の言葉通り、まだ開けられていない段ボール、開けられてはいるが中途半端に中身が床に積み上げられた荷物で溢れかえっていた。


「足の踏み場がねぇじゃねぇか。どうやって寝てるんだ?」


「荷物を段ボールに戻して……」


 流石に呆れた俺の声音に、オドオドと京が答える。まるで叱られる前の小型犬だ。思わず、手が伸びて京のブラウンがかった髪をポンポンと撫で付けた。


「あー、分かった分かった。そんなカオすんな。手伝ってやっから」


「う、うん……」


 京は少し驚いたように身を引きかけたが、くすぐったそうにはにかんだ笑顔を咲かせた。


    *    *    *


「これでよっし!」


 両の手を打ち合わせて埃を払うと、俺は京にひとつウインクしてみせた。特に気持ちを込めた訳ではなく癖だったが、京は頬を上気させて俯いた。


 なるほど。初日のキス以来、何となく京が気になっていたが、どうやら彼も同じらしい。


「ありがとうございました。あのっ……」


「ん?」


「お礼にご飯作ります。甘くないやつ」


「そんなに堅苦しく考えるなよ」


「いえ、介抱してくれたお礼も出来てませんし」


 だが、先ほど片付けた冷蔵庫には、調味料以外入っていなかった。俺は妙案を思い付いた。


「じゃあ、材料買い出しに行くか。一人で待ってるの暇だし」


「あ、はい」


 初めてのデートだ。手ぐらいは握っておきたい。そう考えながら、二人並んで近所のスーパーマーケットに向かった。

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