第2話 12月25日 前年度

「昭和先生、来年度なんだけど交流に行ってくれないかな?」

 秋も深まった放課後、市立仙石中学校の校長室に呼び出された俺は驚きながらその言葉を聞いた。窓の外は6時前にもかかわらず、大分薄暗く感じる。

「自分が交流ですか。小学校免許は持っていませんが?」

 交流というのはこの県の教育委員会が推進している制度のことだ。中学校の教師が小学校に赴任して授業を行う。逆に小学校から中学校に赴任してくる教師もいる。学校の種類にとらわれない広い視野の育成が云々などのお題目があったと思う。

 当然、小学校の教員免許と中学校の教員免許の両方を持っている教師しか行うことができないが、自分は中学校の教員免許しかない。

「いやいや、交流先は小学校ではないよ。特別支援学校の中学部だ」

 カーネルサンダースの腹をひっこめたような風体をした校長が言う。

「特別支援……昔の養護学校でしたっけ?」

 数年前の学校教育法の改正で、盲学校、聾学校、養護学校の名前が変わったと記憶している。

「ああ。障害を持った子どもが相手だ。あそこは昔っから人手が不足していてな。まぁ、この中学校にも発達障害とかいう障害の子供もいる。特別支援学校で得た知識は中学校に戻って来てからも役に立つだろう」

 教員生活4年目、まだまだ若造の俺に拒否権はない。

「了解しました。精いっぱい頑張ります」

 採用試験に合格して数年、仕事にも慣れてきたこの時にこうした転勤は正直カンベンしてもらいたい。それに、障害者という人達について大した知識もない。しかし……

「障害があろうがなかろうが、教師は生徒の可能性を引き出す職業です。専門的な知識はありませんが、今までの経験を生かして生徒と向き合っていきたいと思います」

 俺は半ば自分に言い聞かせるように宣言した。

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