馬井卦瑠流童話
馬井卦瑠
金の亡者A
第1話 金の斧・銀の斧 強奪編
昔々、とある村にきこりがいた。あるきこりは林に斧を持って木を切ろうとしたが、誤って斧を近くにあった池に落としてしまった。すると池の中から女神が現れいくつかの質問をしてきたそうだ。噂を聞いただけで確かでないが、結果的に女神は普通の斧を返してくれたことに加えて、金の斧と銀の斧を与えてくれたらしい。
金に目の眩んだ我が友人は普通の斧を池にわざと落とした。女神が金の斧を手に持って、『お前が落としたのはこの金の斧か?』と聞いた。友人はそうだと答えた。すると女神は呆れ顔をして池に帰ってしまったらしい。友人は斧を失っただけとなった。
私も金の斧で一攫千金を企む悪きこりの一人だ。一人で噂の林に行くと大概失敗すると聞いたため、同業者と共に作戦を実行する。私が作戦を立て、彼らに現地で奪ってもらうのだ。
<作戦①『縄掛け』>
まず共犯者Bが池の辺にて斧をわざと落す。すると女神が池の中から現れた。そして落としたのは金の斧かという質問をしてきた。ここまでは噂通り。
共犯者Bはそこで黙り、チラチラと上を見る。池の最寄りの樹木の上方にはもう一人の悪きこり、共犯者Cがいる。彼は輪っかのついた縄を女神の持つ金の斧目掛けて投げた。縄は金の斧にうまいこと引っかかり、悪きこりたちは歓喜する。しかしそれも束の間。女神は人間の女性とは違うということを思い知らされる。華奢な腕からは想像できない強い力で金の斧を保持し続け、その手から離れることはなかった。Cがいくら引っ張っても奪い取れない。そうして女神は縄ごと斧を池に引きずり込んだ。
「作戦失敗か…B、C、一旦撤収だ。作戦を立て直す」
作戦①『縄掛け』が失敗したのは女神の力が予想以上に強かったため。次はそれを考慮して、女神を無力化する。
<作戦②『猟師』>
人としてどうかと思う作戦だが、相手は女神。手加減しても神相手ならあちらに歩がある。ということでとりあえずは目をつぶることにした。
本作戦は縄を引っ掛けるまでは同じ。次の工程からが違う。Bが斧を落とし、Cが縄を引っ掛け、もう一人の共犯者Dは林の合間から猟銃を構えさせている。狙い目は女神のコメカミ。
「女神様のコメカミか。こんな悪行やったことないな…だが金のため、狙い撃つぜぇ!」
Dの狙撃の腕は確かで、猟銃の銃弾はまっすぐコメカミに吸い込まれるように飛んでいった。しかし、結果を言えば本作戦も失敗に終わった。女神は猟師の殺気を感じ取り、咄嗟に金の斧でコメカミを守ったのだ。
「また普通の斧が池に消えただけかよ。Aさん! どうしてくれんだよ!」
「落ち着け。金の斧が手に入ればお釣りがくる」
「塵も積もればなんとやら…」
「頼むぜ。4人で山分けなんだからよ」
「分かっている。安心しろ。次で終わる」
<作戦③『鎖』>
今回は大いに自信がある。非道加減もますます加速した。作戦②で下がった士気をある協力者に上げてもらったので、確実にいける。そうと決まれば奴らはきっと裏切る。全ては我が手の内…
「作戦指揮官はAさんだが、実行者はオレ達だ。奪ったらオレ達だけでトンズラしちまおうぜ」
「乗った。Aさんは悪賢いから終わったら殺しとこうぜ」
「オレが狙撃してやる。お前らは安心して行ってこい。じゃあ、ラストミッションだ!」
何度も同じ手口で斧を落とすが、女神もよく付き合ってくれるものだ。今回もBが斧を落とす。違うのはここから先。木の上のCが女神に向けて落とすのは、金の斧に引っ掛けるための縄ではなく、女神に向けた鉄の網だ。鉄は水に沈むもの。これは女神を溺死させ、沈んだ斧を回収するというものだ。実際意表を突かれたらしい女神は目論見通り鉄の重みに負けて池に沈んでいく。水面に泡が立ち、消えて静かになる。作戦は成功したのだと歓喜したきこりたち。Bが回収しようと池に近づいたその時、水中から金色に輝く何かが飛び出す。それは金の斧であった。金の斧は一直線にBに飛んでいき、首を切り飛ばす。その様子を木の上から見ていたCも急いで逃げようとしたが、地面に降りた瞬間銀の斧が襲いかかった。
悪意に満ち溢れる悪きこりたちの行為に、沈められた女神は流石に黙って呆れて沈んでいるわけにもいかず。直接鉄槌を下したのであった。池の近くには銀の斧が刺さった死体と首なし死体と血まみれの金の斧が残されるだけとなった。
例の一件の翌日、斧にやられた二人の死骸のある林に一人のきこりが訪れた。彼は屍を見ても冷静に、刺さっている銀の斧を引き抜いた。首なし死体の近くに転がっていた血まみれ金の斧も拾った。そして自前の布で血を拭き取り、袋に入れて回収する。このきこりこそ、金の斧・銀の斧強奪作戦指揮官のAである。
逆鱗に触れさせれば、手を下すと思った。殺すのに手っ取り早い凶器はもちろんこの状況なら斧に決まっている。女神が池から完全に出てくるとは考えにくい故、投げてくるだろうと思った。金の斧を女神が手放すタイミング。つまり投げさせれば良かったのだ。
「ミッション・コンプリートだ。じゃあな悪きこり」
前もって準備しておいた穴に犠牲者2名を土葬し、斧の袋を抱える。そして一旦作戦司令部を設置しておいた小屋に帰る。
「報酬だ。鉄網と士気上げ、感謝する」
「応! オレは傭兵だ。金さえくれればどんな汚い仕事でもするんだ」
「銀の斧はお前の物だ」
「…確かに受け取った。これにて契約は破棄。じゃあな、また仕事があったら呼べよA」
傭兵Dは次なる雇い主を求めて消えた。私も小屋を出払い、遠方の町に足を運ぶ。その町は一面白銀で寒いが、斧を売るのに足が付くのは気に食わないので我慢だ。それにわざわざここに来たことには他にも理由がある。
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