新装備
ハライソが蓄えた財宝の中から、オーガーやトロルが使えそうな武具を選ぶ。ついでだから、俺や兄弟たちが使えそうなやつも見繕っておこう。
しかし、ハライソ……てか、竜ってヤツはどこからこういう財宝を集めてくるんだろうな?
空を飛びながら、地上に落ちている武具や財宝を見つけ、それを巣に持ち帰るのだろうか? まさか、人間の冒険者みたいにどこぞの遺跡に潜るとは思えないし。
まあ、そんなことはどうでもいいか。今は使える武具を見つけることに集中しよう。
積み上げられた財宝の山を掻き分け、ムゥたちや俺たちが使えそうなものを探し出す。
オーガーたち用には、大型の戦槌や大斧、槍斧、大剣など。そして、俺たち用には剣や槍を数本選び出す。
他にも俺たちで使えそうな鎧や楯もあったので、そちらもいただいておこう。
もちろん、ハライソには許可を得た。
「本当にいいのか? この武具たち、全部何らかの魔封具だぞ?」
「構わぬ。どのような魔術が封じられていようが、きらきらしておらぬモノは我の趣味ではないからの。森の中に落ちていたから拾っては来たが、特別愛着はないわ」
どうやら、これらの武具は森の中に落ちていたらしい。
おそらくは森に踏み込んだ人間たちの忘れ形見って辺りだろうか。
リュクドの森のこんな奥地まで、普通であれば人間はまずやって来ない。だが、森の奥地にまで足を踏み入れる者は決して皆無ではないのだ。
そんな連中のほとんどが、冒険者である。腕に覚えがある者、リュクドの森の奥地にある各種の資源を求める貴族に雇われた者などが、時折森の奥地まで足を踏み入れる。
もちろん、そのほとんどは二度と森の中から帰って来ることはない。それが分かっていてもなお、森の奥地へ踏み込む者はいる。
だが、そのおかげでこうして新たな武具を手に入れることができたのだから、この地で果てた見知らぬ誰かの冥福ぐらいは祈っておこう。
何らかの魔術を封じた武具たち。これらをいつ頃ハライソが手に入れたのかは知らない。きっと、ハライソ自身も覚えていないだろう。
中には何百年も前の物だってあるかもしれない。だが、俺の目の前に並べられた武具たちに、経年による劣化はほとんど見受けられない。
これこそが、これらの武具が魔化されているという何よりの証拠。魔化を施された武具は、経年による劣化の影響を受けづらいのだ。
とはいえ、魔化された武具も永遠に存在できるわけではない。いつかは壊れ朽ち果てる。さすがに新品同様とはいかないが、それでも俺の目の前にある武具たちは十分使用に耐えられるだろう。
ハイゴブリン・ウォーロックに進化した俺の目には、この武具に込められている魔力の波動のようなものが確かに見えている。
だが、具体的にどのような効果があるのか、そこまでは不明だ。その辺りはこの武具たちを持ち帰った後、ジョーカーの奴にでも相談すればいい。
さて。
問題は、この武具たちをどうやって持ち帰るか、なんだよなぁ。
結局、運搬の問題もハライソが所有する魔封具を借り受けることで解決した。
奴から借りたのは、収めた物の重量を無視する魔封具──《無限の小袋》だ。
その名前の通り、見た目は俺の腰にぶら下げられるぐらいの小袋なのに、小袋よりも大きな物を収めることができ、なおかつ重量も感じさせないという優れものだ。
ただし、「無限」という名前が付いているものの、その収容力には限界があるらしい。俺が借りた小袋の収容力は、ハライソが竜の姿になった時と同じぐらいの重量までだそうだ。
何でも、以前にハライソがどれだけ宝石や装飾品が入るのか試したところ、それぐらい入ったところで突然何も入れられなくなったという。ま、巨体である炎竜と同じぐらいの重量が入れば十分ってものだよな。
「分かっておろうな? その袋は一時的に貴様に貸すだけじゃぞ?」
「分かっているって」
奴がこの小袋に拘る理由、それはこの小袋に小さな宝石が一つだけ付いているからだろう。
革製──何の皮革かは分からない──らしきこの小袋、一見すると凄く地味だが、小さな宝石がきらきらと光っている。間違いなく、ここがハライソがこの小袋の所有権を主張する理由に違いない。
「その小袋があれば、我の大好きな宝石を大量に持ち運べるからの。しかも、その小袋は一つしかないのじゃ」
そんな貴重な小袋を俺に貸してくれた理由。それはもちろんギーンである。
彼が着ていた上着。黒地に銀色の糸で複雑な模様が縫い込まれた、ダークエルフ特有の衣服を、ハライソが気に入ったのだ。
いや、奴が気に入ったのは服の意匠の芸術性などではなく、ギーンが着ていた服という点だろう。ホント、こいつも方向性は違うがサイラァといい勝負だよ。
上着を奪われ、上半身裸で若干涙目になっているギーン。こいつもよく女に服を奪われるな。以前はパルゥにも服を奪われていたし。
でもまあ、ここは我慢してもらおう。別に貞操を奪われたわけでもないし、上着の一枚ぐらい別にいいだろ。男だし。
竜の姿に戻ったハライソの背に乗り、俺とギーンは仲間たちが待っている場所へと戻る。
落ち合った場所は、ザックゥたちが以前に塒としていた洞窟。
俺たちが空から地上へと舞い降りると、洞窟の中から仲間たちが現れた。
「リピィさん!」
真っ先に俺に駆け寄ってきたのは、クースだった。
心配そうな表情を浮かべて俺に向かって一直線に近づいてくる。
うん、やっぱりクースは可愛いな。走り寄ってくる際、彼女の身体の一部が派手に揺れていたが、そこは紳士として見なかったことにしておく。
「お帰りなさい!」
心配そうな表情から一変、嬉しそうな表情を俺に向けるクース。どうやら、随分と心配させちまったようだ。
「俺なら大丈夫だよ、クース。それに土産もしっかりと持ち帰ったしな」
俺はぽんぽんと腰にぶら下げた小袋を叩く。クースの視線がそこに向けられ、不思議そうに首を傾げた。まあ、一見しただけじゃただの地味な小袋だから、そう思うのも当然だ。
「へえ、《無限の小袋》かい? これはまた珍しい物だね」
そう言ったのはもちろんジョーカーである。いろいろと困った点もあるが、奴が凄腕の魔術師であるのは間違いない。
「そうであろう、そうであろう。これは我の持ち物じゃからな。我に感謝することじゃ」
《無限の小袋》を誉めたことが嬉しかったのか、人間の姿になったハライソがその丸々とした腹を大きく張り出した。今の奴は、胸と腹の区別もつかないような体形だからな。もっとも、胸の大きさだけならクースもいい勝負だけど。
「それよりも、だ。おい、ジョーカー、これらを鑑定してくれ」
そう言いながら、俺は小袋から様々な武具を取り出していく。次々と地面に並べられる武具を見て、ムゥやザックゥたちも集まってきた。
なんだかんだ言いながら、こいつらもいい武具を使いたいんだな。人間だろうが妖魔だろうが、戦いの中に身を置く者が武具に無関心なわけがないから。
「これはまた、年代物ばかりを集めたもんだね。でも、どれもおもしろい武具ばかりだ」
小声で何やら呟きながら、ジョーカーは一つずつ武具を確かめていく。おそらく、鑑定用の魔術を使っているのだろう。
ジョーカーによる鑑定の結果、武具に封じられている魔術の効果は大体分かった。
まず、ムゥが選んだ大型の戦槌には、《衝撃》の魔術が込められている。
この戦槌で相手を殴れば、武器の重量にムゥの筋力、それに《衝撃》の魔術というオマケが一度に叩き込まれるわけだ。正直、俺が食らえば一撃で挽き肉と化すに違いない。
なんとも恐るべき武器だが、それだけに頼もしくもある。
次にノゥが手にしたのは槍斧だ。この槍斧には特別な効果は付与されていないが、《状態保存》の魔術がかけられている。つまり、多少刃が欠けても自己修復されるわけだ。これはこれで優れ物と言えるだろう。
《黒馬鹿三兄弟》最後の一人であるクゥは、意外なことに大弓を選んだ。ダークエルフたちと一緒に生活して、遠距離攻撃ができることの重要性に気づいたのだとか。
いや、まさかクゥがそんな選択をするとは思わなかったな。しかもこの大弓、魔力の矢を生成する能力があったりする。とはいえ、一日に作り出せる矢の数は二十本ぐらいだ。しかし、普通の矢と併用することもできるので十分な能力だ。
正直、この大弓はジョーカーの作り出す魔像にでも持たせるつもりで持ってきたものだったが、まさかクゥがこの武器を選ぶとは。
これまで通りに大型のモールも装備するらしいので、遠近共に活躍できるようになるだろう。
トロル・リーダーのザックゥが選んだのは、やっぱり大剣だった。奴いわく、「使い慣れている武器の方がいい」とのこと。うん、その心理はよく分かる。俺も剣以外の武器はあまり馴染みがないからな。馴染みがないだけで、全く使えないわけじゃないけど。
ザックゥの大剣には、風術が封じられているそうだ。大剣の刃に風の刃を重ねることで、切断力を増すとのこと。これもまた強力な武器と言えるな。
防具に関しては、盾を胸当て代わりに装備することになった。ハライソが集めた武具はほとんどが人間用だったため、オーガーたちは体格が違い過ぎて使うことができなかったんだ。そこで、盾をちょっと改造して胸当てのように装備させたってわけだ。まあ、何も装備しないよりはマシってぐらいの、あり合わせ感満点のでっちあげ防具だ。
でも、元の盾が結構いい物だったので、それなりの防御力はあると思う。
一方、今の俺は人間用の防具がそのまま使える。いやぁ、人間の冒険者から奪った防具が大きすぎて使えず、泣く泣く諦めた頃が実に懐かしいな。
兄弟たちは以前から人間の防具は使えたから、こちらも問題はない。
俺たちは鈑金製の鎧を装備した。とは言っても、鎧を一領丸ごと着込んだわけじゃない。
元々鈑金製の鎧ってやつは、いくつもの部品を組み合わせているものだからな。その中で重要なものだけを装備することにしたってわけだ。
鎧一領丸ごと装備すると、防御力は高くなる一方で機動力や俊敏性がどうしても犠牲になる。俺たちは防御力と敏捷性の両立を望んだってわけだ。
胴体や腕、肩、頭部などの上半身を重点的に鎧で守り、下半身は具足程度に止める。
ただ、ユクポゥだけは防御力を重視したみたいだ。鎧一領ほぼ丸ごと装備し、頭部だけは兜を被らずにいた。その代わりなのか、例の「王冠」を装備するようだ。
おい、ユクポゥ。おまえのその「王冠」、防御力は皆無だからな? 分かっているよな? まあ、あいつにとってあの「王冠」は、ある種の縁起担ぎみたいなものなのだろう。人間でも傭兵などの中には縁起を担ぐ者は少なくないし。
一方、武器の方はしっかりと選んだ。
ユクポゥが選んだ槍は、投擲すると手元に戻って来る《返還》の魔術がかけられているらしい。他にも貫通力を増強させる魔術も施されているので、かなり強力な槍と言える。
パルゥが目をつけたのは、武器ではなく盾だった。剣の方はこれまで通りのやつを使うらしいが、この盾もまた強力な武具である。
ジョーカーの鑑定によると、この盾は受け止めた攻撃を相手に反射するらしいのだ。とはいえ、反射するにはある一定の条件が必要らしいが、そこはジョーカーでも分からなかった。今後の戦いの中で、その条件を見つけ出す必要があるだろう。
それでも、この盾が強力な防具であるのは間違いない。ハライソめ、よくこんな稀少かつ強力な防具をこれだけ持っていたな。ちょっとだけ感謝しておくか。
さて、俺が選んだ剣は、見た目はちょっと古ぼけた剣だが、この剣には所有者の魔力を高める能力があるらしい。
ハイゴブリン・ウォーロックとなった俺にとって、この剣は心強い相棒となってくれるに違いない。
その他にも魔力を秘めた武器はあったので、あまり武器を使わないギーンやサイラァも自分が使えそうな物を選んでいた。その際、隊長もちゃっかりと剣を一本自分のものにしていた。あいつって、こういうことは本当に抜け目がないな。
ついでというわけではないが、クースにも護身用に短剣を一本持たせておく。切れ味が鋭くなる魔力が込められているので、包丁代わりに使えなくもないし。
ともかく、これで俺たちの戦力は軒並上昇したと言っていいだろう。そして、当初の目的も果たせたことになる。
残念ながらというか何というか、
「あいつ」が今どこで何をしているか分からないが、そう遠くない内に「あいつ」とは
もちろん、確証なんてない俺の単なる勘だ。だが、この勘は外れないだろう。
新たな武具の感覚を確かめつつ、俺は何となく確信していた。
「あいつ」との再会が、間近に迫っていることを。
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