第657話関白殿、二月二十一日に(12)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


掃門司が参上して、御格子をお上げします。

主殿寮の女官なども掃除のために参上し、しっかりと済ませます。

中宮様もお目を覚まされたのですが、花も木もありません。

中宮様は

「これは驚きました、あの造花の桜の木はどちらへ?」

などと、おっしゃられます。

中宮様は続けて

「まだ暗いのにとか、桜泥棒などと言っているのが聞こえたけれど、やはり少し枝を盗むくらいと思っていたのです」

「いったい、誰が持って行ったの?」

「あなたはその様子を見たの?」

などと、おっしゃられます。

その問いに対して、ある女房が

「はい、はっきりと見たのではありません。実は暗い時分でしたので、しっかりと見えませんでした。それでも白い服を着た人がいましたので、桜の花を枝から折って持って行くのかと心配になりましたので、花盗人と行ってしまったのです」

と、申し上げます。

中宮様は、

「しかし、全てこんな風に、何故持って行ってしまうのでしょうね。関白殿がお隠しになられたのでしょう」

と、おっしゃり笑われます。

私(清少納言)は、

「さて、そういうことではなくて、春の風が運び去ったのではないかと」

と申し上げます。

中宮様は、

「あなたは、春の風が、と言おうと思って、知らないふりをしていたのですね。泥棒などとは違って、それはそれは風情のあることですね」

とおっしゃられます。

このようなやりとりが、よくあるのですが、それはそれで本当に素晴らしいのです。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :中宮様も、誰が指示したのか、すぐに理解したのですね。

清少納言先生:それはそうですね、関白殿が用意した造花の桜、それを取り外すとならば、関白殿になります。


※関白殿、二月二十一日に(13)に続く。

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