第315話正月に寺にこもりたるは(8)

僧侶が一晩中、大声で勤行をしている中で、夜を明かすので、寝入ることもできないのですが、その除夜の勤行が終わって、少し横になっている時に、このお寺の御本尊につながるご経文を、本当に荒々しく尊く唱えて声を響かせながら、入ってきました。

ただそれが格別尊いということではなく、修行者のような法師が簑を敷いて読経をしているようです。

それで、ふっと目覚めてしまって、その声をしみじみと聞きました。

また、夜には籠もることをしないのでしょうか、おそらく御身分が高い人々が、青鈍色の指貫で綿入りのものと、白い着物を重ね着しているのですが、そのまわりを取り囲んで、おそらくご子息たちと見える若い男で、美しい装束を着た者が子供などを連れているのが見えます。

家来らしい人達も、たくさんかしこまっているのも面白く見えるのです。

礼拝は、屏風を立てて、本当に少しの間だけするのだと思います。

見知らぬ顔の場合は、誰であろうと、素性を知りたくなります。

顔見知りの者の場合は、見当がつくのが面白い。

若い男たちは、とにかく局の周囲をうろつくばかり、御本尊などは見申し上げることなどはしません。

結局、別当などを呼び出して、小声で何か告げて、中座していきます。

その様子からみて、低い身分の者とは、思われません。

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