第312話正月に寺にこもりたるは(5)

犬防の方から僧侶が近づいてきました。

その法師は

「御立願につきましては、御仏にしっかりとお伝え申し上げました」

「何日ぐらい、おこもりになるのですか」

「今は、これこれ云々のおこもりでございます」

などのお話をして、一旦立ち去ると、すぐに火桶や果物などを次々に持ってきました。

半挿に手を洗う水を入れて、持ち手のない盤も運ばれてきました。

法師が

「お供の方々の宿坊はあちらでございます」

と言って、交代で接客を受けに行きます。

誦経の鐘の音が聞こえてくると、自分のためのものだと思い、心強くなります。


隣には、かなりな御身分の御方が座っています。

本当にヒッソリと額をつけて礼拝の仕方や立ち居振る舞いも、たしなみを感じていましたが、すごく思い詰めた様子も感じます。

夜も眠らず勤行に励む姿は、ほんとうに心にしみてきます。

礼拝をやめて、少し休息している時も、お経を低い声で読んでいるのも、尊く感じます。

できれば、もう少し大きな声で読経して欲しいと思いますし、ましてや鼻を大げさにかむこともなく、ひっそりとかんでいるです。

どのような願いを持つ人なのでしょうか、できれば、その願いを成就させてあげたいとまで思うのです。


正月に寺にこもりたるは(6)に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る