第313話正月に寺にこもりたるは(6)
数日の間、寺籠りを続けていると、以前は特に日中などは、心持ちが少々ゆったりするように感じられたものです。
しかし今は、供のものも、下仕えの女も童女なども、全員が導師の宿坊に行ってしまって、少々所在なさを感じます。
そんな折に、すぐ近くで、正午の時を告げる法螺貝を突然吹き始めたので、本当に驚いてしまいました。
美麗な立文を供のものに持たせた男が、誦経のお布施をそこに置き、堂童子などを呼ぶ声が、山々にこだまして、ますます華やかな雰囲気になります。
誦経の鐘の音が、いっそう鳴り響き、どのような誦経なのかと耳をそばだてていると、高貴なお屋敷の名を申し上げて「御安産となりますように」と、効験がありそううな僧侶の御仏へ申し上げる声が続きます。
そんな誦経を聞いてしまうと、こちらでも、しだいにお産の様子はどうなのだろうかとか、心配になってきます。
やはり、自然に安産を願ってしまいます。
やはり、寺が閑静であるという状態は、普通の何でもない日のことなのだと思います。
正月などになると、参拝者も多く、本当に騒がしいばかりです。
願い事を何かする人達が、絶え間なく参詣する様子を眺めていると、こちらの勤行も忘れてしまうほどです。
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