第305話あはれなるもの(3)

さて、そういう話が普通であるのに、右衛門佐宣孝と呼ばれた人は異なっていた。

宣孝

「行装の程度を落すなど、面白くないことだ」

「普通に清浄な着物を着てお参りをすることに、どういう問題が発生するのか」

「御嶽の蔵王権現様が、質素な行装で参詣せよなどは、絶対に間違ってもおっしゃられない」と言った。

事実として、三月の終わり頃、本当に濃い紫色の指貫に、白い狩衣、山吹色の本当に人目につく衣などを身に着け、長男の主殿の亮隆光には青色の狩衣、紅の袿、斑模様を擦りだした水干という袴を着させて、随伴参詣したのである。

その様子を見かけた、参詣を終えて帰途につく人々や、これから参詣する人々には、。確かに綺麗であるけれど、御嶽詣でにはふさわしくないと思われたようだ。

人々は「本当に、この御嶽詣でをしているけれど、こんな行装の人など見たことがない」と驚き呆れていたのだけれど、四月一日に帰京し、六月十日頃に辞任した越前守の後任となった。

人々は「宣孝があの時に言っていた通りになった」と噂になった。

この話は、しみじみとした話ではないけれど、御嶽詣での話のついでに書いたのである。


あはれなるもの(4)に続く。

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