第191話里にまかでたるに(2)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


左の中将経房の君と済政の君だけは、事情をよく知っているのです。

左衛門の厨則光様が来られて、とりとめのない世間話をする中、「昨日、宰相の中将斉信様がいらっしゃっって、『私の恋い焦がれる女性の居場所ですよ、まさかお知りにならないということはないでしょう、おしゃってください』と強く言われるのですが、全くわかりませんと申し上げるのですが、まあ無理やりのように聞いてくるのです」と言われ、「私も知っていることを知らないと言うのは、本当に困りました、もう今にも教えてしまいそうでしたけれど、左の中将経房の君が、全くわからないという雰囲気でありましたので、あのお方と目を合わせた時など、笑いだしたくなりました、それで窮余の一策で台盤の上にあった海藻を夢中で口に押し込みました。そうやって誤魔化したのですが、他の事情を知らない人が見れば、食事時でもないのに奇妙な事をするものだと思ったでしょうね。でもね、それがあって、清少納言様の居場所を告げずに済みました。もし笑いだしていたなら、失敗ですね。でも、本当に知らないのかと思われたのも、なかなか面白いことでした」と語るのです。

私(清少納言)は、「絶対に申し上げないでください」とだけ言ったのですが、その時から、かなり日数がたちました。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :居場所をどうして、そこまで秘密に?

清少納言先生:斉信様は、素晴らしいお方ですが、中関白家への接近と中宮様への接近のために、私が利用されているような気がしてね、そういうのは美しさを感じないの、私は嫌い。


プライドと美意識の高い清少納言は、自らが不純な動機の「道具」になることを嫌ったのだと思う。

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