明けの八雲 清少納言の美学

舞夢

第1話春はあけぼの

  春はあけぼの ようよう 白くなりゆく 

  山ぎわ 少し明かりて

  紫立ちたる雲の 

  細くたなびきたる



清少納言先生:はい、最初だから、これだけにしてあげる。

       それでこれはわかりますよね。

舞夢    :ええ、なんとか、教科書で習いました。

清少納言先生:ふぅーん・・・じゃあ、現代語とやらに訳してごらんなさい。

舞夢    :えっと・・・春は夜明けが一番素晴らしい

             少しずつ空の色が白くなってくる

             山ぎわの空がほんのりと明るくなって

             紫がかった雲が細くたなびく

             その風情が素晴らしい。

       こんな感じ・・・ですが・・・

清少納言先生:うーん・・・間違いじゃあないけれどね、カチンコチンだね。

舞夢    :いや、これは現代語の限界かと・・・

清少納言先生:まあ、そうだよねえ。

舞夢    :和歌でもないですし、このスタイルは「詩」に近いですよね。

清少納言先生:ああ、舞夢君の生きている時代なら「詩」に近いかもしれない。

       けれど、詩でもない。

舞夢    :和歌でもなく、詩でもなく、物語でもない。

清少納言先生:思ったことを思った通りに書いただけだよ。

舞夢    :それでいて、しっかりと先生の情感が伝わってきます。

       スッキリとした中に、奥深い雅があります。

       それにしても、勅撰和歌集全盛の時代に、こういう散文を書かれた。

       しかも現代まで、最高位の文学作品としての評価です。

清少納言先生:まあ、いまの段階でそこまで、わかってくれればいいよ。

       ありがとう。


清少納言先生はうれしそうな、ホッとした顔。



舞夢    :でね、先生・・・そろそろね。

清少納言先生:え・・・なんかいい香りがしてきたよ。

舞夢    :お正月ですし、準備しました。

清少納言先生:わかった!野暮は言わないよ。


結局、清少納言先生と朝方まで、酒を飲み交わすことになった。

「もっと教えてください」とお願いしたら


「えへっ!」

少し頬をあからめて、飛び切りのウィンクで応えてくれた。

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