第12話 久野文香の結

起。


俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。


「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」


と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。


承。


「はぁ・・・。」

「どうした? ため息なんかついて?」


彼女ができて、幸せの絶頂にあるはずの男がため息をついている。


「文香ちゃんに、今度の日曜日にデートしようって言ったら、断られた。」

「日曜日か・・・無理かもしれないな。」

「なんで?」

「なんでと言われても・・・。」


私は知っている。久野文香の依り代のハチ公は、土日は多くの観光客との記念写真ラッシュで忙しいのだ。オカマなんかとデートをしている暇はない。


転。


「ああ・・・せっかく、できた彼女の文香ちゃんにも嫌われた・・・やっぱり俺は不幸なんだ・・・。」

「まあまあ、そんなにガッカリしなくても、平日だけでも学校で会えるんだからいいじゃないか?」

「そうだな、彼女がいないことに比べれば・・・マシだ。」

「おお。」

「ありがとう、福ちゃん。俺は不幸を思い止まったよ。」

「私は福の神だからな。貴様の不幸は頂くよ。」

「福ちゃん優しいね。もしよかったら、土日の俺の彼女にならない?」

「断る!」

「そんなこと言わないで。」

「こら! 私に触るな!」

「えへ。」


調子に乗るな! と言わんばかりに即答で拒否する。


結。


「おい、オカマ。」

「オカマはやめよう。彼女もできたし、リエくんでいいぞ。」

「リエくん!? ・・・おえぇ!」

「おえぇ! とはなんだ!? おえぇ! とは。」

「わかった、じゃあ、貴様。」

「なんだ? 福ちゃん。」

「そろそろ、貴様に迫りくる不幸と戦う物語にしたいんだが、恋愛話は、そろそろ終わりにしていいかな?」

「いいよ。彼女もできたしね。福ちゃんは週末彼女だし。」

「だから! 私に触るな!」

「えへ。」


私の貞操も守られた!? 久野文香の正体がハチ公の像と知ったら、貴様は不幸のどん底に落とされるだろう。ハハハ。


つづく。


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