第8話 朝昼夜の結
俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。
「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」
と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。
承。
「福ちゃん、大好き。」
と、俺が寝言をニヤっと、よだれを垂らしながら、つぶやいている頃。
「こいつは、アホか・・・気持ち悪い。」
福の神は起きていた。起きていたというよりも、寝ていたら苦しかったので、目が覚めたのだ。福の神は、とても怖い夢を見ていた。
「何だ!? 金縛りだと!? 福の神の私が動けないだと!? 貧乏神の襲来か!? それとも悪霊が攻めてきたのか!?」
福の神は、気力を振り絞って、パチッと瞳を開けた。
「ん!?」
福の神の体は、俺にしっかり抱きしめられていて、身動きが解けなかったのだ。
「キャアアアア!」
福の神は、少しの照れを隠すように、俺を蹴り飛ばす。体は冷や汗をかいて濡れていた。それでも俺は、幸せな夢を見ていて目覚めなかった。
転。
「福ちゃん、待て待て。」
「リエくん、こっちよ。」
「福ちゃん、捕まえた。」
「捕まっちゃった、エヘ。」
「福ちゃん・・・。」
「リエくん・・・。」
2人は、夢の砂浜で見つめ合い、抱きしめ合っていた。これから唇をとんがらせて、キスという所だ。
「ストップ!」
「な!?」
「え!?」
俺の幸せな夢の中に、福の神が必死の形相で現れた。
「貴様らは、何をやっている!?」
「いいだろ! これは俺の夢だ!」
「ダメだ! なんで相手が私なんだ!?」
「別にいいじゃないか!?」
「良くない!」
「俺にだって、初夢を見る権利があるだろう!?」
「ない。」
俺は、福の神にコテンパンニ叩きのめされて、涙を流した。
「そこの私!」
「は、はい。」
「なんで、オカマに言い寄られて、嬉しそうにしてるだ!?」
「つい、アハハハ。」
「福の神としての自覚はないのか!?」
「すいません。」
俺の夢の中の福の神は、体を小さくして反省した。
「まったく、最近の福の神はたるんでいるな! ん!? 私か!? 私のことか!? アハハハ・・・ガクン。」
こうして、俺の夢の中から、福の神は去って行った。
結。
「福ちゃん、大好き。」
俺は、まだ夢の中で福ちゃんを追いかけていた。
「私、がんばります!」
福の神の注意が入ってから、決して、逃げて走る福ちゃんは、俺には捕まえることができなかった。
「それでいい。それでこそ私だ。」
うんうんと腕組をしながらうなずく。
「それにしても、このオカマをなんとかしないと、乙女の危機である! さすがの福の神の私も寝込みを襲われたり、夢の中で襲われては、ひとたまりもない・・・、何か対策を練らねば・・・。」
悪だくみを考えるついでに、ふと、福の神は考えてしまう。
「もし、あのまま目が冷めなければ、私はオカマと・・・ハッ!? いかんいかん! 私は何を考えているんだ!? 私は福の神だぞ!? この不幸の塊は、神をも畏れぬとは、愚か者・・・め・・・。」
寝ている俺を見つめる福の神の視線が、鋭くから言葉にできないに変わったことに、夢の中で鬼ごっこをしている俺は気づかなかった。
「福ちゃん、待て待て。」
「うえ! やっぱり気持ち悪い。」
不幸の塊の俺の幸せそうな寝顔は、やっぱり不幸だった?
「気分も悪いし、もう寝ることにしよう。布団が1枚しかないから、仕方ない、我慢してやる。」
そう言うと、気持ち悪い俺の寝ている布団にそっと入ってきて、一緒に朝まで眠ってくれた。その福の神の寝顔は、どこか幸せそうだった。
つづく。
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