第一話「灯油」
玉座の間にて。
「召喚されし勇者よ。この世界では魔法が極めて発達しているのだ。だが、その結果……恐るべき悲劇が起きたのだ」
「もしや、世界征服を目論む悪の魔道士や魔王が?」
「いや、外に出なくとも生活できるようになってしまったのだ!」
「ハッピーエンドじゃねーか!」
「だが、お陰で誰も外に出ようとしなくなってしまったのだ……そこで勇者よ、そなたの出番だ」
「ろくでもない予感がする」
「この城の下にあるファンタジーガレージから、ファンタジー灯油を取ってきてファンヒーター(原作者注ファンタジーヒーターの略)に注ぐのだ!」
「お前いい加減にしろよ!」
「このままでは世界は冬に閉ざされ、城に暮らす者たちは悉く凍えて死んでしまうであろう……」
「いや灯油切れかれてるだけだろ。魔法で何とかしろよ。高度に発達してるんだろ」
「この任を果たした暁には、そなたは王国の危機を救った英雄……余の娘を嫁にやろう……」
「やらせて頂きます」
城の地下には、確かにポリタンクに入った灯油(のようなもの)があった。ちゃんとシュコシュコするやつ(ファンタジー醤油ちゅるちゅる)もあった。
そうして俺は、引きこもりの国で英雄になった。だが、俺は忘れていたのだ。
「我が娘よ、この男が気に入らぬというのか?」
「いえ、私も王家に生まれたもの。必要とあらば誰にでも嫁ぎましょう。ただ……」
「ただ?」
「外に出るのは嫌でございます」
姫も当然、引きこもりなのであった。
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