〜狂人たちのお仕事・番外編第参狂〜

──君が紡ぐ物語story that you can spin・ある案内役の憂鬱──


チリンチリン……ッ


何処かで鈴の音が聞こえる。一つの音だけで無く、少しずつ音の異なる鈴の音が辺りに響く。

「あ〜……菱垣ちゃんと話したいよ……」

誰かが暗闇の中で呟く。優しいテノールヴォイスで、聴いていて心地良い。さらさらと布同士が擦れる音が鈴の音の間をぎる。

「も〜……案内係なんて要らないと思うんだけどなぁ? 時代錯誤にも程があるって〜……」

ガチャ……ップルルルルルッツー……

『………………………あ〜ハイハイ、こちら〔四津犠屋よつぎや〕ですが。ご要件は?』

「──…………菱垣ちゃんに会いたい」

『………………………菱垣? 〔葬骨屋ホムハニヤ〕の菱垣ですか。──暫しお待ちを』

待たされる事きっかり五分。戻って来た電話相手が返答する。

『──お待たせしました。ご要件の菱垣ですが今は仕事中だそうなので、また後日、大丈夫な日に電話を折り返すそうです』

「──…………そう。解ったよ、有り難う露羅巍君……」

『──ではまたのご利用、お待ちしてます。……鳴獅ならしさん』

ガチャンッツー……ツー……

漆黒色の受話器片手にその誰かは▪▪▪息を吐き出した。

「……はァ…………『名無し』で良いんだけどねェ?」

鳴獅と呼ばれた彼は受話器をそっと元に戻すと、ん〜っと伸びをした。そして欠伸を一つ。

「…………電話があるまで寝てようかなぁ〜? ……依頼が無ければ、ね」

ぽすんっ

そう言うと彼は電話と同じ漆黒色のベッドに倒れ込み、そのまま瞼を閉じる。

「お休み世界……」

そうして彼は深い深淵に堕ちていく。


──三日くらい経った頃だろうか? 不意に彼は目を覚ました。心地良い眠りの夢想世界からの覚醒にしてはえらくスッキリし過ぎた目覚めだった。

「んん……そろそろ、かなぁ?」

プルルルルルッ

彼が呟いたとほぼ同時刻。ベッドサイドにある電話が鳴り響いた。

「ん〜……ビンゴ、かなぁ?」

ガチャ……

「もしもーし……だァれ?」

『──……俺ですよ、鳴獅さん。その感じだと寝起きですかね?』

「う〜……ぅん。さっき覚醒おきたばっかりだね〜。それで、電話の内容は〜?」

『──……先程菱垣から電話があってコレからそちらに向かうそうです。…………助手を紹介したいとかで……』

「! 助手だって? うわぁ楽しみだなぁ! どんな子が来るの? 好きなお茶とかお菓子は?」

『──……鳴獅さん、別料金取りますよ?』

「酷っ! 露羅巍君酷い! 悪魔! 鬼! 人で無し!」

『──……鳴獅さんが言うと子供の小さな抵抗にしか聞こえませんがね? …………クッキーと紅茶が好きだったみたいですけど』

「おぉ! ってあれ、別料金?」

『──……いや今のは日頃の感謝という事で、無料で良いですよ』

「怖い! 露羅巍君が怖いよ!? さっきの事は水に流して忘れて!?」

『──……あ〜すいません。時既に遅くメモ取ったんでアウトです』

「うわぁぁぁぁぁ!? 露羅巍君のメモ魔発動したぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『──……寝起きでよくそのハイテンション叩き出せますよね〜……?』

「そして引かれた! ……ゲホン久々の来客に胸が踊ってるんだよ、仕事しても楽しく無いからね」

『──……あ〜確かに。影でグチグチ言ってる奴らの相手は心底面倒めんどいッスね〜』

「まァ飽きたし諦めたけどね? じゃあそろそろ準備したいから切るね〜? ありがと露羅巍君」

『──……俺で良ければ話し相手くらいやりますよ。どう致しまして、またのご利用お待ちしてます』

「うんありがと〜」

ガチャンツーッ……ツーッ……

「あ、はは……露羅巍君は性急だなぁ……」

あの子もいつまでも変わらない。要件しか言わない所。そっとした優しさがある所。そして──……いや止めよう。彼には彼の人生みちがあるのだ。それを邪魔するのは邪道であり、案内役としてどうかと思う。


「ッはァ〜……久々過ぎていつも通りに話せるかなぁ?」


言葉ではそうは言うものの顔は嬉しそうに頬が垂れ落ちている──行動が反比例してるので付いたあだ名は『天の邪鬼』(注:本人は知らない)──ので言葉の説得力が無くなっている。


「はァ〜……今日も明るい日だ。楽しみだね?」


そう言って彼は黒に包まれた部屋を出てそっと姿を消した──。

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