第17話 俺が守るんだから
一緒に居たメイが、私の声を聞いて驚く
「タケルくん、って昨日の……」
私は頷いて、通話ボタンを押した。
「……はい」
『どうも、タケルです』
「どうしたの?」
『昨日はすぐに帰っちゃったから……もう一度会いたいなと思って』
メイが興味津々な顔でこちらを見ている。
どうしようか。
「うーん、今日は中空くんも帰っちゃったし間宮くんも休んでるんだよね」
昨日の続きを話すなら、皆とタイミングを合わせる方が良いと思ったのだけど
『あれ、そうなの?』
タケルくんは驚いた様子でそう返事するも、すぐに言葉を続ける。
『でもいいや、今日はさくらに会いたいだけだから』
「えっ」
『ねえ、今日この後二人で……会えないかな?』
結局。
メイには電話の内容を話して、先に帰ってもらった。
メッセージで指定されたとおり、学校から近くのカフェに入ると
「やあ」
タケルくんがこちらに向かって手を挙げた。
「もしかしてここから電話してたの?」
「そうだよ」
用意周到というか、なんというか。
彼の行動は今ひとつよく分からない。
「それで、何か用事でもあったの?」
私を直接呼び出すということは、そういうことじゃないのだろうか。
けれども彼はにっこり笑って
「ううん、普通に会いたかっただけだよ」
「え?」
「だから、さくらに会いたかったの」
それは、どういう意味かしら。
ポカンと立ち尽くす私を見て、タケルくんは席に着くように促す。
「とりあえず、何か呑んで」
「え、あ……うん」
じゃあカフェオレで、と通りかかったスタッフに注文をして
本題に入る。
「本当に、会いに来ただけ?」
「やだなあ、ほかにどんな理由があるのさ」
「だって昨日会ったばかりだし」
「だから、いろいろ知りたいんだよ。君のこと」
彼の声のトーンが一瞬、低くなった気がした。
「私の……こと?」
「そう。例えば……」
タケルくんはカップを少し揺らしてから口元に運ぶ。
一口飲んで、また言葉を続ける。
「君がどこまで思い出したのか、とかね」
「えっ」
あまりにも唐突で突拍子も無いその質問の意図が分からず、私は短く声を上げたまま彼を見つめた。
「単なる興味だよ」
タケルくんは両手を組み合わせた上に顎をトン、と乗せてイタズラっぽくこちらを見て微笑む。
美少年は何をやっても絵になるところが羨ましい。
「さくらの事が知りたいだけ」
「私の事?」
そう、と頷く彼の本心は全く見えない。
整った顔立ちがそうさせるのか、彼がそもそもそういう性格なのか。
「ほら、可愛い妹の事だから」
「そんな、突然妹って言われても」
「もしかして……年下の俺に妹扱いされるのは嫌?」
「そういうのじゃなくて」
タケルくんは少し強引すぎる気がする。
まだ知り合ったばかりだし、なにより過去の記憶なんてまだ触れたばかりの事なのに。
何をそんなに距離を縮めようとしているのだろう?
「タケルくんは何か……知りたい事があるの?」
純粋な質問だった。
彼の行動が、どうしても不可解に思えて仕方がなかった。
「だから言ったじゃん、さくらの事が知りたいって」
「それは……過去の記憶?」
「どっちも」
「え?」
両方、つまり過去も含めて今も知りたいと彼は言う。
ますます意味が分からず、どう反応すれば良いのか言葉を探しあぐねる私を見て
彼は困ったように眉を寄せた。
「正直、俺は過去なんてどうでもいいんだ。今、楽しければそれが一番だと思ってる」
「じゃあどうして過去の事を?」
「今の唯一の共通点だからだよ。俺が君に会うための理由としての」
「私に会う、理由?」
「そうさ。俺は最初こそ、過去の記憶を共有する仲間として君に興味を持った。だけど実際会ったら……君はあの時と変わらない様子で俺の前に現れたんだ。また会いたいと思ったのは今の俺──タケルの本心だよ」
彼はそう言って少し首を傾げ、上目遣いで私を見上げる。
「こういうの……一目惚れって言うのかな?」
「!」
自分には縁遠いであろうと思われる言葉を聞いて、全身の血が首から上に集まった気がした。
「ちょ、ちょっと冗談はやめ……」
「本気だよ」
私はどうして良いのか分からず、思わず彼から視線を外した。
顔のほてりはまだ収まらない。
「大事な人だからこそ、過去に振り回されてほしくないんだ。『今』を生きて欲しいと思ってる」
その言葉に再び顔を上げると彼の真剣な眼差しが目に飛び込んできた。
少しの間、静かな沈黙が流れる。
「俺は、あなたを守りたい」
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