第8話 打ち解ける二人

「えっ」

私は言葉を失った。


何か咄嗟に言葉を発した記憶はある。

けれどもそれが目の前に座る彼の

夢の中での名前だなんて誰が想像するだろうか。


意味がわからない。


「夢の中で、俺はリンって呼ばれてるんだ。本当はーーリンネ、だったかな。そんな名前だったと思う」

女みたいだよなー、なんて気さくに彼は話してくれるけど

「…………」

私は呆然とするしかなかった。

思考がまったく追いつかない。


とりあえず、まとめると。

昔から変な夢を見ていたのは私だけじゃなくて、

彼も似たような境遇で。


そこはまあ、共感もできそうだ。


だけどーーーー


なぜ、彼と同じ内容の設定なのか。

しかも…隣同士に住んでいる!?


おかしい。

どう考えても、おかしい。

そんな馬鹿な話あるワケが

「信じられねえのは俺も同じだよ」

私の考えを察したのか、彼はため息をついてそう言った。


「でもさ、なんだかよく分かんねーけど…面白くないか?自分の知らないところで同じ記憶があるみたいな」

「記憶?」

「だって、あれは多分…記憶だろ。ずっと昔の。文明だってさほど発達してない頃みたいだし」

「てことは……もしかしてメイが言ってたとおりの」

前世が〜なんてバカな話、あるわけないと言ったのは今朝の話だ。

「かもな」


彼は誰かからのメッセージかもしれないぞ、と両手を前に垂らし

幽霊のようなそぶりを見せた。

「まさか」

「まあ、なんにせよ仲間が居たってことで。」

答え合わせみたいで面白い、と彼は少し楽しそうにしている。


確かに彼とはまだ初対面のはずなのに

なぜか懐かしい気持ちと

昔からの知り合いのような気がしていて

だけど本当に、お互い全く接点もなく。

私はただただ首をひねるしかなかった。



「ま、俺は前に一度だけお前に会ってるけどな」

「えっ」

思いもよらない言葉に更に驚く。

「……忘れてるだろ」

真面目に、少し拗ねてるような顔で彼は言う。

すみません記憶にない。


「ごめん、それって…いつ?」

「去年」

「ええ!?」

変な声が出てしまった。

最近じゃないか。


彼はそれを肯定と捉えたようで

「だよなーそりゃ一瞬だったしな。仕方ないよなー」

と大げさにため息をついてみせる。


「ご、ご、ごめんなさい」

「いや、いいって」

「ところで…どういう状況で?」

記憶にないからこそ怖い。

変なイメージついてなければ良いのだけれど。


「忘れてるならいい」

「ええ、気になるから教えて」

「いやだ」

「ええ〜」

私は半分泣きそうになった。

どうして教えてくれないのか。


初対面の方には恥ずかしいところなんて見せてないはず、だけど

今朝のように周りに配慮せず何かやらかしているなら恥ずかしい限りだ。


「ま、思い出したら教えてやるよ。別に必要ないことだしな」

「……思い出します……」

ボソッとつぶやいた時には、保健室の先生が戻ってきた。


「山下さん…大丈夫?お母さんが迎えに来られたわ」

「あ、はい」

私はすっかり目眩が治ったことを先生に報告し、彼にも改めてお礼を言う。


「…じゃ、先に帰るね。」

「おう、気をつけろよ。」

「ありがとう。」

「ん。また明日な」


なんだかこのやり取りも、初めてじゃないような。

切なくなるような気持ちを感じる事を不思議に思いつつ

私は先生が持って来てくれた荷物を抱え、学校を後にした。

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