第6話 質問
「……夢?」
一瞬、何のことだったかと理解しかねたが
すぐにーー思い出す。
「ーーーいや、心当たり無いならいいんだけど」
変なこと言ってごめん、と彼は慌てて話を切ろうとしたので
私は慌てて返事をした。
「……見た、かもしれない」
はっきり言える自信と勇気の無さから、曖昧な言葉になってしまった。
「……え」
彼がカーテン越しに振り返るように、影が動く。
「それってもしかして……雪景色とか、見えたりした…?」
「!!」
私は咄嗟にガバッと音を立てて起き上がった。
が、すぐに目眩に襲われる。
そのまま、体を二つ折りにして布団に顔を埋めた。
その音に彼は反応して
「えっちょっ……大丈夫?」
と声をかけてくれる。
「あー…うん、ごめんね。目眩が」
「そっち、行っても…大丈夫?」
「……うん」
カーテン越しにやり取りする、この微妙な距離感が気になるので
私は反射的に返事をした。
そうっと、気遣うように
彼は椅子を持って、私が突っ伏しているベッドのそばへやって来た。
「……なあ、マジで大丈夫なの?」
「あー……うん、多分」
「全然大丈夫に見えないんだけど」
「だよね」
はは、と力なく笑う私の姿に
彼は苦笑しながら
「水、飲む?」
と、手に持ったペットボトルを持ち上げて見せてくれた。
そういえば、喉がカラカラだ。
脱水からくる目眩なのかな?
「…でもそれ中空くんのじゃ…」
「俺のはもう一つ、カバンに入れてるから。これ、お前の」
どうやら先生にもらったらしい。
「じゃ、ほしい。」
なんとか腕の力を振り絞り起き上がり、片手を彼に差し出す。
「ん」
彼もまた、私に水を渡そうと手を伸ばした。
二人の指が触れた、その瞬間
「!!」
---------------------------------------------------------------
「……ほら薬、ちゃんと飲めって」
「わかってる」
彼の差し出すコップを受け取るも、気が進まない。
「またそうやって飲まないつもりだろ」
「そんなことないよ」
「じゃ今すぐ飲め」
「え〜」
仕方なく、飲む。
苦い。
「……これ、やっぱマズいんだよね」
「文句はお前の兄に言えよ」
ふふ、と二人で笑い合ってーーーーーーーー
---------------------------------------------------------------
ドサッ
ふいに、ペットボトルが床に落ちた音で
私は我に返った。
「…………なに、これ。夢……?」
ほんの、一瞬だったと思う。
けれども、あまりにも長い時間だった気がして
脳に突然、無理やり信号を送り込まれたような気分だ。
目の前がチカチカする。
「…………ほら、やっぱり」
目の前の彼は、片手で頭を押さえるようにしながら
私を見て言った。
「さっきと……同じ……」
え?
何が?どういうこと?
彼は頭を押さえたまま、体を屈めて足元に転がった水を拾い
「……今の、なんか二人で話してるような…薬がどうこうって…」
「……え…?」
頭が混乱している私に、再度ペットボトルを差し出し
「多分、同じシーンの夢……見てるんじゃないか?」
「同じ……?」
私はペットボトルを受け取り、中空くんを見つめる。
彼は再度椅子に座り直し、下を向きふーっと深くため息をついて。
「さっきも似たような感じだったんだよ。お前落ちてきて危ないって受け止めた時…なんか二人で雪景色見てる映像がさ」
「え、え…ちょっと待って…それって」
同じ、夢?
「だーかーら、お前もあの時そんな夢見なかったか?って」
「……見た……見た!!!」
思わず声が大きくなってしまった。
いつのまにか、目眩も治まっている。
「はー……やっぱりか〜…なんだよコレ」
中空くんは頭を振りながら、だらけるように椅子の背もたれに体重をかける。
ギシギシと椅子が軋んだ。
「……え、っていうか中空くん……それって」
私が回らない頭で必死に言葉を探そうとしていると
彼は視線だけをこちらに向けて、ダルそうに呟いた。
「ーーー俺も。昔から変な夢見るんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます