ハッピーエンド

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ハッピーエンド

 どんよりとした空気。じめじめしている。平日の深夜、街はひっそりと静まり返り、辺りは私たちの足音しか聞こえない。23時を過ぎ、私たちは、新年会を終え、行きつけのBARへと向かう。今、私の隣には会社の後輩であり、私の好きな人、直子がいる。周りに電気がついている店は、この「HAPPY END」のみ。二人で、そっとドアを開ける。いらっしゃいと、マスターが声をかけてくる。私たちはそれに応え、カウンターの一番端に座る。私は生ビール、直子はレモンサワーを注文する。それに、私はいつもの、と声をかける。二、三年前からの行きつけのBARでマスターも私のことを知っている。さて、なんで今日はここに直子と共に来たのか。普通に飲むのであれば、一人で来店しマスターと語らう、でもいい。しかし、直子を連れてきたのは大きな理由があった。そう、まさしく告白するためである。まあ、それは最後まで取っておこう。私はマスターにおつまみを頼む。それから、直子と話し、少しして、たこキムチと漬物が来た。初めて見たが、なかなか美味しそうだ。これで250円は安い。これがつまみセットAだ。そして、つまみセットBも来た。ザーサイ、餃子が載っている。これが私の「いつもの」だ。ちなみに300円だ。お互いの仕事のことや家族の話、世間話もした。自分の友達がクリスマスの日、勤めていた病院で好きだった幼馴染と再会したというロマンチックな話は、盛り上がった。自分もあの話を聞いたときはドキドキしたものだ。まあ、あの話から告白しようと決めたのだが。今頃、楽しい正月を過ごしていることだろう。もう二時間は経っただろうか。2時を回り、お互い帰ろうとする雰囲気が出た頃。今だ。ちょんちょんと、腰をつつく。小学生みたいと、内心笑ってしまったが、もちろん顔には出さなかった。

「なあ、直子ちゃん、直子ちゃんが好きだ。付き合ってくれ。」

私はとうとう告白した。直子ちゃんは動揺し、赤面している。しばらくの沈黙。マスターの食器を洗うカチャカチャという音と水道から水が流れる音のみ。外も車音一つしない。そんな中、BARでは動きがあった。

「翔太さん。ごめんなさい。私、彼氏がいるんです。だから、ごめんなさい。」

さっきとは、まるで変わった態度に私は少し動揺したものの、苦笑し、

「いや、いいんだ。」

そう言い、五千円札を一枚置いてマスターと直子に挨拶し、「HAPPY END」を後にした。

一人になると、膝に涙がこぼれた。どうして、ハッピーエンドにならないんだ。

私は、降りだした雨の中、傘もささずに深夜の町並みを歩いていった。

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