第16話 暴虐と赦免

 気が付くとそこは見たことがある暗い地下室だった。


 僕の両腕は後ろ手にベットのヘッドボードの所にある鉄の棒にひもで縛られていて、足も紐で縛られてベットの上に体育座りの状態でいる。

 顔面は口が切れたためか口の中は血の味がし、口の周りは乾いてしまった血が固まっている。

 腹部も骨が折れてしまっているのか少し動くだけでも激痛がする。


 僕は首だけを動かして周りを観察する、その時にも体は悲鳴を上げて思うように動かない。

 そこは先ほどまで僕がいた宮園家の地下室と何も変わっていなかった。

 ベットがあり、テーブルがあり、椅子があり、そして宮園加恋も僕が出てきた時と同じように手錠をかけて柱から動けなくなっている。

 先ほどと変わっているのは宮園は気が付いているようで、虚ろな目で床を見つめている。

 宮園は僕の視線に気づいたのか、こちらを見てくる目には憎しみなのか、悲しみなのか、嬉しさなのかよくわからない複雑な感情がこもっていた。


「・・・・・。」

「・・・・・。」


 僕らは無言で見つめあっていた、僕は宮園に何と言っていいかわからなかったし向こうも何を言ったらいいかわからないようだ。

 ホントにお笑い草だ、なんとか家を一度抜け出せたというのにまたここに戻ってきてしまった。

 僕は笑いたくもないのに自嘲的な笑いがこみあげてくる。


 そして僕の不意を突いて突然扉が開かれる。

 入ってきたのは男だその男は我が物顔で勢いよく扉を開けると、こちらと宮園の方をみるとにやりと笑いそのままややに入ってくる。

 僕はこの男が誰なのかはわからない、でも気絶する直前に見た僕が殴られて倒れているときに下卑た笑いをしていたのはこの男だろう。


「二人とも気が付いたようだな、そこのお前確か山本といったか?おまえを運ぶのは二度目だ、なんでお前みたいな男を俺が運ばなきゃならねぇんだ。ホントむかつくわ。」

「・・・・。」


 なぜ僕が怒られなければならない?こいつは何を言ってるんだ、運ぶのが嫌ならそのまま見逃せばいいじゃないか。

 僕がそんなことをかんがえていると、それに気づいたのか男が話しかけてくる。


「お前が帰られると困るんだよ、俺も共犯者の一人だ。俺はてめぇみたいな男、拉致っても面白くないけどな加恋が言うから仕方なくやってんだよ。なぁ加恋?」

「・・・気やすく呼ばないでくれる。あなたみたいなオスに話しかけられるだけで気分が悪くなるから。」

「ああ?てめぇは変わらねぇな、俺もなんでお前みたいな女に告白したのかわからねぇぜ全く。」


 男は笑った顔を浮かべながら、眉がぴくぴくと動き青筋を立てているのがよくわかる。


「あなたはメスの体にしか興味がないだけの色情魔だからでしょう、ねぇ黒木悠斗くん?」


 今の嘲笑を含んだような言葉に激怒した黒木は動けない宮園の方に近寄っていく。


「うっせぇんだよ、てめぇはよ。ちょっと俺の弱みを握っていると思って調子こきやがって、てめぇなんかただ顔がいいだけの中身はゲロの様な人間のクセしてよぉ!!」


 そう言いながら、黒木は動けない宮園を何度もいたぶるように殴っていく。

 4度ほど殴った黒木は冷静さを取り戻したのか手をさすりながら立ち上がる。

 殴られた宮園の顔は思わず目を背けてしましそうなほどで左瞼は切れて、左頬は赤く腫れてしまっている。


「くそっ、つい熱くなっちまった。これから今まで俺を下僕のように扱ってきたのを後悔させてやるからな覚悟しとけよ。」

「・・・。」

「あの事だって、俺はあの女が誘ってきたから相手してやっただけだっていうのによ、自殺しやがってそれでなんで俺のせいになんだよ世の中狂ってるぜ。」


 そう言いながら彼はどかりと椅子に腰を下ろし、思い出したように僕を睨んでくる。


「そういや、お前山本とかって言ったっけ?お前なんか不思議な力を持っているんだってな?」

「・・・・。」

「おい、何とか言えよ!!無視してんじゃねぇよ!!」


 そう凄みながら僕を睨んでくる、呪いと祝福の事を言えばまた宮園みたいに何をしてくるかわからない。

 気軽に話すわけにはいかない。


「チッ、まあいいや。あーとそうだなお前をどうするか決めてなかった、う~ん、そうだ良いこと思いついた。おい山本、お前この女殺せ。」

「な、なんで?」


 僕は今の黒木の言葉に剣呑な雰囲気を感じ、慌てて答えた。


「ちゃんと喋れるんじゃねぇか。簡単だよ、お前も宮園加恋を殺した共犯者になってもらうためだ。」

「い、嫌だよ!僕はもう人を傷つけたりするのは嫌なんだよ!!」


 黒木はふんと鼻で笑ってから、気味悪く笑いながら話を続ける。


「お前がここから出たら警察に行く、いや行かなくても警察の方からきてお前に何故失踪していたのか聞くだろうなそうなった時にお前は確実に今回の事を話す。だからお前は宮園を殺すか、お前自身が殺されるか選ぶしかないんだよ。」

「そ、そんな・・・。」


 そうやって黒木はまくし立てる様に早口でしゃべり終えると満足そうに笑った。

 そうして黒木が話し終わり、三人が沈黙していると上階から犬の低い鳴き声が聞こえてくる。


「というわけでお前は選ぶしか・・・・くそっあの犬うるせぇな。さっき痛めつけたときに死んでいるとばっかり思っていたんだがな・・・。それにしてもうるせぇ、いいかお前ら変な真似するんじゃねぇぞ。俺はちょっと上の様子を見て、犬を黙らせて来る。」


 そうイライラした調子で言うと、黒木は急ぎ足で扉を出ていき鍵を閉める音が聞こえてくる。

 そうして少し経った頃宮園が話し始める。


「あの黒木悠斗って人間はね、どうしようもないほどのクズなの。あのオスはちょっと顔がよくてスポーツができたからのぼせ上がって、私に告白してきたの。一時期付き合っていることにしていたけど、面倒になってきたから、隣町の学校のメスをレイプしているところを見つかって、一度は警察につかまりそうになったんだけど証拠不十分で捕まらなかったっていう事件を起こしてたみたいなの。それで私が証拠を集めてそれを公表してやるって脅してやったら素直に従ったわ。生きる価値のない人間も使いようよね。」

「・・・・。」

「それでね・・。」

「もういい!!もういいよ、やめてくれ!」

「そう、わかったわ。」


 いい加減僕はウンザリだった、人間を人間としてみないこの女も、自分勝手に自分の欲望のために動くあの黒木って男もどちらも僕には生理的嫌悪感を抱かせる人間だった。

 僕は目を閉じ俯くように頭を下げた。


「ねぇ聞いて山本君、あなたに助けてほしいことがあるの。」

「え?僕が助ける?」

「うん、あなたにしかできないことがあるの私を助けて!!」


 僕は迷った。

 宮園は美香ちゃんを殺させた人間だ。

 僕が最も嫌なことをやらせた人間だ、だから助けたくないそう思っているが心の片隅では彼女を助けてあげたい、そう思っている自分もいる。

 僕は自分がこんなに甘い人間だと思っていなかった、漫画やアニメで悪役を殺すか殺さないか迷っている主人公を見てさっさと殺しちゃえばいいなんて思っていた。

 でも僕は今現実に目の前にいる女の子を、助けられるなら助けたいと思ってしまっていた。

 だから僕はもうあきらめた、彼女は許せないことをした、だけど僕は許してあげられる人間でありたいそう思った。


「わかった・・・僕にできる事なら手伝うよ。」


 そういった僕の言葉に彼女はいつもとは違う、心からの笑顔を浮かべていた。

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