画図百目鬼夜行

 




◎ 画図百目鬼夜行【 拾参 】



■ 鬼門陰陽流古武術

  月夜這つくよば



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 先鋒戦 』より。


 鬼門陰陽流古武術の独自の寝技、及び関節技である。


 自分は仰向けに、対象はうつぶせに、抱擁状態となって横たわる。対象の右の下肢かしを両脚で挟みこみ、さらには右脇に首を抱え、フロントチョークの要領で絞めて意識を奪う。と同時に、左手で対象の左手を捕獲、背後へと捻るようにして肩関節の破壊にかかる。非常に複雑な技であり、児戯的な技であるともいえよう。


 頭部の瞬時破壊を目的とする技が多い鬼門陰陽流古武術にしては珍しく、じわじわと対象を追いつめる寝技である。もしや遊び感覚で開発されたのかも知れない。一説によれば、開祖である百目鬼拳鐘どうめきけんしょうが遊廓で開眼したともされている。男女の因果なる情愛をほうふつさせる技の名称といい、遊び感覚というのもあながち的外れではないのかも知れない。


 いや……あるいは、にか。



⊿ 画図

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◎ 画図百目鬼夜行【 拾肆 】



■ プロレスリング

  フランケンシュタイナーFranken-Steiner



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 中堅戦 』より。


 パワーボムやD.D.T.と並び、プロレス界では超メジャー級の技である。


 正対する対象に向かって前方宙返りをし、その頭部を股間に挟みこむ。そして、バック宙の要領で対象ごと回転し、その頭部をマットに叩きつけるという技である。開発したのはスコット・スタイナーという伝説のレスラー。


 また、コーナーポストの上に対象を乗せてからマットへと叩き落とす、獣神サンダーライガーが派生させた『雪崩式フランケンシュタイナー』という技もある。


 時にはバック宙を食い止められ、逆に抱えあげられてパワーボムへと転ぜられることもあるという、まさにプロレスならではの見どころをも孕んでいる秀逸な技だったりする。



⊿ 画図

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◎ 画図百目鬼夜行【 拾伍 】



■ 鬼門陰陽流古武術

  ふね



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 副将戦 』より。


 百目鬼歌帆が巣南重慶すなみじゅうけいを打倒する際に使用した技で、鬼門陰陽流古武術の独自の投げ技である。


 対象の背後に立ち、左手で頭部を、右手で太ももを捕え、横に半回転させて頭部を地面に叩きつける。砕いていえば、を失敗させたようなカタチをつくることで、側頭部に深刻なダメージを与えるものである。この際、頭部を捕えている左手で対象の左腕をも搦めておくことが重要。これにより、受け身の起動率を軽減することができる。


 この技は、本来は力技ではない。熟練の理合りあいが求められる技である。対象の力の流れを利用し、腰で投げることを良しとするのであり、ならば柔道や合気柔術のそれにも近い。しかし、百目鬼歌帆は有事に至ってなおも腕力で仕上げたのであるからして、つまり、彼女もまだまだ半人前。



⊿ 画図

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◎ 画図百目鬼夜行【 拾陸 】



■ 鬼門陰陽流古武術

  奥義 ─ 歌帆ふなうた



『壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 大将戦 』より。


 鬼門陰陽流古武術の奥義のひとつ。


 独特の呼吸法と発声法で音声の塊をぶつけ、直接的に脳を揺さぶることで対象を昏倒させる。宇宙のはじまりの音とされる「」の音が鍵になっているとする見解はあるが、具体的な科学解明は為されておらず、結果論だけでできているといっても過言ではない非常に厄介な奥義である。


 注意点としては、対象のみに受信されなくては真の完成とはいえないということ。闘争に介しない第三者の聴覚に届いてしまったのでは、忍術として失敗なのである。


 科学の発達した今の時代、すでに音響兵器は単なる選択肢に過ぎない。しかし、明治、大正、さらには第二次世界大戦の場に奥義の改善意欲をしていたのであるからして、鬼門陰陽流古武術の先人たちがどれも真の実戦主義者であったことはもはや疑いようもない。つまり、先見の明だけが忍術の動力エンジンなのである。


 ちなみに、鬼門陰陽流古武術の奥義は他に5つある。


朱雀しゅじゃく

青龍せいりゅう

白虎びゃっこ

玄武げんぶ

不動ふどう


 多いと見るか少ないと見るかは読者あなた次第。





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◎ 画図百目鬼夜行【 拾漆 】



■ 大柔術 ─ 巌桐流

  雛羽搦ひなわがらめ・えん



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 場外戦 』より。


 桐渓更紗が百目鬼歌帆を急襲する際に使用した技で、巌桐流の独自の関節技である。


 対象の肩関節を、およそ180゜、あり得ない方向へと回転させる技である。このために必要なものは、ともかくも練磨された体幹である。なにしろ、滞空状態から、捕えている対象の腕を一縷いちるの支えにしたまま、鉄棒を回るようにぐるりと半周しなくてはならないのである。しかも一気呵成に仕上げなくてはダメージが減少するのであり、バランスのみならず、呼吸も重要、精神も重要──とくれば、心技体の係る難技であることはもはやいうまでもない。


 なお、この『円』の他、いくつかの派生技が存在するらしい。ひとつは打撃であり、もうひとつは絞め技らしいのだが、なにしろ公の舞台を望まない戦場格闘体系である、派生した先の内容は明らかにされていない。もしも全容を知りたいのであれば、やはり立ち合いを果たす以外に術はなかろう。暴力の大海へと身を投じずして、大柔術巌桐流はその姿をあらわしてくれないのである。



⊿ 画図

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◎ 画図百目鬼夜行【 拾捌 】



■ 柔術

  ニー・イン・ベリーKnee-In-Belly



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 場外戦 』より。


 柔道やブラジリアン柔術、総合格闘技などに見られる押さえ込み技。


 対象の腹部、あるいは鳩尾みぞおちのあたりに膝を乗せて動きを封じる。場合によっては関節技や打撃へと派生させるための起点の役割をも担う、制御的応変的な技である。


 とはいえ、腹部に膝を乗せる際には絶対に手加減をしてはならない。なにしろこの技、対象をことが大前提なのであるからして、相手を呼吸困難に陥らせなくては意味がないのである。膝に己の全体重をかけ、確実な苦痛を与えなくてはならない。


『ニー・イン・ベリー』の他、名称としては『ニー・オン・ベリー』『ニー・オン・ザ・ベリー』『ニー・オン・ストマック』など、カテゴリや流派によってわずかな違いがあるが、いずれにせよ、腹部ベリーニーを乗せて対象を制御、制圧するという点に大きな違いはない。



⊿ 画図

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◎ 画図百目鬼夜行【 拾玖 】



■ 大柔術 ─ 巌桐流

  羽子足はごあし



『 壱の戦 ≪ 空っぽの男 ~ 場外戦 』より。


 桐渓更紗が百目鬼歌帆にとどめを刺す際に使用した技で、巌桐流の独自の蹴り技である。


 まず、対象の顎、または人中じんちゅうのあたりに膝蹴りを入れ、矢継ぎ早に、それとは反対の膝を側頭部に叩きこんで2連とする。非常にアクロバティックな技だが、切替クイックの素早さや的確さの求められる繊細な技でもある。


 やはり、卓越した状況把握能力と成熟したバランス感覚なくしては絶対に語ることのできない、実にな技であるといえよう。


 ちなみに「羽子」とは、正月に羽子板でついて遊ぶ「追い羽子」に用いられる羽根シャトルのことである。



⊿ 画図

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