第14話 智に働けば角が立つ……兎角に人の世は住みにくい
「ふぅ…………」
食事が終わり、一息がついた食卓。
そこにセルミナと千歳がいた。
食器は片付けられ、テーブルの上には急須と湯呑が。
二人は対面に座りほうじ茶を飲んでいた。
「お腹もふくれたし、これからのことを決めようか」
コトリと湯呑をテーブルに置き千歳は言った。
「これからのこと?」
対してセルミナ。湯呑を両手に抱き、千歳が言った意味がわからず首をかしげる。
「うん。お腹いっぱいになったけど、問題は解決してないでしょ。明日からどうするのか」
「……ええ、そうですわね」
理解が追いつき、神妙に頷く。だが、そこで返事は止まった。考えはある。
自分でも甘ったれた考えだとわかるものが。
嫌でも思いついてしまったのだ。
この平和そうな少年、千歳に泣きつけばお金を貸して貰うことが出来るのではないか。
害を与えようとした相手に食事を御馳走してもらったのに、さらに厚意を要求する行為。
恩を仇で返すとは言わないが、心情はそれに近いものに感じる。
自分から千歳にお金を貸してくれと言うことは出来ない。プライドが良心が拒絶するのだ。かといって、相手からそのことを言い出すのを待つことは自分から言い出すのと何の違いがあろうか。むしろ、相手の良心をあてにする行為であり、たちが悪い。
進むも進まぬも地獄。答えが出ぬまま時が過ぎようとしていた。
だが、後方から救いの手が現れた。
「では、千歳様が援助をすればよろしいのではないですか?」
洗い物を終え、アリアは千歳の隣の席へ腰をおろした。
「それはいいけど、どうするのが最適かなぁ」
「いや、あの………ありがたいのですが」
セルミナの考えていた展開に話が進む。だが、一方的に援助されるのを良しとしない彼女のプライドが拒否の言葉を言わせようとしていた。
「アリアに良い考えがあります」
セルミナはごくりと唾を飲む。
「ひとまず、キス一回で千円でいかがでしょうか?」
無表情で告げるアリア。ゴンと音が鳴った。
セルミナが頭をテーブルにぶつけたのだ。
「だ、駄目だよ、アリア。ひとまずという意味もわからないし!」
「それはですね。胸を触ったりや……」
「いやいやいや、説明しなくてもいいからね。セルミナさんも僕がそんなことやるつもりはないから! 信じて」
「いや、あの……し、信じてますわ」
ボソボソとセルミナな言った。声が小さかったのて千歳には聞こえなかったが。
「ほら、セルミナさんも呆然としているよ」
「わたくしは……」
借りてきた猫のようにセルミナは動けずにいる。会話の流れはせきとせず、動き続ける。セルミナは伝えたいことも言えないでいた。
「なに、辛いのは最初だけです。千歳様の秘技にかかれば悦びの声をあげるでしょう。最終的にはハッピーエンドです。アリアには予想できます。セルミナ様が白目をむきながら笑うその姿を」
「全然ハッピーエンドじゃないよね、それ! 壊れちゃってるよ」
「幸せというのは個々人で違うものです。人によっては理解できなくても、本人にとっては幸せということが多々あります。千歳様の一存で決めちゃいけません。千歳様は神様ではないのですから」
「うっ…………そ、そうだね。そうだよね」
何か思うことがあるのかアリアの一言で語気が弱まる。
それを一瞥してアリアは言う。
「まぁ、99、9%の女性はそんな人生バッドエンドですが」
「台無しだよ!」
「ではセルミナ様が納得できる方向で話をしましょうか」
「わたくしが?」
突然会話が振られ、セルミナは戸惑う。そんなセルミナを見て、アリアは優しく微笑んだ。
「ええ、セルミナ様としては一方的な施しは嫌なご様子。違いますか?」
セルミナはアリアの言葉を噛み締め、飲み込む。そして、一瞬目を閉じた。自分の答えを整理するために。
「ええ。ストラグル家であるわたくしが恩人に更に援助を要求することは出来ませんもの。千歳、貴方の御馳走は涙がでるほど美味しかったですわ。これ以上借りを作ることは出来ませんわ。だから…………わたくしはここで去ろうと思いますわ。この宝物(おもいで)を汚したくありませんもの」
そう言って席をたとうとしたその時、アリアはセルミナに声をかけた。
「では、私達が助けて欲しいって言ったらどうしますか?」
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