第13話 オムライスと吸血鬼
「できたよ」
ドンと重量がある皿がセルミナの目の前に置かれた。
場所は神代千歳の家のリビング。
セルミナの眼前には、サラダとコーンスープとオムライスが置かれていた。
サラダボウルの中にはレタス、オニオン、コーン、プチトマトが入っていた。サラダボウルにひかれたレタスからは生命力を感じさせるような瑞々しい緑が、その上にあるオニオンの千切りはあたかもレタスという大地に雪化粧を施しているようだった。その雪の上にはコーンとプチトマトが鎮座しており、照明を光を反射して光るそれらは色は違えど宝石のように輝いていた。
次にコーンスープ。マグカップに入ったそのスープは黄金色の海のようだった。その黄金の海にに彩りとして刻んだパセリが振りかけれており、そして、よく見れば海の表面にはコーンがいくつか顔を出していた。
最後にオムライス。楕円上に丸められたそれは、傷ひとつなく輝いていた。卵を十分に使っているのだろう。そのチキンライスを守るように囲まれた黄金色の鎧はふわふわと柔らかく、厚みを持っていた。オムライスの中心部分には赤いソースがかけられてる。色から判断するにそれはトマトソースなのだろう。トマトケチャップより粘土が低く、さらっとしていて色も明度が高く色鮮やかだ。
「ごちそうするって言ったけど、豪勢な夕食じゃなくてごめんね」
セルミナの対面に座っている千歳が言った。
セルミナは食事に見惚れていたために、その謙遜に反応するのが遅れた。
そこに、千歳の横、セルミナの斜め前に座っていたアリアが反応した。
「千歳様が作った料理、それもオムライスに文句を言う輩がいましょうか、いや、いません」
強い口調でそう断言した。それに、セルミナは驚いた。
「貴方が作りまして?」
メイド服を着ているから、てっきり給仕関係はアリアがしたと思ったのだ。
「アリアは高性能のメイドロボですが、製作者の努力不足で味覚センサーに難があります。悔しいことですが、一流の味に出来ません。なので、アリアが作るより千歳様が作られるほうが美味しいものが出来ると思い、お願いしました」
人間に近づけれれたと言っても完璧ではない。まして、味覚は感覚に頼る部分が大きく完全に解明されたものではない。その日の湿度、温度、食す人の体調によって味が変わる料理は機械にとって苦手な分野なのだ。
「そうでしたの………」
「万が一、千歳様のオムライスでも不味いとおっしゃられた場合、アリアに内蔵された自爆装置が作動します」
「そこまで!?」
「爆発すれば、半径数キロメートルは更地と化すでしょう」
「えぇぇ、ですの!」
「なに、不味いと思わなければいいのです。簡単なお仕事です」
「アリア、脅しになってるよ。口に合わなければ言ってね。他のものを作るから」
「いえ、あの、だ、大丈夫ですわ」
自爆装置云々は否定しなかっただけに、ちょっとドキマギするセルミナ。
だが本心だ。見ただけで美味しそうなのだ。一刻も早く口に入れたい。そんな欲求が収まりきらない。
いただきますと手を合わせ、食事が始まる。
まずは主役のオムライス。スプーンで黄金色の鎧を切り崩す。切り崩すと同時に卵のふわっとした感触と厚みが手に伝わってくる。
口に入れると最初に感じるのは卵。ふわふわと優しいその味は牛乳とバターの風味がしてわずかに甘い。トマトの酸味があるにはその甘さが、良く合う。オムレツにはないオムライスに許された味だ。
次に卵の中にあったチキンライスの味が。トマトケチャップで味付けされたお米と細かくみじん切りされた玉ねぎ、ピーマン、鶏肉の共演。鶏肉は塩気とパンチのきいた肉気、細かく刻まれ炒められた野菜からは甘みが、そしてそれらの味をお米に混ざり合う。
セルミナは我を忘れて、オムライスを貪った。
「………はっ」
我に返った時には遅く。アリアと千歳がじっとセルミナを見ていた。
「口にあったようだね」
「お、お恥ずかしいところをみせましたわ………」
「ううん。喜んでもらえてなによりだよ」
「セルミナ様、オムライスだけではなくスープとサラダを召し上がってください」
「はい………」
恥ずかしさから、顔を隠すようにスープを口に運ぶ。
「あったかいですわ……」
濃厚なコーンの味ではあるが、牛乳の滑らかさが口当たりをよくしている。甘く温かいコーンの味に、体だけではなく心まで暖かくなる。
続いてサラダを手に取っていく。緑、白、黄、赤と色彩豊かなそれは見るのも楽しい。口に運ぶと新鮮な野菜の味とそれにかけられたドレッシングの酸味が程よい味を提供する。口直しには良い一品である。オムライスを食べ、水分が欲しくなったらコーンスープを、口直しが欲しかったらサラダと。今度こそセルミナは二日ぶりである食事が止まらなくなった。
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