第2話 そうだ! 部活だ!

「よし、部活を作ろう!」

「いきなりどうしたの、緋鞠?」

 緋鞠は千歳を指さし、高らかに宣言した。

 放課後の教室にいるのは緋鞠と千歳だけだった。夕日の日差しが二人を包み込む。

 千歳は首をかしげた。

「前、高校生活にやる気が出ないって言ってただろう」

「うん。言ってたね」

「で、わたしは考えた」

 緋鞠は椅子に座り、ロダンの考える人のポーズを取った。

 そして、しばらくの間沈黙してから重々しく発言した。

「何も起こらないのなら、自分で作りだせばいいじゃないかと」

「えぇぇぇぇ」

 千歳は驚愕の声をあげた。

「なんでそこまで驚く」

「だって、前に言ってた話って宇宙人や未来人とか出てきたじゃん。緋鞠が創りだすの?」

「あほか。そんなこと出来るわけないだろう。ただ、この高校生活を面白くするために部活動をするだけだ」

「なんだ、よかった」

 千歳はほっと胸を撫で下ろした。

 竜崎エレクトロニクス。その高い技術力とユニークな発想で世界中を震撼させた企業。その企業の役員の娘が竜崎千歳なのだ。もしかしたら、竜崎エレクトロニクスなら可能ではないのかと千歳は思ったのだ。

「でも、部活って何するの?」

「それは何も考えてない」

「えぇぇぇ!」

 目的と過程が逆になっている。何々がしたいので部活を作るというのが普通の流れである。

「だから、千歳。協力してくれ」

「うーん」

 千歳は悩んだ。何かやりたいのなら協力してやりたいが、何をやりたいか決まっていないのだ。部活作りを止めるべき。真っ当な道に戻すなら今しかないと思った。

「だ、だめか?」

 緋鞠は心配そうに千歳を見つめる。千歳は緋鞠の上目遣いの懇願にうぅっとダメージを受けた。

「…………だ、だめじゃないです」

 千歳は屈した。自分の意志の弱さにうなだれる。

「よし!」

 一転、緋鞠は笑顔で喜んだ。

「では千歳隊員。任務を言い渡す」

「はい……」

 千歳は諦めて現実を受け入れることにした。

「わたしは何の部活か決めるから。メンバーと部室の確保と顧問を用意しといてくれ」

「わかっ……って多いよ! 担当する量が多いよ。ほぼ全部じゃん」

「千歳隊員はわがままだ。協力してくれると言ったではないか」

「協力するとは言ったけど、それは無茶振りだよ。元々、緋鞠がやりたいんでしょ。僕はその補助をするだけだよ」

「うっ……確かに」

 緋鞠はたじろいだ。正論だったからだ。

 緋鞠はゴホンと咳をして、空気を入れかえる。

「なら、メンバー集めを協力してくれ」

「それなら……あ、でもメンバー全員ってのは嫌だよ」

 部活動に何人部員が必要なのかは千歳には分からないが、必要人数を全て集めるのは至難の技。高校が始まってまだ間もない。クラスに溶けこむのにも一苦労なのだ。そんな中で部員を沢山集めるのは千歳にとって無茶ぶりもいいとこである。

「ああ。こっちにも当てがあるからな。千歳には最低一人集めて欲しい」

「あ、それだけでいいんだ」

 先程の要求より大分ハードルが下がっていた。これなら現実的だ。それに千歳にとって部員勧誘のあてがある。彼女に頼み込めばいいだけの仕事である。

「アリアは駄目だからな」

「えぇぇぇぇぇ! なんで!?」

「設立メンバーに組み込んであるからな。それに千歳が頼めば嫌とは言えないだろう。それは卑怯だ」

「そうだけど……じゃあ、どうすればいいの?」

「普通に勧誘すればいい」

「ご無体な」

「わたしも勧誘するから、やることは一緒だ。文句言うな」

「ぅぅ……わかったよ」

「よし。頑張るぞ。えいえいおー!」

「ぉーーー」

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