けんぽう部
九重 遥
春から夏へ
第1話 緋鞠と千歳
「あーだるいぃぃぃ」
とある放課後、竜崎緋鞠は机に顔をのせて呟いた。
「こういうの五月病っていうのかなぁ?」
緋鞠の声に反応したのは神代千歳だった。千歳は緋鞠の前の席に座っている。
「なんだ五月病って?」
「知らないの? 新入社員や新学生が新しい環境に馴染めずやる気がでない病気なんだよ」
「な、失礼な! そんなもんと一緒にするな」
緋鞠はガバっと顔を上げ、千歳を睨んだ。緋鞠は身長が150cmにみたず、顔つきも幼いので睨んでも怖くはない。げんに千歳は怯まずに笑っている。
「でも、やる気でないんでしょ。高校入ったばかりなのに」
「うむ。それは認める」
「じゃぁ、それは五月病です」
「それは認めない」
「ええー。認めようよ」
「ちげーのよ。わたしはな、高校入ったら凄いことが起こると思ってたんだ」
「凄いことって?」
緋鞠は拳を作り、指を一本立てて千歳に言った。
「例えば、宇宙人が現れて地球を侵略しに来たり」
「なんか軽く人類滅亡フラグだよね、それ」
指を二本。
「車にのった未来人が現れて、宝くじを買い占めたり」
「なんで宝くじ?」
「当選番号を知っていたら確実に億のお金を貰えるんだぞ。わたしが過去に行けるならそうするね」
過去に行けるという凄い技術なら、もうちょっと有効活用できないかと千歳は思ったが、それを緋鞠に言うと怒られそうなので黙っておいた。
指を三本。
「異世界に転生してチートで活躍したり」
「異世界に行くんじゃなく、転生するんだ」
「そっちが流行だからな。のってみた」
「流行とかあるんだ……」
指四本目。
「超能力者が現れて魔術師との戦いが起こったり」
「なんで魔術師が出てくるの?」
「超能力者といえば魔術師だぞ。常識だ」
「そうなんだ……」
そこで指が止まる。緋鞠は椅子から立ち上がり、机を両手で叩いた。
「だが、高校に入学して一向に何も起こる気配が無い! 一体どういうことだ!」
「それが普通だと思うけど。平和が一番だよ」
「うるさい! 何とかしろ! この竜崎緋鞠、ただの人間には興味はない! 宇宙人、未来人、超能力者がいたら、わたしのところに連れてこい。以上」
「無理だと思うけどなぁ」
「うっさい。このビックリ人間が、何でそこらへんはまともなんだよ!」
「そんなこと言われても……」
「くそぅ。ここが戦場なら貴様の頭をパーンと撃っているだがなぁ」
一瞬、緋鞠がなんのことを言っているのかわからなかった。けど、すぐにゲームのことだとわかった。緋鞠は多趣味で、その趣味の中にFPS。つまり、戦争ゲームがあるのだ。
「緋鞠のおじさん、娘が遊んでくれないってぼやいてたよ。遊んであげなよ」
「やだよ。なんで高校生にもなって、親父と遊ばないといけないんだよ」
「でも、メールでいつも愚痴ってるよ」
「メール! わたしの親父とメールしているのか!」
「うん。メル友っていうのかなぁ。よくメールしてるよ」
「いや、リアルでも会ってるからメル友とは言わない。いやいや、そんなことより、娘より娘の友達とメールしてるっておかしくないか?」
「そうかなぁ?」
「おかしいだろう。年が離れてるし、一体何を話しているんだよ」
「んー学校のこととか、会社の愚痴とか、緋鞠のこともよく話してるよ」
「なんで娘と同じ年代の男に自分の会社の愚痴とか言ってるんだあの親父は。千歳も迷惑なら迷惑ってちゃんと言えよ。つか、わたしが言う」
「大丈夫。なんだかんだで楽しいよ」
そこで千歳はポンと手を叩いた。
「あ、忘れてた。緋鞠の制服姿を写真に撮って送ってくれって言われてるんだ。撮っていい?」
「駄目に決まってるだろう! あの親父は何頼んでるんだ! 断れよ!」
「でも是非撮ってくれって念押されてて。成功したら諭吉さんをくれるらしいよ」
「金か! 親父も千歳も金なのか!」
「それだけ大事ってことじゃないかな。そのお金で緋鞠が欲しがってたゲーム買おうよ」
「千歳は卑怯だ。そんなこと言うと断れないじゃないか」
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