我々はそれを何と呼ぶか
星うとか
「月刊未来九月号」より抜粋
「信者が一人もいない宗教人を何と呼ぶか知っているかい? 残念ながら現在ではこれを狂人と呼ぶ」
「月刊未来九月号」より抜粋
二○××年、八月二十五日。中野区のコンビニで食料品に自身の血液を混入したとして、警察は相沢美姫(二十六)容疑者を指名手配している。家宅捜索より数種類のドラッグの入ったクッキーが発見され、警察は麻薬所持などの罪と共に行方を追っている。
そこで我々は、相沢容疑者の住むアパートの隣人、神谷修司さん(仮名)に話を聞くことができた。
――では神谷さん。相沢容疑者が引っ越してきたときのことを教えてください。
「はい。俺、近くの大学に通ってて、家出てくのは十時とかそんなで。今年の四月くらいだったかな。いつもみたいに家出ようとしたら引越し業者が隣の部屋に荷物運んでるのに会って。その時は、隣に誰か引っ越してくるんだな位しか思いませんでしたね」
――相沢容疑者はどんな感じでしたか?
「ん~。何て言うか、とにかく暗い感じ? 引っ越してきたときも、俺が挨拶したら何か睨み付けられたし……。
大家さんにはまだマシだったんですけど……。まぁ、話しぶりからすると、相沢容疑者? は大家さんの親戚みたいだったし。おばさんたちの井戸端会議だからあんまし信憑性ないけど、なんか、男関係でひどい目にあったんじゃないかって」
――近所付き合いはどうでした?
「あんまし……。挨拶しても睨まれるからこっちも無視してたんで。
引越しの挨拶とかってあるじゃないですか。それも無いし。
あ……。入って二ヶ月くらいから夜中に奇声発するようになって。俺だけじゃなくて周りの人たちからえらい迷惑がられてましたよ」
――奇声って、例えば?
「『光進さま』? って言うのをよく叫んでましたよ。いや、召喚してたっていえばいいのか? 『偉大なる光の神、光進さま。あなたの言いつけ通り、貴方をお迎えするこの部屋には闇の侵入を許していません。ですからどうぞ、姿をお現しください』みたいなこと言ってましたね。あのアパート、壁薄いんですよね。で、夜中だし。もう丸聴こえ。あれですかね? これも麻薬の幻覚とかなんですかね?」
――かもしれません。他に被害とかはなかったんですか?
「事件の起こる一ヶ月くらい前に、郵便受けにお菓子とか入ってたんですよ。まぁ、こんなご時世ですし? 無闇には食えませんよね? もちろん捨てましたよ。でも俺の下の階の犬が食っちまったらしくて。はっきり聞いたわけじゃないんですけど、死んだらしいですよ。でも、相沢容疑者がやったって証拠がなかったんで、そのまま有耶無耶に」
――そんな事があったんですか……。それは、一度だけですか?
「いや、何回かありましたね。で、防犯カメラ付けてほしいってみんな言ったんですけど、大家さんにはそのうちって言われて。」
――それは、大家が親戚だから庇っていたと言うことですか?
「はい、あると思います。さっきの奇声の話も、結構な苦情が大家さんにいってるはずなんですよ。まぁ、俺もその一人なんですが。でもいつも注意してみますってだけで。
あ、今思い出したんですけど、昼間に布教活動? みたいなのしてたんですよ。
その日は二限が休校になって、かなり遅くに家出たんですよ。十二時くらい? うちのアパートって、すぐ目の前が道路なんですよ。それなりに人通りもあって。いや、車はあんまし通んないですね。そんで、その道路の真ん中で、『光進さまを崇めなさい』みたいな? こと言い始めて。
もう周りポカンですよ。酷いと道歩いてる人捕まえたり。それはさすがにヤバいと思ったんでしょうね。大家さんが出てきて部屋引っ張ってきましたよ」
――それは毎日?
「さぁ、それは知りませんね。俺が見たのはその一回位ですけど。でも毎日やってたら怖いですね。よく警察が来ないもんだ」
――他にはありませんか?
「特にないですね。まぁ、左隣の金子さん(仮名)家はもっと迷惑だったんじゃないかな? 赤ちゃんいたし」
――そうですか。ご協力ありがとうございました。
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