PRISON CITY

安芸咲良

Ⅰ PRISON CITY

プロローグ

1 月だけが見ていた

 月の綺麗な夜だった。少女が窓際で佇んでいる。

 背中まで伸びた、栗色の髪が夜風に揺れる。明るい月のせいでやや星は見にくいが、それでも綺麗な夜空だ。

 少女は夜空を見上げていた。

「早く窓閉めちゃいなさい。風邪ひくわよー」

「はーい」

 背後から掛けられた母親の声に、少女は立ち上がった。

 と、その視界になにか過ぎった気がした。

 窓の外に視線をやると、向かいの家の屋根に少年が立っている。パーカーの裾が夜風にひらひらと揺れている。目深に被ったフードのせいで、顔は見えない。

 さっきまではいなかったような気がして、少女は首を捻った。あんなところに立って、危なくないのだろうか。少女は心配になった。

 そのときだった。突然強い風が吹いて、少女は思わず目を瞑った。視界が眩む一瞬、金の色が見えた気がした。

 目を開けると屋根の上の少年は消えていた。母親が後ろで突風に文句を言っている。

 月だけが、それを見ていた。

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