第164話 番外(本編と全く関係ないIFです)
――突然、俺の顔を覗き込む誰かが目の前に現れる!
さっきまで誰もいなかったよね! 何だよこのホラーは!
ビックリしてベッドから落っこちてしまった俺は、立ち上がると俺を覗き込んで来た者へと目を向ける。
立っていたのは、亜麻色の髪を短く切り揃えた少女だった。赤いノースリーブのチョッキに白く染めた短い革のタイトスカート。足には革のサンダルを履いている。
どこかで見たな……この少女……歳は十八くらい……身長は俺の肩より少し低いくらいで胸は小さい。俺好みのサイズだ……
んー。誰だっけ……
「や、やあ」
とりあえず間を持たせるために声をかける俺。
「ピウス。相変わらず驚き過ぎだよ……」
「エ、エル? い、いや今はアルカエア……アルか」
「うん。そうだよ。君にお礼をするためにこの体に戻ったんだ。ちゃんと生者だよ、この体はね」
エルラインじゃないアルカエアは、俺の良く知る子供っぽい笑みを浮かべる。俺が驚くって知ってて目の前に登場しただろう。
「で、お礼って何だろう……」
「全く君は……相変わらずだね。わざわざこの体に入って来たというのに……」
「アルはたまに、アルの体に戻るのか?」
「ううん。エルの体に入ってから一度も戻ったことは無いよ」
はて? アルカエアの精神はずっとエルラインに入ったままだった。どんな思いからそうしていたのかは不明だけど、ずっとアルカエアの体に戻らなかったことにそれなりの理由がありそうなんだけど……
それを破ってまでアルカエアに戻る必要がある? お礼の為? ん。
「アル。俺は君からたくさんのお礼を既にもらっているよ。魔法陣のことだけではなくオパールでもそうだし……」
「ふうん。あ、そうだ。魔法陣で思い出したんだけど、声を送っていた人物はもう始末しておいたからね」
「え……見つけたの?」
「うん。さっき始末してきたんだよ。これで一つ君にお礼ができたわけだよ」
当たり前だけど、話をしていてエルラインがアルカエアに変わっていることを忘れてしまう。やはり人間、見た目じゃなく中身なんだな。俺は彼女の姿を意識して見ないと、彼女と会話しているとエルラインの体を想像してしまうよ。
声だって違うのにね。不思議なものだなあ。
しかし、発見して始末してくるとかやたら仕事が早い。「声」の主を始末しようとしたらいつでも出来たわけだ。そうしなかったのは彼じゃない彼女が「傍観者」たらんとしていたからだろうな。
「逆に俺がお礼をしなきゃいけないくらいだよ……アル」
「まあ。僕が君にできることってのは存外少ないんだよ」
アルカエアは俺の服の袖を掴むと、ベッドに腰かける。俺も引っ張られていたから同じように隣に腰かける。
じっと俺を見つめる視線を感じ、アルエリアの方に向きなおると彼女は俺と目があってもじっと俺を見つめている。ま、まさか……お礼って……
「ま、まさか。お礼って。そのためにわざわざアルエリアに戻ったのか?」
「うん。そうだけど? 君も男だろう? ずっと誰ともしてないみたいだし……エルラインの体をそういうことに使いたくないからね」
エルラインは男だってばと突っ込むのは野暮ってもんだ。何故か俺は男でも女でも大丈夫! とか思われてるんだろうか。
そんなことはない。そんなことは断じてないのだ。
「い、いや……特に持て余してないけど」
「カチュアやティンとしている様子はなかったけど?」
アルカエアは首を傾け、不思議そうな顔をしたが何か察したようにニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。
「な、何かな……」
「一人でしているのかな。あ、ああ。そういうことか。君の中にもう一人いるんだったんだね。今更気にしても仕方ないんじゃないかな?」
アルカエアは重大な事実に気が付いてしまったようだ。そう。俺の中にはプロコピウス(本物)がいる。彼は俺の視界を通して俺が何をしているのか見る事が出来るのだ。
他人に見られながら一人で致す事なんてできるわけないだろ! いい加減慣れろとプロコピウス(本物)も言ってるけど……人に見られる生活に慣れてないんだよね。
「そうは言っても気になるんだよ……」
「全く……変なところで神経質なんだね。君はぼんやりしてることの方が多いのにね」
「……」
何も言い返せない。確かに俺は神経質な方じゃない。どちらかと言えばボーっとしている時が普通なんだけど、これまで生きるのに必死であくせく動いて来た。
エルラインといる時は任務の時もあったけど、割とプライベートの時が多かったからノンビリしていたことのほうが多い。
「時間はおしてないけど……」
アルカエアはそう呟くと、俺の首に腕を絡めて顔が俺の目と鼻の先にまで接近する。少しでも動くと唇が触れそうな距離だ。
「アル……」
俺が困ったような声を出すと、アルカエアは何か納得したように俺から離れ自らの服に手をかけはじめると赤いチョッキを脱ぎ始める!
えええ。突然どうしたんだよ! いくらなんでも見た目は少女とはいえ、彼女は俺が今まで接して来たエルラインだろ。そんな気分になるわけないだろうが!
「意外だったよ。君はされる方が好みだと思ってたんだけど、ベッドの上だと違うのかな?」
そうじゃねえ。そうじゃないって! 何故そっち方向になるんだよお。
「違うって。アル。君とは友人だから、そういうことをするつもりはないって」
「ふうん。僕も君を良い友人だと思っているよ。君にお礼と思って処理を手伝おうと思ったんだけど……」
「そういうことは恋人同士がするものなんだってば」
「へえ。君の感覚だとそうなんだね。まあ、僕は気にしないから好きにしていいよ?」
アルカエアは俺と会話しながらも赤いチョッキを脱いでしまう。チョッキの下には薄い白いシャツを着ていたが、それも一緒に脱げてしまった。
彼女は胸に薄いさらし一枚という姿で俺に首をかしげてじっと見つめて来る……や、やばい不覚にも……
駄目だ。ダメだ。エルラインだぞ。友人のエルラインだ。見た目で判断したらダメだって。
「……友人とはダメだって! アルもそういうことは恋人とするといい……」
「僕はそもそもリッチだし、今は君の処理のためにアルカエアに入っているに過ぎないからね。気にする必要はないんだけど……」
「そういや、リッチって死人だったっけ?」
「うん。リッチは死人だから性欲も食欲も無いんだよ。この体に入って久しぶりに食欲を感じたね……」
リッチは死人だから何も感じないのか。それはそれで悲しいな。アルカエアにも理由があってエルラインになっているんだからそれでいいんだろうけど。
欲求がない体ってのもつまらないと俺は思ってしまうなあ。
「ま、まあ。そんなわけで俺の事は気にしないでくれていいよ!」
「君の性癖はかなり特殊だと思うよ。全くどこの生娘なんだか……」
仕方ないなと言った感じでアルカエアはため息をつき肩を竦める。アルカエアは何も言わないけど、きっと彼女はアルカエアの体を
わざわざ俺の為にアルカエアの体に入ってここへ来てくれたんだ。それはありがたい。ありがたいんだけど……斜め上だってば!
アルカエアは上半身さらしだけの姿のまま立ち上がり、片手を振るとどこからともなく大きなルビーが先端についた杖が彼女の手の中に出現する。
そのまま俺へ向けて彼女は杖を振るった。
あれ、体が動かない?
「したくないって君の性癖を満たそうじゃないか。僕としなきゃいいんだろう?」
ニヤリとアルカエアが微笑んだかと思うと、俺のズボンに手をかける……
◇◇◇◇◇
スッキリしたけど、なんか悔しい……き、気持ち良くないと言えば嘘になるが……もちろん本番は致してない。しかし……俺がスッキリする手段は他にもある。つまりそういうことだ。
「もう立たないみたいだね。満足したかい?」
アルカエアは悪戯っ子のような笑みを浮かべ俺をじっと見上げて来る。彼女の手はアレに触れているが、もう俺のアレは反応しないようだ……
しかし、言い方が露骨すぎて……俺の羞恥心を酷く刺激するんだけど。
「あ、ありがとう……」
俺は乾いた声で彼女に礼を言った……
「全く。カチュアなりティンなりに頼みなよ。僕にされるよりはいいだろう?」
「もうお嫁にいけない……」
俺はさめざめと呟く……
ボツネタおしまい
※これ、男のままでもよかったよね?
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