第152話 ジャムカ対カミュ
――ジャムカ
ベリサリウスの計らいで俺は再びカミュの野郎と騎兵勝負をやれることになった。
俺がそろそろカミュをブチのめしに行くとベリサリウスがピウスに告げると、奴はことさら心配そうな顔で俺を見つめて来やがる。
俺がそんなに信用ならねえのかよ。いや、違うな。この顔はそういうことじゃねえ。
俺はピウス。お前が羨ましい。お前のようになりたかった。
ピウスよお。いつも大したことができないと嘆くお前を俺は好ましく思ってるんだぜ。
恥ずかしくて口には出さねえけどな。
ベリサリウスやカエサルは確かに歴史が生んだ不世出の天才かもしれねえ。でもな、俺はお前こそが奇跡だと思ってるんだぜ。
武勇ではベリサリウスに及ばないかもしれない、智謀ではカエサルに敵わないだろう。
でもな、お前の力がなかったらここまで来てねえぞ。それは自覚してるのかよ?
俺もベリサリウスもカエサルもローマの奴らもみんなお前が繋げたんだ。お前がいなければ俺たちは潰し合っていたかもしれねえ。
まあ、俺は偉そうな事は言えねえんだけどなあ。だってよ。俺はテムジンに敗れて初めてそのことに気がついたんだよ。
生前俺の友人と言えるのはテムジンだけだった。テムジンは仲間を大切にして奴の元には多くの人材が揃った。
俺はそんなテムジンを軟弱だと思っていた。だってよ。誰だって俺に敵う奴なんて居なかったんだ。テムジンさえもな。
俺もテムジンも互いに腹の中に思うことがあったんだけど、それでも仲のいい関係を続けていた。きっかけは俺の部下とテムジンの部下が命令違反を行いいざこざが起きて死者が出ることからだった。
俺もテムジンも意地を張っちまって、このいざこざがきっかけになり俺とテムジンは不本意ながらも決戦を行うことになっちまった。
俺は誰よりも強かったが、テムジンと仲間達の力に敗れた。ようやく俺は個人で及ばずとも、友人を多く持ち信頼できる奴を集めることこそ、一番大事って気がついたんだよ。
テムジン……お前のお陰でな。
ピウスよお。分かるか。俺がお前と初めて会った時どんだけ衝撃を受けたか。
お前と俺の仲間はいざこざを起こしていたが、お前は俺の仲間の命に配慮し、あげく俺に戦うつもりはないと言ってきたよな。
俺もテムジンにも出来なかったことだよ! 俺はお前の対応にとても興味を惹かれたんだよ。だから、草原の民の戦いが終わったらお前のところへ行くと言ったんだ。
決してオーク達が美しかったからだけじゃあねえんだぜ。いや、オーク達を見ていたいって気持ちももちろんあったがよお。
不思議な事に俺は今歓喜で震えている。いつもの戦場と違う歓喜だ。俺は幾多の戦場を駆け抜けてきて、間一髪って状況があったのも一度や二度じゃねえ。戦いで血が騒ぐことは確かだ。
今までもこれからもそうだろうよ。
だがよ。この気持ち……心から湧き上がるような歓喜は戦いの武者震いや強者と戦えるワクワクする感じゃあねえ。
――信頼と言えばいいのかな。上手く言えねえや。とにかく後を託すに足る人材が居て、俺の勝利を祈ってくれている。だから、ピウスよお。いいぜ。俺はお前たちの為にきっちりお膳立てしてやるよ!
カミュよお。今の俺はかつてないほど猛っているぜ。蒼き狼の血がお前を喰えと叫んでいる!
「行くぜ! 野郎ども」
俺はベリサリウスとピウスを
居並ぶ馬車の後ろに待機していた俺達騎馬民族は、左に直進して味方歩兵の端まで抜けると、一気に加速し聖王国軍の後ろへ回り込もうと大回りで聖王国軍に迫っていく。
ギリシャ火対策として前列に重装備の大盾を持つ歩兵は機動力が皆無だ。もちろん奴らだってただの馬鹿じゃない。むざむざ後ろから食い破られるような愚かなことはしないはずだ。だから、カミュの騎兵は俺たちを阻止するために動くだろう。
まあ、動かなければそれはそれでいい。後ろから喰らい破るまでだ。聖王国は俺達騎馬民族の数を知っているし、機動力を生かし聖王国軍の裏を突こうとするのも俺達以外いないことを知っている。
ほら来たぜ。カミュの騎兵隊がよお。俺はカミュの騎兵隊が動いたことを確認すると、ワザと聖王国軍から離れて行く……まあ、来るしかないよなカミュは。
カミュの騎兵隊は見たところ炎弾を撃つ気配がねえな。いい判断じゃねえか。炎弾は確かに強力だが、弓に比べて集中する時間が長いんだ。炎弾を撃とうと集中することが隙に繋がる。
俺達の「速さ」が分かったんだろうよ。
「行くぜえ! 弓を撃てえ!」
俺は右手を高く掲げ、あらん限りの力を込めた声で叫ぶ!
馬の速度を一切緩めないまま、弓を構え矢を放つ俺達騎馬民族。これは馬と共に生きていないと出来ねえ技術だ。
俺達は矢のような陣形を組み、三日月の陣形を取ったカミュの騎馬隊へ放った矢を追いかけるように突っ込んでいく。下手な小細工はしねえ。正面突破だ!
「野郎どもお。ここが勝負どころだ! 一気に行くぜえ!」
俺が先頭に立ち、矢が当たり浮足立つカミュら聖王国騎兵隊中央へ突っ込む。次々に聖王国騎兵隊を切り裂き、一直線にカミュの元へと駆ける。
今度こそ逃がさねえぞお! 一騎打ちだ。
カミュの親衛隊にぶつかるが、俺達の勢いは衰えずカミュまではもう一息だ。見えたぜえ。
――俺は槍をカミュに向けて放る!
カミュは長い髪を揺らし、俺の挑戦を受け取ったようだ。俺の投げた槍はもちろんカミュの槍に払われたがな。俺は背中からピウスが考案したハルバードって武器を抜き放ち構える。
ハルバードは長槍に見えるが、先端が少し違う。槍のように穂はついているが、穂の手前に斧の刃があり。刃の反対側には槌がある。凄いぜこの武器は。突き、斬り、叩きと全部使える。
ピウスは片手で軽々とハルバードを操る俺を見て驚いていたなあ。俺の腕力にかかればこの程度余裕だぜ。
俺とカミュが睨み合うと、自然と周囲に円ができ騎馬民族も聖王国騎兵隊も一度手を止める。分かってるじゃねえか。一騎打ちって奴がよお。
「カミュ! 一騎打ちだ」
「望むところだ!」
カミュは長槍を構え、俺を睨む。
お互い馬上、距離は馬ならば目を瞑って開くまでに到達する距離。
行くぜえ! 俺は馬の腹を蹴ると、馬は加速しカミュへと迫る。カミュも同じように俺へ迫り槍を俺へ突き出してくる。まずは様子見か? 俺は軽々と槍をハルバードで払いのけるとカミュへハルバードを振り下ろす。
カミュは槍で俺のハルバードをふさぐが、それじゃあ無理だ。圧倒的に
カミュは片手では俺のハルバードを防ぎきれないと判断するや、馬の手綱を放し両手で自身の槍を押し返す。ふむ。両手で俺の片手と互角ってところか。
俺はさらに片手でハルバードを薙ぐとカミュは体制を崩しながらも槍でハルバードを弾く。
「クッ! なんという馬鹿力だ……」
「まだまだ行くぜえ!」
俺は一旦カミュから離れると、馬を加速させ再びカミュへと迫る。
「
カミュは俺が到達する前に魔法を唱え、彼の体が淡い赤の光で包まれる。なるほどなあ。魔法ってやつかあ。見せてみろ。どれだけ強くなったのかをよお。
俺は馬の手綱を放し、両手でハルバードを構えると馬の勢いもそのまま乗せてカミュの脳天目がけてハルバードを振り下ろす!
――今までにない高い金属音が鳴り響き、カミュの槍が弾かれ、俺のハルバードが奴の右腕を切り落とす!
確かに力が格段に上がっていたようだなあ。俺の攻撃を逸らすなんてな。馬の勢いを乗せた全力をだ。
だが、勝負は俺の勝ちだ!
「カミュ。兵を引き、治療をしてもらえ」
俺は腕から鮮血を飛び散らせたカミュへ言葉を投げる。
名将と言われるほどの男なら、指揮官が敗れた後の兵の動きは分かるだろう。無傷ならまだしも放っておいたらすぐ倒れるような傷だ。
カミュは俺を睨みつけたまま、兵を引いていく。もちろん、聖王国軍と離れる方向でだ。
俺はカミュ達が戻ってこれなくなる距離になるまで、彼らを追っていくだけだ。手出しはしない。見張るだけだからな。無駄な血を流す必要はないってピウスから言われてるんだよ。
全てを喰らいつくしたいんだがなあ、仕方ねえ。
※異世界ローマ史上もっとも熱い話。ジャムカ! 熱いぜ!
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