第132話 精霊って何だ?
話をするつもりが終わってしまった。俺は肩に乗っかるシルフに目をやる。
銀の板からは離れることができないシルフ。俺にしか見えない?
ん?
精霊は人にずっと付いてるんだよな。精霊術を使う時は確か……関連した物質が何か必要だったような。
ええと、火の精霊なら火が。水の精霊なら水がっていったように……
シルフの場合は人ではなく、銀の板に付く。見えるのは俺だけ。
精霊と何か共通点ありそうだけど。
「シルフ。ものすごくリアルだけど、シルフの今の姿はホログラム?」
「少し違うわよ。そうねえ。一番近いのは幽霊かなあ」
幽霊……なんか久しぶりに聞いたな。幽霊が見えるとはブリタニア恐るべし。
「俺にしか見えない幽霊?」
「そう。そういう風にしたの」
「今一良く分からないけど、精霊も幽霊の一種?」
「多分ね。どんな仕組みかは見てみないと分からないわよ。あなたに付いてるっていう精霊は私にも見えないから」
「見る方法はあるのかな?」
「ええ。あなたに観測できるかは分からないけど。私はほぼ確実に見えると思うわよ。さすが私!」
「……ま、まあいいか」
気になっているのは精霊の仕組みじゃないんだよな。英雄召喚で召喚された者全てが太陽か月の精霊に付かれているってのが気になっているんだよ。
俺の場合、太陽と月の精霊が付いてるみたいだけど、プロコピウス(本物)と俺の魂?が二人分だから、太陽と月がくっついて来たと考えれば理屈は通る。エルフやダークエルフには太陽や月の精霊がついている者がいるみたいだし、現にカチュアは月の精霊が付いてるらしい。
見えないから「らしい」とまでしか言えないけどね。太陽や月の精霊が本来憑りつくことのない人間に付いてしまう「英雄召喚」。一体どんな意味があるんだろう。
<プロなんとかさん! ベリサリウス様が!>
頭にガンガン響くエリスの声が突然! 何なんだよもう。残念ながら遠距離会話は一方通行だから文句も言えない。
んー。ベリサリウスから結婚の話をされたかな?
「シルフ。今俺に声が届いたんだけど聞こえる?」
肩に乗っかるシルフを見やり聞いてみるが、彼女は首を横に振った。
やはり、聞こえないか。
<ありがとう! プロなんとかさん! ベリサリウス様と幸せになれるわ!>
興奮し過ぎて鼻血出してないだろうな……エリスよ。
「
「そうそう。シルフと君を作った英雄はこれを元にしたんだよな?」
「そうよ。その技術の素晴らしいところは、あなたも把握している通り、通訳が要らないってことよ」
「お陰で言葉が通じないってことが無くて助かってるよ。ありがとうな」
「……もう」
お礼を言われるのに慣れていないのか、妖精が突然デレた! どこまでも人間ぽいなあ、シルフは。
しかもきちんと顔を赤らめて、少ししたを向いていたりする。
<プロなんとかさん! めくるめく愛の世界は結婚してからってベリサリウス様が言うの! 私はいつだっていいのに!>
またエリスだ。うおお。聞きたくねえ。もう会話を止めろって言えないのがうっとおしい!
俺は耳を途中で塞いだんだけど、努力の甲斐なく最後まで聞こえてしまった……
「どうしたの?」
シルフがこちらを伺うように羽を少し振って訪ねてくる。
「いや、さっきから遠距離会話が来るんだけど。こっちから会話できないから止めれないんだよ」
「ふんふん。どんな話なの?」
「簡単に言うと、俺の上司とその上司を大好きでたまらない女子が結婚することに先ほど決まった」
「あちゃー。のろけられてるのね」
「まあそういうことだよ……うるせえったらありゃしねえ」
「ま、お世話になった人なんでしょ?」
「確かにそうだな……せっかく幸せを感じてるんだし我慢するか」
結婚……結婚かあ。俺もいずれは結婚したいけど、なかなか難しいんだよなあ。
「
顔に出てたか? シルフが突っ込んできやがった。
「あー。俺はまー、いいんだ。うん」
「あなたのことだから複数の女の子から愛されてるんでしょ」
「……」
「もてる男はつらいわねえ。まあうまくやりなさいよ」
ケラケラと腹を押さえ笑い転げるシルフへ俺はうんざりとした目を向けながらため息をついた。
◇◇◇◇◇
カチュアが食事をつくりに来てくれて、食事を終え、風呂に入ると……久しぶりにカチュアが風呂まで入って来たので大人の対応で体を洗ってあげて風呂から出る。
いや、大人の対応をせざるを得なかったというか、銀の板を風呂に持ってきてたんだよな。見られてる。ものすごく凝視されている。
ワザとらしいことにシルフは両手を目に当て、指の隙間からじーっと俺とカチュアを見ていた……
カチュアを見送って自室に戻ると、ベッドに腰かける。銀の板もベッドの上に置いたというか投げ捨てた。
「ちょっとー。女の子は乱暴に扱ったらだめよ!」
「どこにも女の子はいない!」
「私! 私がいるでしょ!」
「シルフは幽霊じゃないか……」
「差別反対ー! 幽霊にも人権を!」
全く、くだらねえことだけ知ってんだなおい。しかしこんな掛け合いも久しぶりで嬉しくなってくる。
「シルフ。君と会えてよかったよ」
「……ッ! そうやってたくさんの女の子を毒牙にかけたんでしょ」
私は騙されないわよ! と言った風に首を振るシルフに思わず俺は微笑んでしまう。
「誰も毒牙になんてかけてないよ」
「全く……モテ男ってこれだから困るわ」
どうしてそうなる……いかん。このままだと話が進まねえ。
「シルフ。精霊について少しは分かった?」
「もう突然ね。だいたい分かったわよ」
「おお。すごいな……シルフ」
「私なら当然ね。ええと、詳しくじゃなくて簡単にでいいのかな?」
「うん。難しいと分からない自信がある」
「変なところに自信もたれてもねえ。まあいいわ」
シルフは俺の肩から降りると、ベットに三角座りをしてから精霊について説明をしてくれる。
彼女の説明は本当に簡潔で分かりやすい。人に説明することに慣れてるんだろうなあと感じたんだが、まあそれはいい。
まずダークエルフって種族は特殊な目を持っているらしい。その目で精霊を見る事ができる。精霊は特定の命令しか解さないプログラムに近いものらしい。
精霊に何かしてもらう時には、ゲームとかでよくあるコマンドを選ぶ感じに似ているということだ。夢がない説明だけど分かりやすい……
精霊がどこから来たってのも分からないし、精霊が生まれる仕組みも今のところは分からないらしい。
「なるほど。俺になんで精霊が付いてるのか分かればいいと思ったんだけどなあ……」
「うーん。見たところ確かに二体。あなたに精霊が付いてるわね」
「え? 見えるの?」
「ええ、解析したから見えるわよ。さすが私!」
マジかよ。何てやつだ……もう突っ込む気にもなれん。
「精霊って簡単にいうとどんな存在なの?」
「一言で言うといまあなたが見ている私と同じ幽霊ね」
幽霊って言われるととたんに夢がなくなるよな……精霊っていうからファンタジーな感じで良いんじゃないか。結局精霊についてシルフに調べてもらったけど実になる情報は無かったなあ。
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