第106話 強力な魔術
言語の魔術かあ。確か、この世界のどこかに魔法陣みたいな魔術が施されていて、俺達は意思疎通に不自由しないんだっけか。ん。待てよ。確かに不思議だ。
魔術を発動するには、頭の中で図形を描くんだけど、オパールのような無機物にもエルラインなら描くことが出来て、事実オパールから魔力がある限り魔術が発動する。
魔力をため込む性質を持つ鉱物はオパールだけだという話なんだが、ブリタニア全域を発動範囲として、さらに言葉をしゃべるたびに発動する魔術……そんな魔力を内包するオパールなんてサイズ的にありえないぞ。
「どうやら、気が付いたみたいだね。オパールでは不可能だよね」
「うん。俺が知らないだけでとてつもない大きさのオパールがあるなら話は違うけど」
「残念ながら、そんな都合のいいオパールは無いよ。君なら想像がつきそうだけど」
んん。ええと。魔力は空気中にあって、魔力を人間やらオパールが取り込んで内包する。そして魔法なり魔術なりを使用して発動する。ん? 何もわざわざ取り込まなくてもいいんじゃないか?
「ひょっとして、空気中の魔力を直接使うってことかな?」
「大正解」
「おー。それなら、魔力量を気にせず使えるわけだな」
「うん。そういうことだね」
「まさか……」
エルラインは空気中にある魔力を直接使えるんじゃないか? 言語の魔術と同じように。それならば、彼の魔力量はほぼ無限大になる。そら、誰でも相手にならないわけだよ。
俺は巨大なMPを持つ人間のMPがどれほどのものか分からないけど、エルラインのそれは比べるのも馬鹿らしくなるくらいMPに差がある。
「想像の通りだよ。僕が魔王と言われる所以はそこにある」
「わざわざ、エルの秘密を教えてくれたんだな。ありがとう」
「……そんなつもりじゃないよ……」
あ。デレた。絶対デレたぞ。
「なんだかよく分かんないや」
空気を読まないというか、空気自体を感じないカチュアがカラカラと声をあげ、お手上げポーズを取る。
「精霊術が魔法と同じで、体内魔力を使うって分かったから助かったよ。カチュア」
俺のフォローにカチュアはひまわりの様な笑顔で「うん」と頷く。
「ふうん」
エルラインが嫌らしい笑みを浮かべている! これは決して、たらしこむとかそういうのじゃねえからな。
何でもそれに結びつけようとするんだから。全くエリスみたいだよ。
「そ、そうだ。エル。君の魔術の仕組みは分かったけど、魔術を使う人間って他にいるのか?」
「いるよ。共和国にも聖王国にもね」
「魔法が隆盛してるみたいだけど、魔術も学問として残ってるのかな?」
「もちろんだよ。ただ、魔法と違って理解する事が大変だよ」
「エルみたいに空気中の魔力を使う者もいるのかな?」
「どうだろう。君はオパールの価格を知ってるよね?」
「あー、うん。あー、なるほど」
エルラインの言いたい事は理解出来た。オパールへ魔術を構築する事は、空気中の魔力……体内ではなく外部の魔力を使うための第一歩だ。
オパールへ魔術を構築し、オパールから魔術を発動させる事が出来るのならば、外部魔力を使い魔術を発動させる事も簡単では無いだろうけど、可能だろう。
しかし、市場に出ているオパールの価値は普通の宝石類と変わらない。つまり、一般に知られていない技術なんだろう。オパールへ込める魔術を構築出来る者がいるかも知れないけど、秘匿されているか、極少数で一般には知られていないって事になるよな。
魔術学校とか聖王国魔術学院などがあるかも知れないけど、オパールに魔術を構築することでさえ教えているのかも判断に迷うところだな。オパールへ魔術を構築出来るからと言って、外部魔力を使った魔術発動とは格段に難易度が異なると俺は思う。
オパールへ魔術を込めるにはどれだけ時間がかかっても構わないけど、外部魔力を使った魔術となるとそうは行かない。その場で複雑な魔術を構築しなければならないからだ。
「理解したようだね。聖王国や共和国の中枢にはいるかもしれないね」
「居るかもしれないと想定して動いた方がいいだろうなあ。ベリサリウス様へ報告しておこう」
エルライン並の魔術を使う者が居たとしたら脅威だぞ。ジャムカが率いていた騎馬兵とエルラインの戦いを見たが一方的にエルラインが圧倒していた。外部魔術の恐ろしいところは、魔力がほぼ無限に仕えるってことだ。
魔力をいくらでも使えることは魔術と非常に相性がいい。魔法と違い魔術は魔力次第でいくらでも威力を上げることが出来るんだからな。どこまで破壊力を上げれるのかは分からないけど……言語の魔術を見る限り最大威力はとんでもないんじゃないだろうか。
「エル。もし空気中の魔力を使える者が敵対したら、俺達に対抗できるのかな……」
「使い手次第だろうね。気が付かれなければ、どれほどの使い手だろうとヤレるんじゃない?」
「いやでも、エルみたいにリッチだとしたら……そう簡単には倒せないだろ?」
「そうだねえ。僕なら頭を撃ち抜かれてもどうということはないね」
「それ無理じゃない? 倒すの」
「大丈夫だよ。リッチは僕以外居ない」
エルラインが言い切るのならそうなんだろう。てことは少なくとも相手は人間だ。意識の外から弓矢で撃ち抜けば倒せないことはないか……ジャムカやベリサリウスならばきっとできる。
俺の中にいるプロコピウス(本物)でも出来るのかなあ。
「それは安心したよ……あ、話は変わるけど、魔術の威力って頭の中の図形次第なんだよね」
「うん。ただ。世界全体の規模となると、僕でも不可能だね」
「ええ。なら言語の魔術ってエルでも無理そうなのか?」
「あれは僕が全ての術式を読み取るのに数十年かかったよ」
「そ、それは相当な規模だな……そこまで複雑になると少しづつ描かないと無理だよな」
「それがね。時間を計測する魔術で調べたんだけど……」
エルラインはそこで一旦言葉を切る。彼は珍しく少し悔しそうな顔をして続ける。
「あれは。たった数時間で描かれている。どうやったのか未だに解明できてないよ」
「そんな処理速度……不可能じゃないか」
「僕が知る限りの種族では不可能だね。僕は同時に五つの図形を脳内で描くことが出来る」
エルラインが同時に五つまで並列処理ができる脳を持ってるってのがすでに人間の域を越えているけど、それだけの処理能力をもってしても数十年かかるほどの術式。
謎は深まるけど、少なくとも世界規模の魔術をその場で放てる者が居ないと分かったから良いか。
ん? 並列処理……処理速度……
「何か気が付いたのかい?」
「あ。いや。突飛も無い話だけど。英雄なら可能かもしれない」
「うん。僕も同じ結論なんだ。この世界で可能な者はいない。だけど、別の世界の者ならば出来るかもしれない。だから僕は英雄に興味があるんだよ」
「なるほど。残念だけど俺も含め、俺が会った英雄には不可能だよ」
「まあ、君は別の意味で面白いから僕は満足しているよ」
そんなハッキリ言われると照れてしまう。さっきは英雄ならと言ったが、正確には違う。英雄が俺より後の時代の地球から来たとすれば可能かもしれない。
俺がここへ転移してきた時は、服を着ていた。つまり、持ち物ごと転移されるってわけだ。
並列処理や処理速度で人間を遥かに凌ぐ道具を俺は知ってるじゃないか。
そう、コンピュータだよ。
性能が良く、充電が出来るのならコンピュータに図形処理を行わせれば可能だと思う。どれほどの性能が要求されるかは分からないけどね。
「ピウスさんー。ティモタさんが来たよー」
俺達の魔術談議をぶった切るカチュアがティモタの来客を告げる。ティモタとライチが少しづつ研究していた兵器の事だろうたぶん……完成したのかな。もし完成したのならば、戦い方が変わるぞ!
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