第83話 リュウ
昨日は本物のプロコピウスと夢で会えたわけだが、俺が男色ではないと説明する時間が結局一番ウェイトを占めることになるなんて……体の秘密が分かったのはいいけどある意味悪夢だった気がするぞ!
ティモタが言っていた太陽と月の加護両方を持つという話も、俺とプロコピウス二人の精神がこの体に入っている事から説明できそうだ。夢での一番の収穫はいざというときにプロコピウスが助けてくれるってことだ。
できれば、普段から心の中で彼と相談したいんだけど、前に出て来てくれない……昨日本人が言っていた通り傍観者として振る舞うってことかあ。
今日は朝からローマを旅立ち人間の街フランケルに来ている。エルラインと一緒に……いやもはや何も言うまい。エルラインは見た目十代の少年に見える。いや、そんなことはどうでもいいよ。もう!
フランケルの冒険者の宿へ到着すると、すでに宝石屋の店主は俺達を待っていてくれた。俺と店主は挨拶を交わすとさっそく街の外へ向かう。
門を出て右に少し歩くと馬車が五台待機しており、行商人や冒険者らしき顔が見える。確か……全部で二十人になるはず。
「これで全部ですか?」
俺が店主に問うと彼は「そうだ」と答える。店主が集まった人達へ呼びかけると、全員俺の前へ集合してくれたから、俺は全員へ声をかける。
「みなさん。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
代表者らしき茶色い髭にスキンヘッドの中年男性が代表して俺に挨拶を返してくれた。
「私はプロコピウスと言います。ピウスとお呼びください。聞いているとは思いますが、魔の森にある街――ラヴェンナに向かっていただきます」
「まさか街が出来ていたなんて驚きですよ」
スキンヘッドの男性は気さくに俺へと話に応じて来る。
「巨大なモンスターは私が知る限り全て駆逐済みです。万が一モンスターが出た場合には冒険者の方、よろしくお願いします」
「任せとけ!」「おう」
冒険者たちから威勢のいい返事。
「ピウスさん。ではさっそくラヴェンナへ向かいましょう」
スキンヘッドの男性は俺達を促し、俺とエルラインは飛龍があるからと一旦別れることにする。魔の森の入口まで来てくれればハーピーが発見するから改めて迎えに行けばいい。
冒険者達の中には魔の森へ行ったことある者が多数いるから、彼らがいつも野営する魔の森の境界まで彼らに馬車を案内してもらうことにしたのだ。
無事、馬車が魔の森の境界までたどり着く頃には既に夕方になっていた。そんなわけでラヴェンナへ来てもらうのは明日になる。この場所にも丸太の家とか建てておいてもいいかもしれない……
ただ、この場所は境界線とはいえ魔の森の外側……辺境伯とやらの領地らしいので、勝手に建物を建てると厄介事に巻き込まれるかもしれないよなあ。
冒険者と行商人はテキパキと野営の準備をはじめている。馬車にはもちろん野営に必要な物資を積んでいるようで、テントのような物まで出してきている。
ん。冒険者の集団に見たことがある少女がいる。あの胸は覚えているぞ。茶色の長い髪をアップにした凛とした顔の少女――リベールだ。彼女は親し気に隣に立つ小柄な若い男と会話を交わしながら、他の冒険者と同様に野営の準備をしている。
話かけようかと思ったが、特に用事があるわけではないし、「勝負だ!」とか言われても困るからそっとしておくことにした。
――しかし、見つかった!
まあそうだよなあ。出発時に俺は彼らに挨拶をしているからなあ。あの時全員の顔を見渡したわけじゃないけど、向こうは全員俺の顔をもちろん見ているからね……
リベールに発見された俺は彼女から声をかけられる。面倒な事にならなければいいんだけど……
「ピウス殿。先日はお世話になりました」
リベールはペコリと俺にお辞儀をしてくる。隣には小柄な青年も腕を組み俺の様子を伺っている……しかしこの青年目つきが悪い。ぼさぼさの緑色の髪、日本人のような顔、両耳にはピアスがいっぱい。そして小柄な細見の体つき……黒いズボンに上半身は鋲付き革のベストだけと、身体的特徴と服装がアンマッチ過ぎる!
すんごい趣味をしているよな。この人。
「いや、ベリサリウス様は楽しんでいたし」
「冒険者の宿にあった依頼で貴殿の名前を見かけてね。募集に乗っかったわけなんだ。会えて嬉しいよ」
「そ、それは良かったね……」
リベールは凛とした顔に朗らかな笑みを浮かべているが、俺は特に……
微妙な空気を振り払うようにリベールは隣に居た男の肩へ手をやると口を開く。
「彼はリュウと言う。私の相棒だよ」
「リュウだ。よろしく」
ぶっきらぼうにリュウと呼ばれた細見の青年は俺に挨拶を行う。彼がリベールの言っている亜人だろうけど、見た目完全人間と変わらないんだが……一体どこを見れば亜人と分かるんだ?
「リュウさん。リベールさんからお話を聞いてます。彼女の恋人とか」
「……ち、違うー! ピウス殿! 何てことを言うんだ。私とリュウはそんなんじゃないからー」
突然言葉使いが女性らしくなり、あたふたと顔を真っ赤にするリベール。一方のリュウは彼女の様子に呆れたように肩を竦める。
いや、もうこれは完全にリベールはリュウを大好きだろ。分かりやす過ぎる……
「リベ―ルさん。リュウさんの事が大好きなのは分かったから」
「だから違うーって言ってるじゃないかあ。もう」
あ、拗ねてしまった。
「おいおい。ピウスさん。あんまりリベールをからかわないでくれ。後が怖い」
見かねたリュウが俺を遮って来る。
「ごめんごめん。つい」
「ははは。彼女は何でも顔に出るからな。反応が面白いのはわか……」
そこまで言った時だ。リベールの膝がリュウの腹にクリーンヒットし、彼はもんどりうって倒れた。ああ。可哀そうに。
「ピウス殿……」
「ご、ごめんなさいー!」
怖え。怖えよお。
「時にリベールさん。リュウさんは亜人と聞いてますけど人間にしか見えないんだけど。この見た目なら人間の街でも安全なんじゃ?」
「ピウス殿。緑色の髪をした人間は居ません。あの髪色は目立ちます」
リベールはさきほど自ら悶絶させたリュウを憂いの籠った目で見つめる。緑色の髪ってファンタジーな物語だと普通に見るけど、ブリタニアでは存在しない髪色なのか。
そういえば、人間の街フランケルでもほとんどの人間は濃い茶色か薄い茶色の髪だった。稀に黒と金色が混じるってところか……
そう考えると、地球の人間にある髪色と同じと想像がつく。地球で緑色の髪ってなると染髪以外ありえないし、ブリタニアでは科学技術の関係で髪染めもなさそうだしなあ。
となると、確かに緑色の髪は目立つ。彼が人間でないことを如実に示すってわけか。
「なるほど。前話した通り、魔の森ではどのような種族でも問題ないよ」
「あの時、貴殿とベリサリウス殿の誘いにとても感謝しています。ただ今はリュウとの役目を果たさねばなりませんので……」
「役目を果たした後にでも、ラヴェンナなりで住んでもらって構わないよ」
「感謝します」
役目って一体なんだろうなあ。以前リベールは力をつける必要があると、自身が強くなる為に躍起だった記憶がある。彼女とリュウが持つ使命が彼女を強くあらんと駆り立てるのだろう。
ま、まあ部外者の俺からは頑張ってくれとしか言いようがないけど……
俺とリベールの会話に割って入るように、エルラインが俺の腕を引っ張る。
「ピウス。多少厄介な奴が来るかもしれない……」
エルラインはボソっと俺にそう呟いた。
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