第70話 街の入口
いよいよ街の様子がはっきりと見えて来た。
街は城壁というには背が低いものの、石造りの囲いが外周を覆ってある。中に入ってみないと街の様子は見て取れないけど、見えないから逆に入るのが楽しみになってきた。
ティモタが言うに城壁の門でまず受付を行ってから、中に入ると教えてくれた。
ただ……飛竜のサイズは縦に十五メートル、横に三メートルあるので門の前に立つと馬車と比べ物にならないほど圧迫感があると思う……
街の上空近くまで来たのでエルラインは飛竜に乗り、ティモタ以外に変装の魔法をかける。
俺は髪と目の色が黒に変わっただけだけど、エルラインは肌の色が人間のような生気ある肌色に。ティンは翼が見えなくなった。
「ティモタ、あそこに見える門の前に飛竜を降ろせばいいのかな?」
「はい。少し離れた所に着地して下さい。人が居ますので注意して下さいね」
「了解!」
俺は眼下を見下ろし城壁と門を確認する。門の前には兵士らしき姿が二人。街に入ろうとする馬車が二台といったところか。
馬車が二台縦に並んで居たから、その後ろに飛竜を降ろそう。
俺たちが降り立つと、馬車を引く商人や門番の兵士から最大級の注目を受ける。ティモタから聞いていたとはいえ、目線が俺たちに固定され微動だにしない。
兵士に至っては、馬車の街への入場許可を出す仕事の手まで止まっている。
二人の兵士は俺と目が合うと、ハッとしたように仕事を進めだす。馬車二台が無事街へ入って行くと、いよいよ俺たちの番だ。
「ええと、あんたはビーストテイマーか?」
兵士の質問に俺は応じる。
「はい。俺がビーストテイマーでエルフの彼は冒険者」
敢えてティンとエルラインには触れない。変な情報を与えて疑われても嫌だしね。
「この街へは初めてか?」
「はい。エルフの彼に案内してもらいました」
「そうか……」
兵士がティモタに助けを求めるように目を向ける。
ビーストテイマーってそんなやり辛い相手なんだろうか……大丈夫か? この設定。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「あ、ああ! あんたはティモタだっけか。ずいぶん顔を見てなかったから、どうにかなったのかと心配していたぜ」
兵士はティモタと顔見知りらしく、ようやく彼に気がついた様子。彼の知り合いであるティモタがビーストテイマーである俺と共にしていることで、ようやく彼は少し落ち着いて来たようだ。
「実は里に戻っていたのですよ。ピウスさん、あれを」
里に戻っていたことにしてしまったティモタから、手で促されるが……あ! エルフの村にしか無いって言ってたな。そう、絹だよ。
俺は持ってきた絹織物を取り出し、兵士に見せる。
兵士は絹織物を見ると納得したように頷く。
「エルフの村は遠方ですし、途中モンスターもいるので、ビーストテイマーの彼に手伝ってもらったんですよ」
ティモタはにこやかに兵士に顔を向ける。彼からは嘘をついている様子など微塵も感じさせない。
「そうか、街に入るのは構わないんだが……」
歯切れの悪い兵士。何があるんだ?
「街で何かあったのですか?」
ティモタが問うと兵士は彼の疑問に答える。
「今、聖女様が街を訪れているんだよ。だから目立つ飛龍を街に入れるのは避けたい」
「なるほど。どうしますか? ピウスさん」
聖女が何かは分からないが、聖王国と言うくらいだ。たぶん国の要人なんだろう。となれば見慣れない上に戦闘力もある飛龍を街に入れたくない気持ちは理解できる。
飛龍を街の外に待機させていてもいいんだけど、何が起こるか分からないからなあ。もし飛龍を待機させるなら誰かここで待機してもらわないといけない。
うーん、ここは出直しても構わないかな。そんな長期間聖女とやらが滞在するとも思えないし。こちらはここまで来るのにそれほど時間はかからないから。
「出直してもいいかな」
俺がティモタへ伝えると、隣で聞いていたティンが手をあげて何やらアピールしている。
「ピウス様! 私がここで待ってますから行って来てください!」
確かにティンが街で必要ってわけではないが、彼女は人間の街に来ることをそれはそれは楽しみにしていたんだ……目の前にしてお預けは酷じゃないか?
「いや、でもなあ。ティン……」
俺が言い淀むと、エルラインが口を挟んでくる。顔をニヤニヤとしながら。ものすごく嫌な予感がするんだけど……
「ピウス。ここはティンの好意をありがたく受けようじゃないか」
「うーん」
意外とまともな事を言ったエルラインに少し俺は驚くが、やはり悩む。
「僕の用事と絹の取引をすぐ終えて、戻ってくればいいさ。ティモタには店だけ案内してもらって、ガイア達とここで宴会しててもらってもいいしさ」
「そうですね。それならティンさんも楽しめますね。私は街で暮らしていたこともありますし。ガイア達はお酒が飲めるなら場所なんて選びませんし」
エルラインの言葉にティモタも続く。
「そうそう。後でゆっくり二人きりでさ」
お約束と言うかなんというか、エルラインはきっちり爆弾を落として来た! どうしても俺とティンでからかいたいらしいなこいつは!
「ピウス様さえよければ、私……ご一緒したいです」
消え入りそうな声でティンがボソッと呟く。ちくしょう。可愛いじゃないかよ! もじもじしながら、女の子にそう言われると悪い気がしない……
「話はまとまったのかい? そこの娘がここで待つんだな」
兵士は俺達の話がまとまったと見ると、声をかけてくる。いつしか俺達の後ろにも街への入場を待ってる人が並んでいたからだろう。
待ってくれてる人を余り待たすわけにもいかないな。
「ああ。俺達三人でまず街に入るよ。飛龍は門から少し離れたところに待機させるが大丈夫か?」
「おう。問題ないぜ。じゃあ、行ってきな」
兵士は飛龍が待機すると決まるとあっさりと街の中へ入れてくれたのだった。特に通行料とかは必要ないらしい。
ひょっとしたら、ティモタが居るから免除されているのかもしれないけどね。
◇◇◇◇◇
街は木と漆喰で出来た平屋の家が多く、ポツポツと石と漆喰と木を組み合わせた二階建ての家も軒を連ねていた。街の門をくぐると大通りになっており、どうやら反対側にも門があるみたいだ。
この大通りは街の中央を縦断しているらしく、大通りの左右にはいくつもの露店が立ち並んでいる。大通りは石を敷き詰め舗装されており、想像していたよりインフラが整っている印象だ。
昼も近くなってきているので人通りもそれなりに多いが、先日戦闘を行った聖教騎士団らしき人影が目に入るのが玉に瑕だなあ。聖女がこの街へ来ているからだろうけど。
俺達はティモタに案内されながら、まずは絹織物の換金に向かう。それが終わればガイア達に挨拶をした後、彼らにも宝石店の情報をもらおうと考えている。
しかし……人々の視線が痛い。エルラインから注目されるとは聞いていたが、すれ違う人の半分くらいは俺に目をやるものだからソワソワして仕方がない……
「エル。まさかこんなに注目を集めるとは……」
「言った通りだろう。ティモタもいるから余計じゃない?」
「エルフも目立つのか?」
「そうだね。人間はエルフの顔を好きな者が多いからね。後で顔が隠れるフードでも買えばいいんじゃないかな」
「そうするよ……ティモタの分も買う。この視線は慣れないよ」
「あはは。君はこの世界へ来る前は人間の国に居たんだろう? なら注目されるのには慣れてると思ったんだけどね」
確かにプロコピウスは人前で演説することが多かったし、目立つことも嫌いじゃなかったかもしれない。しかし! 俺はこんなに人の視線を集めたことがこれまで無い……
だから視線が気になって仕方ないんだよー!
――人垣が割れていっている。聖女がお散歩にでも出てるのか?
「エル。ティモタ。横に寄ろうか」
俺達は他の人たちと同じように大通りの脇に移動し、聖女が通り過ぎるのを待った。
※BL臭のするパーティだぜ! ヒャッハー
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