第66話 第二部開始 アスファルトがボコボコだ!
聖教騎士団との戦争から一か月が過ぎようとしている。ローマ街民が居住する住居はすっかり完成し、他の集落から来た者の為にゲストハウスまで建築が完了している。
しかし、またしても俺の失敗が明らかになったんだ……
――アスファルトの道路なんだが、二か月も経たないうちにボコボコになってしまっている! その為雨が降ると穴に水が溜まり、酷い事になっていた……
何が足りなかったんだろう。現在ライチとティモタと原因を探り対策を練っているところなんだけど、道路工事の模様を思い出せるだけ思い出してみようと思う。
まず外観だ。国道を想像してみると、アスファルトで舗装された道路があり、道の左右には白い傾斜があって、雨が降るとここに水が流れていく。白い傾斜のところどころに下水へとつながる穴があり、雨水はそこから地下へと流れていく。
じゃあ、何で雨水が上手く左右へ流れていくんだ? これは想像がつく。道路が真ん中から左右に傾斜してるんだろう。だから雨が降っても左右の白い所まで流れていく。
ローマ道路の補修工事をする際には同じように中央から傾斜を付けよう。そして左右に水の流れる道を作ってため池か何かを建造しそこに流してしまおうか。
しかし問題はそこじゃあない。確かに雨水の流れる傾斜は必要だろう。ただ、このまま再作成してもアスファルトはボコボコになってしまう。
次に工事風景を想像してみよう。ええと確か、トラックみたいなアスファルトを入れた車両からアスファルトを入れ替えて……湯気があがっていたよな夏でも。だったらアスファルトの温度は高いはず。
これは分かる。こちらでもそうしているから。次に、アスファルトを敷き詰めて……あ、そうか!
――ローラー車でアスファルトを圧縮していたぞ!
これか、この作業が抜けていたのか。もしかしたら温度もシビアかもしれないから、ここは火の精霊術が使えるティモタの手を借りよう。
圧縮はどうするか。ローラー車はもちろん作れない。
んー。
あー。
あ! あれならどうだ。学校にある手で引っ張る台車みたいなローラー。車輪を作る技術はあるから、木製のローラーを作ってオークに引っ張ってもらおうか。
ついでじゃないけど、左右の水受けも建造して、ため池を作っちまおう。よおし、まずは実験だ。ティモタ、ライチ待ってろよー。
◇◇◇◇◇
俺はさっそく、ティモタとライチを呼んでアスファルト舗装改善会議を開いていた。開催地は俺の自宅だけど。今日の俺の世話役はカチュアだから、彼女にも参加してもらおう。
彼女は水の精霊術が使えるから、いい排水工事についていいアイデアが聞けるかもしれない。ティモタは火と土の精霊術を使える。彼の土の精霊術は今のところ汚物処理に大活躍しているんだが……汚物ばかりですまない。
「というわけで、アスファルトを使うときに熱をなるべく一定に保って敷き詰めた後、オークに木製ローラーを引っ張らせる」
「なるほど。それは試してみる価値がありそうですね」
ライチは思案顔だが、一応の理解を示している。土だって上から圧縮すれば相応に硬くなるんだ。アスファルトだって同じように踏み固めれば、より強固になることは彼も想像できるからだろう。
「問題は、アスファルトの強度が低すぎたことだったからこれで硬くなればいいなと思ってる」
「土の精霊術で固めることもできますよ。ピウスさん」
ティモタが精霊術を提案してくれるが、舗装のたびにティモタに出てもらうことは効率が非常に悪い。道はこれからローマの外にも敷設予定なんだから。
「いや、ティモタ。誰でも出来るようにしとかないと、道は膨大にあるからさ」
「なるほど。確かにそうですね。鉱山や他の集落とも道を繋ぐって言ってましたものね」
「うんうん。だから、魔法や精霊術に頼らない形で出来ることが望ましいんだよ」
俺の言葉に、ライチとティモタは納得の表情を見せる。
「もう一つは雨水の事なんだ。雨水がたまらないように道の中央から左右に傾斜を作る」
「それはいいアイデアですね。アスファルトが綺麗なままでしたら、上手く流れてくれると思います」
ライチは俺の意見に同意してくれた。
「それで問題は水の行先なんだよ。道を作るときに穴を掘るから、地中に水の通り道を作るのは良いと思うんだ。ただ、水の行き先をどうするかなんだよ」
「傾斜をつけてため池にでも流しますか?」
「うん。それが一番かなと思うけど。水が溜まってずっと置いておくと水が腐らないか?」
「ああ。そういうことですか」
水の浄化はいくつか方法があるけど、ほっておいても多分コケやら水草やらが繁茂して水を浄化してくれると思う。後は小魚でも捕まえて放流すればため池の中に生態系が出来、一定の清浄さは保てると思うんだけど……
上手くいかなかった時の調整方法が欲しい。そこでカチュアだ。俺が水質に詳しければいいんだけど、残念ながら全く知識がない。困ったときの精霊術頼りってやつだ。
「上手くいけばため池には、水草が生えて魚が住む清浄な池になると思うんだけど、上手くいかなかった時に調整出来ないかと思ってさ」
俺はカチュアの方に目をやると、彼女は突然俺から見られたことで少し驚き目を見開いている。
「あたし?」
カチュアは自分に指をさして俺の方を見る。
「うん。水の精霊術で浄化できたりしないか?」
「飲める水にはできるよ!」
「おお。素晴らしい! ティモタの土の精霊術でも出来そうだよな」
俺が話を振るとティモタは頷きを返す。
「悪いが、ため池完成後は二人で定期的にため池を見てくれないか?」
「分かりました」「うん」
二人は了承の意を示してくれたのだった。
「ではさっそく、木製ローラーを作成しますね」
ライチは椅子から腰を浮かせながら俺に告げる。
「よろしく頼むよ。実験結果が出たら教えて欲しい」
「もちろんです」
アスファルトの道路が上手くいくか楽しみだ。これで道路が無事安定すればいいんだけど……ついでに排水溝も作れるし成功すれば言うことないな。
俺はライチとティモタを見送ると、テーブルに戻り椅子に腰かける。カチュアはそのまま座っているように指示を出したので俺の向かいに座っている。
カチュアにはもう一つ聞きたいことがあったから……
「カチュア。風呂って知ってるか?」
「風呂? んー。何するところなのかな?」
「あったかいお湯を桶に張って、裸で浸かるところなんだけど。ついでに体も洗う」
「……ピウス……」
「待て待て! 変な意味じゃない! 毎日の疲れを癒す為に風呂が作りたいんだけど、目途が立ってなくてな」
「水の精霊術でお湯を沸かすのかな?」
「それだと、カチュアの負担が大きすぎる。できればさ、ローマの街民が手軽に入れるものをつくりたいんだよ」
「ふーん」
「毎日水を入れ替えるとなると大変だから、水の精霊術でお湯を浄化できないかなってさ。それなら毎日清潔に風呂に入れるだろ」
「できるよー。大きさにもよるけど……」
「カチュアの負担が大きいようだったら別の手を考える。いずれにしても今後のことを考えたら、精霊術無でも出来るようにならないといけないんだけどさ」
「わかったー。どんなのにするか決まったら教えてね」
「助かるよ」
「でも。ピウスさん。誰と入りたいのー? 裸で」
ジトーッと俺を見つめて来るカチュア。だからそんな意味で言ったんじゃないってさっき説明しただろうが! 俺は風呂に浸かりたい。ただそれだけなんだよ……
ああ、風呂に入りたい。ゆっくり熱いお湯に浸かりたいー!
「いや、そういう意図は無くてだな」
「やっぱりティンと入りたいのー?」
「だから違うって!」
「あ、もしかして……あたし? いいよー」
「うああああああ!」
駄目だ話にならん……
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