第54話 聖教騎士団百名なんぞ物の数ではない

 ベリサリウスと合流した俺達は彼の指示で旧小鬼村へ向かう。まだ聖教騎士団との距離は徒歩で一日近くある為、今日のところは旧小鬼村到着後野営となった。

 ベリサリウスと猫耳族が旧小鬼村へ到着するまでの間、俺たちは聖教騎士団の隊長がいる三十名の本隊を監視することになる。


 結局その日は聖教騎士団の本隊は移動せず、そのまま野営に入る。それを確認した俺たちも旧小鬼村で同じく夜を明かした。


 翌日、本隊が移動し再び野営となるも、ついに旧小鬼村から南へ半日ほどの距離まで接近した。

 いよいよ明日からが本番だな。


 俺達は明日から始まるであろう聖教騎士団との戦いに備え、最後の確認を行っていた。


「ベリサリウス様、聖教騎士団は本体に三十名。残りは十名の小隊に別れておりますがどのようにお知らせすればよろしいですか?」


「ふむ。旧小鬼村――我らの拠点から近い距離から三小隊について位置を逐次報告してくれ」


「了解いたしました」


「猫耳族よ。明日は頼んだぞ!」


 ベリサリウスの激励に、猫耳族の男女は感極まったように全員がローマ式の敬礼を行う。いつの間に教え込んだんだ......ベリサリウスから教えたんじゃないだろうなこれは。

 きっと猫耳族からベリサリウスへ願ったんだろう。敬愛する彼に少しでも応えれるように。


「猫耳族の皆さん。危急の場合は空へ矢を打ち上げてください。救援に向かいますので」


「分かりました!」


 猫耳族の代表である黒猫の顔をした男が確かめるように了承の意を示す。彼らの矢を俺が確認すればエリスからベリサリウスへ伝わる算段だ。

 同じように俺が危急の場合はエリスからベリサリウスへ連絡を入れる。ベリサリウスが危急の場合? 無いだろ? そんなことは。

 ただ、ベリサリウスも別の意味で空へ矢を放つ連絡方法を取る。


「ベリサリウス様。確認ですが、ベリサリウス様から矢が上がった場合には旧小鬼村へ集合でよろしいでしょうか?」


「うむ。お前の事だから無いと思うが、猫耳族のミャミャへの連絡も忘れずにな」


「もちろんです。ミャミャ。連絡が行ったら集合の指示を他の猫耳族へも頼むぞ」


 俺の言葉に猫耳族の代表である黒猫の顔をした男――ミャミャは「了解しました」と俺に答える。



◇◇◇◇◇



 飛龍に乗り上空から聖教騎士団をつぶさに観察し、旧小鬼村に東西から北上するそれぞれの聖教騎士団の小隊を発見すると、地上で待つベリサリウスへ報告する。

 姿がダチョウに似た羽毛を持つ騎乗用の竜――デイノニクスを駆るベリサリウスは、東側の聖教騎士団の小隊へ接近すると弓を引き絞り矢を放つ!


 見事に矢は兵士の頭に命中し、一人が崩れ落ちる。

 息もつかせずベリサリウスの二射目。

 またしても正確に兵士の頭を貫く矢!


 これは......デイノニクスで炎弾をかわしつつ矢で射殺していけば、ベリサリウス一人で全滅させられるんじゃないか? 猫耳族をわざわざ使う意味は何だろうか?


「聖教騎士団の諸君!」


 大胆にもベリサリウスは聖教騎士団の小隊の前へ躍り出て、彼らに大声で呼びかける。

 すでに二人が射殺されている小隊は、ベリサリウスが強敵と認識するも徒歩と騎乗竜の差を考慮し戦闘することを選択したようだ。

 一斉に魔法を唱えはじめる小隊だったが、この隙を見逃すベリサリウスではない。


――さらに矢が二射。


 倒れる二名の兵士。またも頭が貫かれている。これにはさすがに恐慌状態になってしまう聖教騎士団は我先にと逃げ始める。

 ベリサリウスは彼らをゆっくりと追いたてるが、矢は放たない。五分ほど小隊が逃げた頃だろうか、彼らの頭上――木の上から襲い掛かる影!


――猫耳族だ!


 猫耳族達は聖教騎士団の小隊に木の上から飛び降り襲い掛かると、そのままナイフを彼らの首に突き立てる。落下の勢いを持ったナイフは容易に彼らの首へ深く突き刺さり一撃の元に彼らを絶命させる。

 こうして小隊の生き残り六名も魔法を撃つことも無く倒されたのであった。


 西側の小隊についても同様の手口で全滅させ、残りは五の小隊と本隊だ。

 しかし次に接近してきた小隊は近い位置に三。猫耳族が進行方向を予想し一隊を待ち受け、奇襲によって殲滅。残り二小隊は、ベリサリウス無双だった......やっぱり一人で全滅させれるんじゃないか!

 一隊は遠くから弓を射るだけで全滅。もう一隊は趣向を変えたのか、一射打ち、敵に炎弾を撃たせデイノニクスで巧にかわしつつ矢を射かけて全滅させていた......炎弾の性能を目前で確認したかったんだろう。きっと。


 しかし今の動きで俺はベリサリウスが何故最初猫耳族へ奇襲をさせたのか理解できた。彼は猫耳族に実戦経験を積ませたかったのだ。ベリサリウスが見守る中で奇襲となると、初陣にはうってこいだ。

 次にベリサリウスと別れ単独で奇襲を成功させている。今後数の暴力で攻めてこられた場合、ベリサリウス一人では対応しきれない。今後を見越して猫耳族を訓練しているのか。


 残り二小隊はある程度分散していたので、さきほどと同じ要領で猫耳族が待ち伏せを行い撃滅。これで残すは本体のみになったぞ!


――集合の合図の矢が俺の目に入る。


 ベリサリウスが空へ矢を放ったんだ。このタイミングで何故? 彼の様子を確認すると本隊に矢を射かけ元小鬼村の方へと誘引しているように見える。どんな意図があって彼らを旧小鬼村に誘導しているんだろう?

 ともかく彼からの指示だから、俺たちは飛龍を旧小鬼村へ降下させ彼を待つことにした。


 猫耳族が俺達のすぐ後にやって来るが、ベリサリウスはまだこちらへ到着していない。

 さらに待つこと暫し......彼の良く通る声が俺達の耳に入る。


「聖教騎士団の戦士達よ! 勇気があるならこちらへ来るがいい! 来るならばそなたらの勇気を称え、私からは君たちをこれ以上害さないと誓おう」


 ベリサリウスの声が終わると、間もなく彼は旧小鬼村へ姿を見せる。悠々とした様子でデイノニクスを闊歩させていた彼は、村へ到着するとデイノニクスから下馬する。

 その後ろを死人のような死んだ目をした兵士や悲壮な顔をした兵士達が彼を追うように旧小鬼村へとやって来る。これは聖教騎士団の本隊だ!

 しかし、その数は僅か七名。既に残りの者はベリサリウスに仕留められたのだろう。そして彼から脅しを受け旧小鬼村まで連れて来られたというわけか。


 恐らく先ほどのような言葉をベリサリウスは何度か聖教騎士団本隊へ投げかけ、最初は彼らもベリサリウスを攻撃したのだろう。しかし敵わなかった。あそこまで減らせれて彼らも腹をくくったということか。


「よく来た。聖教騎士団の諸君。我々は逃げも隠れもしない」


 ベリサリウスの言葉に、隊長らしき男がかすれた声で応じる。


「魔族に味方する人間よ! このたびの恥辱、我々は忘れはしない!」


「ほう。気概だけは立派なことだ。私は約束を守る。君たちは尻尾を巻いて帰るがいい」


「クッ!」


「来るなら来るがいい! 分かるかこの村が。君たちに燃やされた。しかし我々はもう君たちの狼藉を許しはしない」


 ベリサリウスの宣言に聖教騎士団の隊長は舌打ちすると、踵を返し旧小鬼村を後にする。ローマでの会議で彼が言った通り、聖教騎士団百名は戦争にさえならなかった。

 ベリサリウスの個人武勇と猫耳族のゲリラ作戦にてけが人さえ出すことなく終結したんだ。しかし、これは序章に過ぎないことをこの場にいる誰もが感じていた......


※ベリ様つえええええの回でした。

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