第31話 空からの監視

 俺たちは飛龍に乗りローマへ帰還する。冒険者たちから多少の情報を得ることができた。この分だと魔の森には多数の冒険者がいるだろうから、ローマに近寄らないように監視を行ったほうがいいだろうな。


 さっそく俺はベリサリウスへ冒険者対策について話をすることにする。


「ベリサリウス様、冒険者なる者たちについてですが、ローマを発見されると厄介になるかもしれません」


「ふむ。監視を行うか」


「幸い、ハーピー達がローマへやって来てくれるはずです。ティンと飛龍に乗るロロロに加え、彼女らにも周辺監視を任せましょう」


「空から監視か。プロコピウス分かっているではないか。我々の時代と違い、ここでは空が使えるのだ。戦略も変わる。数が増えればその分情報も入るだろう」


「ありがとうございます。では、ハーピーへ監視を行わせます」


 逆に俺が驚きだよ。ベリサリウスは既に空からの戦略について考えを巡らせている。当たり前だけど、彼の生きた時代には飛行機なんて無かった。

 空を移動できる最大のメリットは、索敵範囲の広大さと迅速さなんだ。時代が進めば空からの攻撃に目が行きがちになってくるんだけど、一番はやはり索敵能力だろう。俺がハーピーを全て空からの監視に加えると提案した時彼はすぐ了承したことからも、空からの組織的な索敵体制を作ろうと考えているんだろう。やはり既にベリサリウスは空の有用性を理解しているようだ。


 ベリサリウスから別れると、俺は道の下準備をしているマッスルブと犬耳族の元へ向かう。

 彼らの元へやって来て俺は目を疑う。たった一日でもう縦に通る予定の草が、二列引き抜かれている。は、早すぎるだろ。この分だと明日中には横軸の草も終わりそうだ。

 草抜きの開始地点には大量のキャッサバが積み上げられている。俺が言わなくても彼らはキャッサバまで集めてしまったんだ! ちゃんと茎や葉もついたままで。


「みんな集まってくれ!」


 俺の掛け声が聞こえると彼らは全速力で俺の元へ走って来る。うわあ。凄すぎて怖いんだけど。

 俺が心配していたのは、彼らが真面目に動くかどうか、不満を持たれないかどうかなんて心配していたんだけど、今日一日を見る限り、彼らの真面目さに逆に驚嘆してしまった。


「ここから先、端っこまで草は抜いたブー」


 マッスルブがみんなを代表して状況報告してくれた。あれだけうざかったマッスルブが今は頼もしく見える。


「ありがとう。明日は横から同じようにやってくれないか? キャッサバも集めておいてくれると助かる」


「了解ブー。任せてブー」


「今後なんだけど、本格的な道を造る前に家を建てる準備をしようと思う。村長にどれだけ道具があるのか聞いてみる」


「どんな家を造るのか楽しみだブー。あの岩で何かするブ?」


 あの岩というのは石灰岩のことだな。そうだ石灰岩を使って家を建築するつもりだ。


「察しがいいな。あの岩を溶かして砂と混ぜる。これが接着剤みたいになるんだ。それとレンガでレンガの家にしようと考えてる」


「おおおおお」「おおおおお」


 犬耳族からどよめきが起こる。レンガの家は珍しいんだろうか。


「さすがプロコピウス様!」

「レンガで家とは!」

「ローマ万歳」


 口々に犬耳族が俺を褒めたたえて怖い......上手くいってから言ってくれ......これだけ騒いで失敗しましたーだと恥ずかしすぎるぞ。



◇◇◇◇◇



 一から街を造ろうというんだ。足らないものばかりなんだけど、なるべくスムーズに進むよう俺は順番を考えている。まず作業するためには道具がいる。これがないと何も出来ない。


 次が建築素材、場合によっては土地の造成も必要だけど、元「開けた土地」にはほぼ木は存在していないから、最初は余り気にしなくていいだろう。

 そんなわけで俺は小鬼の村長にどれほどの道具が現在あるのか、聞きに来ていた。


「村長殿。鉱山の様子はいかがですか?」


「おお。プロコピウス殿。お陰様でモンスターはおらず、オークの力もあり順調に掘り進めてますぞ」


「堀った鉱石は何で運んでるんです?」


「台車に乗せてみんなで押してきてるのですぞ」


「鍛冶屋の再建はいかがでしょう?」


「鍛冶の炉はなんとか造成できました。道具作成は炉が温まる明日より実施できますぞ!」


「それはすごい! そんなはやく実行できると思ってませんでした!」


「ベリサリウス殿とオークの力あってこそですぞ。他の種族と協力することでこれほど作業が進むんですな。プロコピウス殿に教えられました」


「いえいえ、私はオークをそちらに派遣しただけです。村長殿、ローマ建築について提案があります」


 俺は村長に今後のおおざっぱな手順を説明しはじめる。最初はマッスルブ達が目印をつけてくれた道路予定部分を掘り進め石灰岩を掘る。同時作業になるが、どこからか粘土を集めてきてレンガを作成する。

 鉄の加工技術があるくらいだから、レンガの錬成なんて軽いものだろう。石灰岩は砂と混ぜてモルタルにして、これで家の建築素材の準備ができあがる。レンガとモルタルだけでも家は建築できるが、木材が間に合えばそれも使おう。


 レンガにしたのは耐久性と建築のしやすさが優れていたからだ。さらに木と違って火災に強い。以前小鬼の村は火災で焼け落ちてるし、そういった意味でレンガのほうがよいだろう。


「なるほど。ではツルハシや、モルタルでしたかな? それらを入れる容器やレンガ用の容器や炉を作成しましょう。今鉱山で使っているツルハシを一部回しますから、それで試しに石灰岩を掘ってみてください」


「村長殿。レンガを作成する為の粘土はありますか?」


「粘土は開けた土地にはありませんが、周辺にたくさんありますぞ。台車も作成しないとですな」


「ええ。仮説住宅がある程度できてくれば、リザードマンをレンガ作成に参加させましょう」


「おお。リザードマンがレンガですか。全くプロコピウス殿は面白い」


「粘土を掘ったり、レンガを運んだりなら彼らでも出来るはずです。炉で粘土を焼いたり、形を整えたりするのは小鬼の人がやってください」


「相分かった。完成が楽しみですなあ」


「ええ。もう一つ教えてください。以前聞いた黒い泉についてです」


「武器の接着剤ですな」


「ええ。あれと砂を混ぜれば道の舗装に使えるんです。ですので、黒い泉から大量に黒い液体をもってきましょう」


「ふむ。ならばそれを入れる容器も必要ですな。面白い実に面白い」


 村長は未来のローマの姿を想像し、顔をほころばせている。亜人の種族を越えた協力があれば、きっと素晴らしい街ができるはずだ。俺も彼と同じく未来のローマへ思いを馳せた。


 街の門が東西南北にあり、門をくぐるとアスファルトで舗装された道が街の端まで続く。道の左右にはレンガの家が立ち並び、中央では道が交差している。ここでベリサリウスが訓示を行うのだ。

 さらに、井戸を利用した上水道と下水道が整備され、汚物は街のはずれで処理される。街に隣接するように草食竜の牧場と、飛龍の小屋、デイノニクスの厩舎が立ち並び、さらにはキャッサバの畑が広がる......


 こんな街になればいいなと顔をニヤけさせ俺は妄想していた。


「は、すいません。つい未来のローマへ思いを馳せておりました」


「私もだよ。プロコピウス殿」


 ハハハと俺と村長は二人で笑い合い、明日からの作業の打ち合わせを終えたのだった。

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