第30話 冒険者
倒れている二人は、俺とベリサリウスが上空から蹴飛ばしたらしく吹き飛んで伸びていたみたいだ。一人は黒髪短髪の小柄な男。もう一人はダークエルフと同様のウサギのような耳を持つ、薄い金色の髪をした華奢な男だ。しかしダークエルフと違って肌の色は白に近い肌色をしている。
彼らは介抱すると間もなく意識を取り戻したが、正常に頭が働くまでまだ時間はかかるだろう。
ベリサリウスをはじめ全員が木の根元に腰をかけ、輪になっている。
「俺はプロコピウスという。ベリサリウス様の命を受け君と情報交換したい」
「俺はガイアだ。こちらの髭の長いドワーフはマッシュ。黒髪がオルテガ。エルフはティモタ」
三人の名前が非常に気になったが、恐らくたまたまだ。世界が違うから......
「ガイア、君たちはここで何をしていたんだ?」
「魔物の森で薬草の採取だ。冒険者ギルドの依頼にちょうどいいのがあったからな」
「分からないことだらけだな。一つずつ聞くぞ。まずドワーフとエルフについて教えてくれ」
「ああ、ドワーフとエルフが珍しかったのか? 彼らは人とは違うがそれぞれ独自の里を持ち、俺らのような冒険者になる者も多いんだ」
ドワーフとエルフが何たるかを聞きたかったんだけど、彼らに直接聞いた方がいいか。なら、冒険者と冒険者ギルドってのについて聞いておくか。
俺の知っているファンタジー小説のようなイメージなんだろうか?
「冒険者ってのは、冒険者ギルドでいろんな依頼を受けて生業とする者たちでいいのか?」
「ああ。そうだ」
「モンスターを討伐したり、薬草などの素材を集めたりって感じか」
「ああ。他にも遺跡を探検したりすることや、手紙を届けたりすることもある。まあ、何でも屋だな」
「だいたいわかった。ありがとう」
冒険者とは、冒険者ギルドに所属する者たちなんだろう。ギルドから依頼を受けて様々な仕事をこなす。モンスターを退治したり荒事もやる何でも屋か。
うん、概ね俺のイメージする冒険者と冒険者ギルドに近いな。
「次だ。ここは魔の森であってるか?」
「ああ。あっている」
「聞きたいことは山ほどあるが、先に君たちの国と知っている国について教えてくれないか?」
「変わったことを聞くんだな。ほんとお前さん達は何者なんだ......」
訝しむガイアだったが、ベリサリウスが睨みを利かせている以上答えるしかないだろう。命を握られているからな。
「い、いや。話す。話すから睨まないでくれ」
ガイアはベリサリウスに目をやり、降参のポーズを取る。眼光だけでも只者ではないからな我々のボスは。
「俺たちはパルミラ聖国から来た。魔の森は他にもバルカ共和国、そして遊牧民の国とも隣接している」
「聖国ってのが気になるな。何らかの宗教を信仰しているのか?」
「ああ。そうだ。聖国にはパルミラ教の信者がほとんどだ」
「それぞれの国の特徴を簡潔に教えてくれ」
「パルミラ聖国は魔法。バルカ共和国は技術力、遊牧民はよくわからない」
魔法か。魔法と技術力だとどちらが優勢なんだろう。魔法で何が出来るか分からないから何とも言えないな。両方の国から人をさらってくれば話は早いが、いらぬ軋轢を持たれても困る。
「君たちは魔の森の亜人をどう見ているんだ? さきほど魔族と言ったよな?」
「わ、悪気は無かったんだ」
「いや、気にしないでくれ。一般的にどう見られているのか教えて欲しい」
「俺たちが亜人というのはドワーフ、エルフ、猫耳、犬耳のみだ。それ以外は知性あるモンスターは魔族。知性が無いものはモンスターや魔物と言っている」
「ふむ。魔族や魔物は君たちの認識ではどうなんだ?」
「どちらも人を見ると襲い掛かって来る危険な存在という認識だ。力が強い魔物は厄介だが、集落を形成した魔族も、数が増えると非常に厄介になるという認識だ」
「ほう。君たちは最近集落を燃やしたか?」
「俺達は聞いた話だが、ゴブリンだかどこかの集落を見つけたという話は聞いたな」
「ゴブリン?」
「人間そっくりな顔をしているが、背丈が低く頭に角が生えている。狡猾ではあるが力の弱い魔族だな」
「ありがとう。だいたい分かった」
小鬼族のことだ。彼らの認識ではゴブリンか。確かにゴブリンの集落と言われれば、攻撃して燃やそうって気になるかもしれない。ここが俺の知るよくあるファンタジー世界なら。
しかし現実には小鬼族は穏やかで、道具作成が得意な種族だ。この認識の差はどこで生まれた? 一人でも接した人間が居て情報を持ち帰ったのならば、小鬼族は危険ではないと分かるはずだ。
同様に猫耳族と犬耳族を除いた魔の森に住む他の亜人たちも、手当たり次第人間を襲うと認識されているのか。
いずれ、人間と大規模な争いになるかもしれない......向こうが攻めてくればだけどな。
「もう一つ教えてくれ。君たちの国では農耕は行っているのか?」
「ああ。小麦をはじめ様々な作物を育てている」
「ありがとう。私からは以上だ」
やはり人間の国ではしっかりとした農耕が行われているらしい。いずれ引っ張って来ることも視野にいれてもいいかもしれない。
俺はベリサリウスに向きなおり、彼に彼ら冒険者の処遇を聞くことにした。
「ベリサリウス様。一通り聞くことはできました。彼らは薬草を採りに来ていただけのようですがどうしますか?」
「うむ。そのまま帰してしまうのは非常に危険だが、素直に情報を提供したのだ。帰してもよかろう」
「下手したら、人間たちが噂を聞きつけ攻めて来るかもしれません」
「いいのだ。もし攻めて来るなら。その時は」
――容赦なく打ち倒す
彼の目はそう語っていた。一見甘い判断だが、彼には自信があるのだ。何が攻めてこようが打ち倒すと。やれるものならやってみろと。
魔の森でパルミラ聖国にとって不穏な動きがあると、冒険者から伝わってもいい。それで挑んで来るなら砕いてやると。
全く規格外にも程があるよ。嫌いじゃないけど。そういうところは。
「了解しました。解放しましょう」
俺はガイアに向きなおり、既に聞いていただろうことを俺の口から伝える。
「ガイア、喜べ。このまま君たちは帰っても良い」
「ありがたい。俺たちからお前さん達のことが漏れるかもと思ってるようだが、これでも口は堅いんだぜ」
どうだか。まあ、口では何とでも言えるだろ。
その時だ、
――突然大きな声がこだまする。
「あ、あなたたちは一体!」
どうやら起きて来たエルフの男――ティモタが俺とベリサリウスを見て叫ぶ。
ああ、そうだった。エルフには精霊の加護が見えるんだったな。恐らくティモタが驚愕で目を見開いているのはそれが原因だろう。
「どうした? 確かティモタだったな」
「あ、あなたたちお二人は一体何者なのですか? と、特にプロコピウスさんでしたか?」
「詮索はよしていただきたい。我々と来ると言うのなら、後で教えてもいいが」
「つ、ついていけばあなた方のことを教えていただけるのですか?」
「ああ、ただし戻ることはできない。よく考えてくれ」
「なるほど。いずれ必ず、あなたの元へ行かせていただきます。その時で構いません」
ティモタは決意の籠った目で俺を真っすぐに見つめ、頷く。この調子だといずれ彼はここへやって来るだろうな。
「その時は歓迎する」
「ありがとうございます。いずれ。また」
ティモタが握手を求めて来たので、俺たちは握手を交わし、ここで別れることとなった。
冒険者たちと会うことで人間のことが多少聞くことが出来た。本当は拘束して洗いざらい聞きたかったんだけど。まあ冒険者ギルドとやらの依頼で魔の森に来ていたんだ。
薬草を採りにここへ来るくらいだから、それなりの数の冒険者が魔の森にやって来ていることは確か......なら、情報が欲しければまた捕まえればいい。ベリサリウスがいるなら簡単に捕獲してしまうだろうから、急がなくてもいいか。
きっとベリサリウスも同じように考えて、解放を選んだんだろう。来るなら挑んで来いって気持ちのほうが大きい気がするが......
小鬼やハーピーの亜人はともかく、俺たちは彼ら四人の冒険者を害するような行為をしなかった。だから人間同士ということもあり、すぐに敵対しないんじゃないかと甘い考えももちろんある。
いずれ俺たちは人間の国へ潜入することもあるかもしれない。だからこそ、冒険者と友好関係を築けるならそのほうが望ましい。
果たしてどうなることやら。彼らの出方次第だな。様子見に何回か捕獲してもいいかもしれないぞ。
もう一つ、ローマでキャッサバを素人で育てれるかやってみるが、難しそうなら彼ら冒険者を通じて農耕ができる人間を......
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