第23話 歴戦のデュラハン

 どうしてこうなった。オーガとの戦いが終わって、危険の少ない内政パートに入っていたんじゃなかったのか?


 俺はベリサリウスの操る飛龍に乗り込んでいた。いつものごとくティンを肩車しながら。

 俺がついて行く必要性はあったのかものすごく疑問だよ。ローマで村長たちの作業を手伝っていたほうがよっぽど役に立ちますって。

 「いえ、留守番します」なんて言えるわけがない......僕らのボスの決定だもの。


 沈んでばかりもいられない。ローマから遠くに薄っすらと見えた山脈がもう目前に迫って来ている。


「ベリサリウス様。まずはデュラハンについて情報収集しましょう」


「そうだな。ハーピーの村で聞こう」


「あ、ベリサリウス様、ピウス様。デュラハンのことなら私知ってます!」


 意外にもティンがデュラハンのことを知っているそうだ。ハーピーの村では有名なモンスターなのだろうか?


「デュラハンは、リッチというモンスターに敗れた凄腕の戦士の成れの果てです」


「ほう。凄腕か」


 ベリサリウスの背しか見えないが、きっと彼は獰猛な笑みを浮かべているんだろうな。この世界の凄腕の持ち主とベリサリウス。どれくらいの差があるんだろう。

 いや、負ける気は全くしないけど。


 ハーピーの住む山には、亜人が魔の森に追いやられるよりずっと昔、人間の賢者が住んでいたらしい。賢者は死期を迎える前、自らをリッチという不死の存在に変化させ永遠を獲得した。

 賢者は過去に集めた膨大な財宝を所持していると言われ、時折無謀な人間がリッチに挑戦するそうだ。敗れた人間は、アンデットという動く死体になり、山をさまようようになる。

 生前の実力によって、変化する形態が変わるようで、凄腕の剣士はデュラハンという首を手に持った騎士の姿になる。今回はそのデュラハンが三体も出たらしいのだ。

 アンデットは知性があるリッチは別として、生ある生き物を片っ端から襲っていく。それがハーピーの村から僅かのところに出たものだから、俺たちに助けを求めにやって来たというわけだ。


 今後出ないようにする為、リッチを倒せばいいんじゃないかと思ったが、リッチ自身は特にハーピーに害を成す存在ではないらしい。気まぐれではあるが、モンスターから救ってくれさえしたこともあるとのことだ。

 結局、欲にくらんだ人間が悪いと言えばそれまでなんだけど、リッチを狙う人間が後を絶たない限り、これからもデュラハンが出ることになるだろう。


「どうします? ベリサリウス様、リッチは?」


「うむ。ほっておいてよかろう。彼を討伐する理由が私にはない」


 ベリサリウスは過去の自分とリッチを重ねているのかもしれない。実力があり過ぎたが故の嫉妬で、彼の晩年は物乞いのような生活を強いられた。ただ静かに暮らしたいだけだった彼を帝国高官は許さなかった。


 リッチも生前から財宝を大量にため込むほどの、高名な者だったのだろう。襲撃してくる人間が悪いのであって、リッチ自身に責を負わせる必要はない。それがベリサリウスの考えのようだ。



◇◇◇◇◇



 ハーピーの村へ到着する前に、上空から鎧を着た騎士を三体発見してしまった。すごいぞこの騎士。金属製の全身鎧で体を覆い、手にはこれまた金属製のフルフェイスの兜を持っている。もう一方の手には両手でも片手でも持てるバスタードソードという剣を握っている!

 金属がいっぱい! 剣は特に貴重な一品だぞ。こんな垂涎装備が三セットもあるんだ!


「行くぞ。プロコピウス」


 ですよねー。見つけたら即殲滅ですよね。さすがベリ様。

 山肌の開けた場所に飛龍を着陸させると、片手剣を引き抜いたベリサリウスが俺に声をかける。


「プロコピウス。手出し無用。そこで見ているがいい」


「ベ、ベリサリウス様! デュラハンの頭を破壊してください! そうすれば彼らは動きを止めます!」


 ベリサリウスがまさかそのまま攻撃に移ると思っていなかっただろうティンが、慌てて彼の背後から言葉を付け足す。


「うむ。了解した」


 ベリサリウスは振り返らず、ティンに了承の意を伝える。


 三対一っすか。相手は凄腕らしいんですけど。ティンが言うには、フルフェイスの鉄兜を割らないと倒せないって言ってますよ? 鉄の片手剣で割れるような代物じゃないんですよ!

 それを様子見もせずにいきなりやるとは、普通なら蛮勇だ。しかし、ことベリサリウスに限っては......



 ゆっくりとデュラハン三体の元へ歩くベリサリウス。デュラハン達もベリサリウスに気が付いたようで、一斉にバスタードソードを構える。

 ゆらり、ベリサリウスの手元がぶれると一番手前に居たデュラハンの頭がはじけ飛ぶ。どうやって斬ったのか分からないが、鉄の兜ごと難なく真っ二つにしてしまった。


 規格外過ぎる! 何だこの人。


 息つく暇もなく、そのまま一歩踏み込んだベリサリウスは切り返してきた剣をそのまま振り下ろし、二体目の頭を叩き割る。

 勢いそのままに再度切り上げた剣をもって下から最後の一体の頭を切り裂いたのだった......


 凄腕だよな? 相手?


 ベリサリウスは、デュラハンに一太刀も振らせず倒してしまった。


「えっと、ティン。デュラハンって凄腕なんだよな?」


「は、はい。そうなんですけど。そうなんですけどお!」


 ティンは余りの出来事にトリップ状態になっている。俺も何が起こったのか。まるで練習用の藁人形を切るかのようにデュラハン三体を仕留めてしまったベリサリウスに、開いた口が塞がらない。


 戻って来たベリサリウスは俺たちに一言。


「これでは練習相手にもならぬ。凄腕と聞いていただけにガッカリだ」


 俺もこいつらが凄腕じゃない気がしてきたよ。


「ベ、ベリサリウス様! どうやって鉄の兜を斬ったんですか?」


 まだ驚きから立ち直っていないティンがベリサリウスに尋ねると、


「ん。鎧には必ず目があるのだ。目を見極め一息に斬り払う」


「ふええ」


 ティンは何を言ってるのかわからない様子だった。俺もそうだ。なんだよ。「目」って? ベリサリウス流斬鉄剣とでも俺が心の中で名づけよう。

 残念なことは、ベリサリウス以外使いこなせそうな者がいないことだ。こんなん教えてもらっても出来るようにならないだろ!


 あっさりとベリサリウスがデュラハンを倒してしまったので、ハーピーの村へ一応報告を行い、俺たちはローマへ帰還する。

 デュラハンの装備? ああ、奴らが倒された後だな、煙のように消えてしまったよ! 残念だ......



◇◇◇◇◇



 ローマへ戻る頃にはすっかり日が暮れていたが、村長たちがかがり火を炊いていてくれたので、飛龍は無事着陸することが出来た。俺はついていったけど要らなかったよな?

 一人であっさり片づけてしまうんだから。この世界の凄腕って、実は大したことないのか? 


 いや、そんなわけは無いと俺は思ってる。同じような知性を持つ人間同士、それほど技術の差があるとは思えない。

 ベリサリウスだって地球の中世初期の人間だ。ここの文化レベルとそうは違わないだろうから、蓄積された剣術レベルもそこまで変わらないはず。


 この人の、能力が、異常な、だけだろう。

 俺はそう結論付けた。


 よし、明日からは内政の続きだ! 頑張るぞー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る