第4話 敵はリザードマン
敵の本隊が来るまで昼食にしようということで、俺はベリサリウスの家にお呼ばれして昼食をとることにした。
驚きなのは、まだ「昼」だということだ。もう長い間ここにいる気がするが、実は数時間しか経過していないのだ!
村のことやこの世界の情報をできる限り聞きたいところだが、エリスとこれから起こる戦のことで忙殺されるだろう。聞けるとしたら戦が終わった後だ。
出された食事は簡素なもので、キノコと山菜のスープと何かの肉を香草で焼いたものだ。ここだと鶏はともかく、牛を育てることは難しいだろうから乳製品は絶望的か。牛がいるのかも不明だけど。
人間のベリサリウスが食べている食事だから、俺にも問題なく食べれるはず。未知の食事を食べる危険性を余り考慮せず俺は食べることにした。
どれくらいの間ベリサリウスがここで生活しているか不明だが、あれだけ戦えるほどの体力を保っているのだから、問題はないだろうという安易な考えなんだけれども。
「ベリサリウス様、この世界のことなどお聞きしたいことは山ほどあるのですが、まずは目前の敵について教えていただけませんか?」
ある程度ベリサリウスとエリスが食べるのを待ってから、今回の敵についてベリサリウスに聞いてみることにした。
「恐らくだが、相手はリザードマン達だろう。飛龍を操れるそうだからな」
リザードマン? トカゲ人とか書いてる本を見たことがある。
直立歩行し、姿は人に近いが、爬虫類のような鱗とトカゲを擬人化したような顔にトカゲのような尻尾が特徴だったか。
ほんとファンタジーな世界のようだ。魔法とかもあるのかもしれない。
「リザードマンですか」
俺の言葉にベリサリウスは合点がいった風に頷く。
「ああ、お前はここへ来たところだから、人以外の亜人と呼ばれる者たちのことは知らなかったな」
「ええ。その通りです」
「戦が終わってから詳しく話をしよう。この村は小鬼族という人間から見たら身長の低い者たちが住む村だ」
ほうほう。ようやくあの角が生えた村人の種族名が分かった。小鬼族というのか。角が生えて小さいから小鬼族。よし覚えた。
「先ほど紹介したエリスはダークエルフという種族だ。肌の色が白に近い似たような種族が、エルフというらしいがまだ会ったことは無い」
「エリスさんから聞きました」
ふとエリスさんを見ると、もうベリサリウスを見る目がいろいろやばい。ベリサリウス様好き好き光線が出てる。せっかくの美人ががっつき過ぎて台無しだよ。
「それで、リザードマンだが、トカゲのような種族だ。見れば分かる。奴らは飛龍を飼育していると聞いた」
「なるほど。それで先ほどの襲撃はリザードマンだろうということなんですね」
「いかにも」
「ベリサリウス様ならば、どのような相手でも心配は無いと思います」
そう、ベリサリウスなら大丈夫だ。リザードマンなど捻りつぶしてくれるだろう。しかし、小鬼族とリザードマンでは分が悪そうだ。
数の差はあるのだろうか。小鬼族の戦闘能力はどのようなものなのだろうか。人間対人間の争いより予想がつかない。
「お前は相変わらずだな。いつもその言葉だ。お前の期待を裏切らないよう動くとしよう」
「プロコさんはどうされるの?」
どうするか言葉を選んでいたらエリスが言葉を挟んでくる。俺と二人の時とエリスは言葉遣いがまるで違う。猫被りすぎだろう。俺のことはほっておいてくれればいいのに。
「プロコピウスの武具はまだ用意できていない」
おお。さすがに武具無では役に立たないですものね。うん。自宅待機しておきます!
「ならば、私の指揮する隣にいればよい。書記官に武器は要らぬとお前はよく言っていただろう」
それは物の例えと思いますよ! 書記官だから記録することと物資の配給などの補給作業が仕事であって本気で無手はありえないっすよ!
しかし、ベリサリウスの眼光は俺に否と言うことを許さない。いや、言えるのかもしれないけど、俺には言えない......
「了解いたしました。拝見させていただきます」
来て半日だったが、またしても死と隣り合わせになるのか......言葉のとおり特等席で眺めるだけならいいんだけど。
「プロコピウス。食事中のところ悪いが私は先に出させてもらう。小鬼族と対応を検討する」
俺の返事も待たずにベリサリウスはまた出て行ってしまった。彼の後ろ姿をずっと目で追っていたエリスは、彼が扉を開けて出ていくと無言で俺のほうに振り向いた。
もちろん表情はノーマルモードに戻っている。
「プロなんとかさん、聞けましたか?」
何をとは言わずとも分かる。ベリサリウスがエリスをどう思ってるかだよな。どうすればいい。ベリサリウスはこの麗しのダークエルフを好きになってくれそうにない。
ベリサリウスの好みはぶっ飛び過ぎている上、彼はある意味面食いだ。豚のような女しか愛さないのだ。困った......何て言えばこの場を収めれる?
エリスが前かがみになって食い入るように俺に迫ってくる。胸の開いたワンピースのような服だから、胸の谷間が丸見えになるが実は俺大きなおっぱいには興味がない。
いや、俺の好みの話をしてどうするんだ! ダメだ混乱して来た。人間切羽詰まると意味不明な思考回路になるんだな。どこか冷静な自分がそう言っている。
「え、ええと、その」
「ええと?」
「ベ、ベリサリウス様は、ふくよかな女性が好みかと。ボンキュボンのバインバインじゃああれなんじゃないでしょうか」
さすがにこの言い方は無い! ダメだ。もうどうにでもなあれ。
「こ、これでもダークエルフにしたらついてるほうなんです!」
勢いよく立ち上がるものだから、おっぱいがブルンと振るえる。が、俺には何の感動も起こらない。すまないが大きな胸には興味はないのだ。といっても、エリスさんの胸は普通より少し大きい程度だと思う。
この普通ってのは日本人基準でだ。何を言ってんだ俺は。
「ま、まあともかく、嫌われてはいないんじゃないですかね。嫌いな人と一緒に暮らさないじゃないですか!」
「そ、そうね。そうよね。プロコさん」
「え、ええ。そうですよ!」
パアっと表情が明るくなるエリスに後ろ暗い気持ちを持ちながらも、この場は誤魔化せたことで俺も広場へ向かうことにしたのだった。
◇◇◇◇◇
広場に着くとすでに作戦会議が始まっているようで、広場に座り込んだ小鬼族の方々と幾人かの他種族の亜人の方々。円を囲むように座っているが中心にいるのはもちろん我らがベリサリウス様だ。
「ふむ。リザードマンの特徴はほぼ把握した。後はティンが戻ってから作戦を決めようではないか」
なんとベリサリウスと会話していたのは、緑色の鱗を持つ、ワニを擬人化したような顔――恐らくリザードマンだった。
小鬼族の村にリザードマンがいるのかよ! 自分たちの種族が攻めて来るというのに平然としたものだな。他の人たちも。
このあたりの事情は詳しく聞いていないので、味方にもリザードマンがいる。特に問題もない。とだけ把握しておこう。
何かに気が付いたかのように立ち上がるベリサリウス。てっきり俺のほうへ来るのかと思いきや、俺には目くばせ一つしただけだった。「分かってるだろう? お前なら」とでも言っているかのようだ。
全く分かってなかったが、頷きを返すと彼は満足そうに空を見上げる。
俺も釣られて空を見ると、手が鳥の翼になったような人型の少女が広場上空を飛んでいる。見る間に降りてきた手が翼の少女は、ベリサリウスの前に着陸し、膝を付く。
「ベリサリウス様。敵はリザードマン。数はおよそ百です」
少女の報告を聞いた小鬼族たちは一斉にざわめき始める。もしこの広場に集まった者が全てだとすれば、こちらの戦力は二十に満たない......
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