第八輪 演習だよ、全員集合 前

「演習合宿?」

 放課後の空き教室に集められた少女たちは、背広姿のレナの口から直接言葉を聞いた。

「そうよ。十八日から三日間、ロイス演習場で行うわ。この日はノースランドでは特別な日で、同盟もアリアンも連休を取って祝うの。軍も例外じゃないわ。湖畔式のロイスや私たちにはあまり関係ないから、この日に錬度を確認しておきたいの」

「それって、うちら皆行くってこと?」

 レナはその質問に対し、回答を用意していた。

「できれば、皆に来てほしい。この国はまだ巨人の運用については後塵を拝しているから、あなたたちの技量はロイスにとって貴重な存在よ。だからもし戦うときのため、より知っておきたいの。でも、無理はしないで。戦わせるために、ここに来てもらったわけじゃないから」

 やるよ。エリザは真っ先に声をあげた。

「うちは何度も助けられてる。だから返さないといけない」

「エリザの言う通りです。私ひとりの力でも、皆を守るために役に立てられるなら」

「あたしもやるぜ」

「わ、私も」

 班長がそれに続く。あとは、無言だった。だが各々の中で、決めたのだろう。その目は、それぞれの色を持っていた。

「エリザちゃんはもとより、あなたたち三人はネメシスとしてみてもかなり高い実力を持ってる。戦い方次第で、うちのセロウちゃんやシスルちゃんをも脅かしかねないほどよ。ほかの子たちも、正規軍にはなかなか見られない力を持ってるわ」

 まずは、アニタちゃんから。そう言ってレナは名簿を取り出す。

「相手に対してよく動けてるわね。リズちゃんは視野が広いからうまく立ち回れてる。リンちゃんは隠れた実力者ね、戦い方を変えるだけですごく強くなるわ。サラちゃんは戦場を俯瞰できるから指揮に向いてる。イサベルちゃんは防御が固いから長く戦える。ニーナちゃんは自由に動けると強いわね。パットちゃんとアディちゃんは格闘戦で真価を発揮する。ゾフィちゃんとカレンちゃんは射撃がうまいから支援を任せられる。みんな、大事な仲間よ」

 勝手に決めないで。そう言って立ち上がったのはニーナだった。

「私らのいいとこ知ってます、みたいなこと言って。機体の中身覗いただけでしょ。自由に動けると強い? 要するに使いづらいってことね。私みたいなのは軍には好かれない。戦力が欲しいからって、いい顔しないでよ」

「ニーナ、待てって」

「アニタはいいじゃない、そういうのになじめるから。ついてこないでよ」

 そう言って教室を出たニーナに対し、アニタは立ち尽くした。その明るい虹彩に迷いの色を見たレナは、小さく口を開いた。

「行ってあげないの?」

「私も、わかんないんです。あいつが何を求めてるか」

「さみしいのよ。一緒にいてあげなさい」

 そう言えるだけのものが自分にあるか、レナは苦笑とともに顧みていた。黒い箱を出て、砂漠で生きて、自分は大人になれたのだろうか。

 いいや。レナは首を振る。大人になれなかったとしても、大人としてすべきことがある。今していることはそれなのだ。

「参加する人は紙を取っていって。本人とホストのサインがいるからそれもお願い」

 紙を配ると、皆手に取って目を通していた。拒否するならば、別に見なくともよいのだ。彼女らに押し付けてしまわぬよう、三十三になったレナは慎重に言葉を選んできた。

 彼女の不安は、望まない形で戦場に赴く子が出ることにある。それに比べれば、誰も来ずに苦戦を強いられる方が気が楽だろう。ロイスの安寧と少女たちの平穏の狭間にあって、レナは矛盾ばかりを抱えていた。

 解散すると、順に部屋から出ていく。グレイスもエリザと数度言葉を交わしたのち去っていき、ふたりだけが残った。

「レナ。奴らの動きはどう」

「今のところはおとなしくしてる。ホームズが責任を取らされると思ったけど、そうでもないみたい。でも、いつ巨人を出してくるかわからないわ」

「テンペルのこと、知ってるんでしょ。あいつは何を見てるの」

「エリオはまだアドラスティアに、災禍に意味を見出しているはずよ。ノースランドに根付いた私たちと、いつか衝突することになるわ」

「災禍の意味、それが何かはわからない。でもあそこの居心地は悪くなかった。オルさんも、ツィナーもグリグも、アドラスティアで何かを感じられたんじゃないかな」

 それを聞いたレナは、年末にアドラスティアを訪れた日のことを思い返していた。

「オルコックはジグロの英雄ルディ。ツィナーはカラノスの反政府ゲリラを、グリグは政府軍の殲滅部隊を率いた。戦うことでしか自分を表現できなかった悲しき兵士たちね」

「兵士なんだ、死ぬときゃ死ぬ。ツィナーが言ってたね。これはグレイスには絶対言わないけど、うちは兵士でいいよ、レナ。うち、戦うことから遠ざかりたくない。兵士でいる限り、うちがしたことを忘れられるから。それで死ぬことになっても構わない」

「心をくろがねに染めた兵士のための場所。これについて、ネメシスはアドラスティアと同じよ」

 ねえ。そう続けたレナの表情は曇っていた。

「ピエラとキルヒの戦いを見たことがあるかしら」

「あるよ。ピエラは、あいつらは怖かった。まるで心がないみたいで。キルヒは純粋な暴力。あまりに混じり気がなさすぎて、近づけなかった。うちやセロウでも、こいつらには普通にやっては勝てないかも」

「ピエラは災厄の忌子と呼ばれる双子、キルヒは魔竜と呼ばれたエハンス騎士。災禍としては、オルコックをも上回る存在ね」

 レナはこの少女がまぎれもない災禍であることを、今一度思い起こしていた。オーナーズの子、黒い箱の脱走者、リーブスの娼婦。そして、グレイスの恋人。四月で十五歳になる少女は、既にあまりにも多くの顔を持っていた。

 レナはエリザに、セロウどころではない才能を感じている。それが開花すれば、巨人で無敵となれるような何かがあるような気がするのだ。なぜかそれに見覚えのあるような気がした。レナの記憶のどこかに、違和感として引っかかるものだった。

 エリザはレナともう少し言葉を交わしたのち、グレイスの待つ家に戻る。帰っても、その話はしなかった。エリザはグレイスが、自分が戦場に出るのをよしとしないことを知っていた。

 そして予定の日。ロイス邸の演習場には、精悍な男たちに交じって十四人の少女の姿があった。驚くべきことに、バターカップの少女たちはひとりも欠けることなくこの演習への参加を決めたのだ。ひとつは、実戦でないということだろう。二か月以上戦場から離れており、もし招集に応じるときがあれば万全を期しておきたい。操縦が苦手な子も、何か役に立とうと参加したのだ。

 演習一日目は主に基礎訓練を行う。黒い箱式の過酷な訓練を乗り越えた少女たちは、男の兵士も音を上げるメニューにも付いてきていた。これに驚きを隠せないのがロイスの守備隊員たちだろう。班長のラウラや身体能力の高いパットが付いてくるのは想定内だったが、ゾフィやカレンも十分様になっている。

 そうして足を限界まで疲弊させたのちに行われるのは、徒手格闘だった。守備隊員はこれに慣れていないものも多く、アディとパットはほとんど圧倒していた。

「おらおら、女の子に負けてるぞ。もっと気合い入れろ」

「しかし兄貴、この子ら強すぎるよ」

「言い訳をするな。どうせ敵には、負けられないんだ」

 技術を共有し、ひたすら組み手を行う。ここでも少女たちは高い実力を発揮した。いくら実戦形式と言えども、少女との格闘で力が出なかったというのはあるだろう。だが実際に負けている者も多かった。

「痛たた、降参降参」

「はっ、ごめんなさい、つい、やりすぎちゃって」

 制圧されタップする隊員に、横の少女が声をかける。

「うちのゾフィを、甘く見られちゃ困りますね」

 バターカップによって、訓練の質は上がっていた。続く陣形の確認も、隙を見せない動きができている。歩兵をまとめるウィシーはそれを見て満足げに頷いていた。ただ、少数だが動きに不安が残るものもいた。ウィシーは何も言わなかったが、夜戦訓練以降も目に余るならと心にとどめておいた。

 一日目のメニューを終え、少女たちはひとつに集まる。

「はあ、はあ、疲れた。やっぱボクシングとは違うよ」

「こらアディ、くっつかないでよ。うっ、汗くさい」

「ええ、これがいいんでしょ。バンデージのにおい好きなくせに、知ってるよ?」

「何ばかなこと言ってんの、離れなさい」

「私もー、イサベル受け止めて」

「パットまで。もう暑苦しいよ」

 三人組はいつも激しく動いているから、まだ元気が残っている。問題なのは運動が苦手な面子だった。

「ゾフィ、よく頑張った。シャワー行こ」

「うん、ちょっと、待って。まだ、動けない」

 仰向けに倒れたままのゾフィをヴィクがつつく。背中や腿の筋肉が張っており、本当に動けなさそうだった。

「あ、そこにも伸びてるやつが」

 ヴィクはゾフィの頭を撫でたのち、別の場所へと向かった。

「サーラ、おつかれ。手、貸そっか」

 差し伸べられた手を、サラは起き上がって弾いた。

「いい、自分で立てるから」

「強がりさんね。いいわ、見てたげる」

 足腰に力が入らず、倒れそうになる。見かねたヴィクは転びかけたサラを受け止めた。

「頼っときなさい。私も、頼られたいのよ」

「う、うん」

ありがとう。そこまで言ったサラはむすっとしているが、それでも以前よりは素直だった。

 シャワー室で一日の疲れを洗い落とす。女性兵士がいなかったため男女の区別がなく、守備隊は居残り教練、ネメシスはグースに行って場所を譲った。まず初めにたどり着いたのはニーナとラウラだった。このふたりが話すことはほとんどなく、他からは険悪だと思われている。かつてパウラがいた頃は、一番つるんでいたふたりでもあるのだが。

「ニーナ、よくそんな元気でいられるな。さぼったんじゃないか?」

「休憩がうまいのよ、いつも全力のあんたと違ってね」

「実戦でばてないようにな」

「私、戦わないよ。今日だってアニタに誘われたから来ただけ。家にいても退屈だし」

 ラウラにとって、それは聞き捨てならなかった。

「なるほどな。今日のメニューは個々人の意識でどうとでもなる。あんたよりずっとタフなパットだって、疲れ切ってるのはそのためだ」

「何が言いたいのよ」

「わからないか? そんな気持ちなら、参加しない方がいい」

 それを受けたニーナは、聞こえよがしに大きなため息をつく。

「はいはい、班長さんは言うことが違うわ。でもラウラ、もっと正直に生きなよ。マリを殺して、エリザを追い出したあんたは、もういい子では生きられないの。私が許さない」

 ラウラはシャワーを止め、個室のカーテンを開く。ニーナの事情を考えられる域は、とうに過ぎていた。

「おい。それ以上は」

 ラウラ、いるの? それはグレイスの声だった。はっと我に返ったラウラは、握りこぶしを緩める。ニーナはと言うと、他人事のようにシャワーを浴びていた。

「グレイス、後で話ある」

 入ってくるグレイスにすれ違いざま言葉を残す。頬は引きつり、声は震えていた。

「ニーナ、いたんだ」

「あ、グレイス。今日疲れたね」

「ほんと、久しぶりに運動したからね」

「じゃ、お先」

 そそくさと去っていく。グレイスはその表情に少しだけ引っかかりを覚えたが、深く気にすることはなかった。それよりも、ラウラが残した言葉の方が心配だった。

 全員がシャワーを浴び終わると、宿舎で休憩の時間があった。夜戦訓練が始まるまでのごく短い間だが、兵士上がりの少女たちにはそれで問題なかった。夜戦訓練は動きを確認する程度の軽いものだが、照明はすべて消すほか障害物も用意されており集中する必要がある。ここで動きを乱すものに、実戦は難しいのだろう。ある種ふるいのようなものだった。

 そしてウィシーは、名簿を手にひとりひとりの動きを見ていた。よく動けているもの、十分集中しており及第点は与えられるものがほとんどだったが、ふたりだけ、懸念すべき存在がある。それについては、翌朝に話すことにした。

 訓練が終わり、ようやく一日のメニューが終了した。もう夜は深く、必要ならば軽食を摂って寝るだけだ。皆今度こそは疲れがたまっており、まっすぐに宿舎に入っていった。

「ラウラ、話って」

 グレイスが部屋に出向いた。エリザにはすでに伝えてある。

 ラウラはベッドに横になっていた。表情は暗く、何かあったことは容易に想像できる。ゆっくりと起き上がり、グレイスの両肩に手を置いた。

「グレイス、正直に答えてくれ」

「う、うん」

 あの時、あたしがマリを殺したのか。ラウラの問いは、つまりそれだった。記録上は訓練中の事故ということになっており、責任はクラスメイトの誰にもない。

「ラウラのせいじゃないよ。教官は明らかにあそこでひとり減らそうとしてた。恐怖を植え付けるために。実際、あの日を境に皆は変わったと思う」

「でも、助けられた。あたしがコクピットを飛び出していれば、かろうじて爆発から逃れられたと思う」

「そうすれば確かに助かる可能性はあったけど、ラウラまで危険に晒された。仕方ないよ」

 だがニーナのように、この事故はラウラが引き起こしたものだと信じているものがいるのも事実だ。あの時ラウラはエリザの次に操縦が上手く、そして偶然マリの近くにいた。

 事実として、ラウラは助けなかった。それはラウラが切迫していたからであり、決して見殺しにしたわけではない。

 だが疑われる理由もあった。ニーナやパウラと組んで、マリやエリザ、ゾフィなど気に入らないクラスメイトに嫌がらせをしていたことも事実だ。ラウラがグレイスやヴィクとの和解に何年も要したのはそのためだ。両親に捨てられ、過酷な訓練を受け、半ば自暴自棄になっていたのだろう。心の弱さを、誰かにあたることでごまかそうとした。

 パウラの死とともにその動きは消えていったが、つまりニーナはその時の話をしているのだ。彼女は、悔いているのだろうか。

「ニーナは、何を求めてるんだろう」

「わからない。けど、言った通りのことを思ってるわけじゃないと思う。一斑でずっと一緒だったけど、アニタとマギーへの気持ちは本物だった。仲良し三人組で、自分が引っ張っていこうって努力してた。多分だけど、私たちが思う以上に繊細なのかも」

「あんな面の皮厚そうなのにか」

「だめだよラウラ。確かに私たちは全員が友達にはなれないかもしれないけど、でも全員が大切な仲間なんだから」

 ラウラは確かに激高寸前まで憤っていたが、今はもう怒りというものはない。ニーナの気持ちも、グレイスには理解できた。彼女は、半ばあきらめているのだろう。もう自分の手は汚れている。頻繁にマギーの話をするのも、あるいは贖罪なのかもしれなかった。そして、そんな過去をはねのけたラウラの強さを羨んでもいる。ニーナもまた、仲間なのだ。

「ありがと、グレイス。ちょっと楽になった」

 押しつぶされそうな夜が、誰にもある。ラウラだけではない。グレイスも、ニーナにも。その時に前を向ける強さは、果たして誰しもが得られるものだろうか。

「お互いさまよ。ずっと助けてくれてたし。ね、ラウラ。いつもありがとう」

 寝てるし。むっと頬を膨らませたグレイスは、しかし小さな笑みを浮かべ部屋を後にした。

 最後まで起きていたのは、三人部屋だった。

「明日からは巨人だね。パット、なまってない?」

「なわけないでしょ、機体がハウンドに替わって、さらに動きやすくなった。そう言うアディはどうなの? 操縦に癖あるらしいよ」

「大丈夫、ほら私って、感覚で何でも動かせちゃうし」

 そう嘯くアディの横で、イサベルはいつも通り微笑んでいた。

「もう、あんたたちってほんとすごいよね。新しい機体にもすぐ慣れちゃって。実際、班長たちともいい勝負するんじゃない?」

「いや、きついでしょ。一番そうでもなかったヴィクでさえ、もう手が付けられないよ。パットはどう、いけそう?」

「今は無理だね。でもラウラと一緒に練習してるから、いつかは」

 そうですわ。不意にアディが声をあげる。

「リンさんのこと、どう思われます?」

「リンかー、あの子は強いよ。ずっとカレン守ってるのに、みんなと同じ動きできてるもん」

「それなんだけど、リンってカレン以外と一対一で戦ったことないんだよね。連隊でもそういう教練はやらないし」

「デビルズの時は、カレンもゾフィくらいにはなってたから、だいぶ自由に動けてたね。絶対私たちより強いよ」

 話が弾む。三人は同じ家に住んでおらず、一緒に寝ることは少ない。だから嬉しいのだろう。無論明日のことを忘れているわけではなく、ひとしきり話したのち寝ることにした。

 駐屯地全体で見れば、一番遅くまで起きていたのはこのふたりだろう。ウィシーは夜戦訓練を経て、やはり伝える必要を感じていた。

「ニーナちゃんと、リンちゃんね。確かに、ふたりの動きは気になった」

「ニーナはいい。戦わせなければいいだけだ。奴にはもう、戦うだけの理由がない。気の迷いで来ただけだ。帰してやればいい」

「それは、そうね。少し厳しいかもしれないけど、彼女に必要なこと。そして、問題なのが」

 レナは含みを持たせた。ウィシーがそれに続ける。

「リンの方だ。カレンを気にしすぎだ。責任感が強くてよく気が回るのはいいんだがな。補聴器を使い始めてからは、カレンは他の連中と遜色ない。きつい言い方だが、心配するだけ無駄だ。そのせいで無理が生じて、結果全体に影響が出ている」

「ただあの子、実力はすごいものがある。それこそヴィクちゃんや、あるいはラウラちゃんにも匹敵するくらい」

「かもな。だからこそ、自分だけで戦ってもらう必要がある。今の奴は、ひとりで戦えているとは言えない」

 演習中に書いたメモをまとめつつ、明日のメニューを調整する。この演習の目的は守備隊の技術向上はもちろんだが、バターカップを正式にネメシスに編入することもある。当然学校にはあまり通えなくなるため、希望者しか募れない。自分たちがしてきたからといって、安易にそれを求めてはならない。繰り返しの問いを、ふたりは再度自分自身に投げかけていた。

「何人集まりそう?」

「エリザ、グレイス、ラウラ、ヴィクトリア。あとはわからん。明日明後日の動向次第だ」

「そうね。その四人は、覚悟が決まってそう」

「奴らが動き出す前に、どうにかロイスの地盤を固めねえとな」

 レナは頷く。安息の時は、長くは続かない。アドラスティアがノースランドを災禍の渦に巻き込む時、ロイスは自らを守り通さねばならないのだ。

「もう寝ましょ。明日は早いわよ」

「ああ、そうだな。お前も部屋に戻れ」

 え。レナはわざとらしく口に手を当てる。

「なんで、ウィシー。今日は寝かしてくれないんじゃないの」

「いいから早く寝ろ」

「もう、いつならいいのよ」

「わからん。今はすべきことが多すぎて、お前を見てやれる自信がない」

「いいの、見てくれなくて。ただ、愛してさえくれれば」

「それならいつもしてるだろ。今日は無理だ、今度にしてくれ」

「はあい」

 ふくれっ面のレナを返したのち、ウィシーはもうひとつすべきことを思い出していた。





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